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えぴそど75-勇18 白緑の実

スタンレー山脈の麓付近にある洞窟。


元々自然に出来ていたものに人の手を加え、山を突っ切るトンネルの役割を果たしていた。


しかし、近年では街道側の整備が進んだ為、この足場の悪い行路をわざわざ選ぶ者も少なく、足場は荒れ、行路に設置されていた光る魔鉱石も、既に只の石ころになっていた。


「エリシア、滑りやすいからといって、足元ばかり見ていると頭をぶつけますわよ。」


「はい、気を付けます。…それにしてもベル様、この雰囲気は不気味です。何かに見られている様な…。」


一行が洞窟に入り、まだほんの数分の所。


振り向けば洞窟の入り口はまだかろうじて見える程しか進んではいない。昼間であれば十分陽の光が差し込むであろう場所だ。


ベルもエリシアの言う様に、何かしらの存在を感じていた。蝙蝠の類かと松明をかざし辺りを見るが、生き物の姿は捉えられない。


「とにかく今は前に進みましょう。1時間ほどの距離ではある筈ですが、このペースだと倍はかかってしまいそうです。」


頭上から落ちてくる水滴と湿気からか、足元がとても滑り易く、慎重に進まざる得ない。


そこから更に進むと、天井が高くなり、天然の魔鉱石が薄暗くではあるが光っているのが見えた。


「おい女、少し止まれ。」


不意に荷車の後ろに付いて来ていた男の言葉が耳に入り、ベルとエリシアは咄嗟に荷車を止め、辺りを警戒した。


「…ベル様、ボックスサーチを使いますか?」


エリシアは小声でベルに探知魔法を使うかどうかの指示を仰ぐ。


「いえ、お待ちなさい……もし、貴方、よろしければ教えてくださらないかしら。何か居るの?」


ベルは後方の男に質問をするが、返答は無い。

男が居た方向から足音だけが近づいて来る。


ベルは持っていた松明をエリシアにそっと渡し、背に付けていたロッドを前方に構える。


「分からないのか?この感じはリッチ…いやレイスか。ついさっきまでここにも何匹か居たぞ。だが、レイスにしては不可解だ。なんだ?何かあるのか。」


男はベルの隣までやってくると、道の先を見つめたまま、様子を伺っている。


「エリシア、荷車の後ろに退がり、何かあればホーリーウォールをかけられる様にしておきなさい。」


「分かりました。」


エリシアが後ろに回り込む前に、男が前に向かい歩き始めた。


ベルはエリシアが貨車を後ろから押すような姿勢になった事を確認すると、荷車を片手で牽きながら前に足を進めた。


「貴方程の方でも警戒するとなると、相当強いのでしょうか。」


「強い?いや…違うな。レイスは俺からすれば只の雑魚だ。数は多い様だがこんな奴らに遅れはとらない。それよりも…。」


「……何だと言うのですか?」


「意図的に後退している。まるでおびき寄せている様な…アンデッド系モンスターに組織的な行動が出来るとは思えねぇが。」


「…統制している者がいるとでも?」


「この数のレイスを統制するだと…ははっ!楽しくなってきたな。」


男はどこか意気揚々となっている。

その姿を見たベル達の不安は募るばかりだった。


洞窟を更に数百メートル進む。

相変わらず周りには何かの気配を感じるものの、攻撃してくる気配は無い。


松明一本の薄暗い光の中で、足場も悪くいつ敵が襲ってくるか分からない状況は、疲れた身体に重くのしかかるプレッシャーとなっていた。


「おい、そろそろ来るぞ。お前らはここで待ってろ。」


男が左手を横に広げベル達を静止する。


「…分かりました……あの…ありがとう。」


「あ?邪魔されたくねぇだけだ。」


そう言うと男はゆっくり歩いて行き、松明の届かない所まで進むと、急遽魔物の叫び声が聞こえた。


「ブモォォォォォォォォォ!!!!」


ベル達は反響するその声に身体をビクつかせ、武器を構える。負傷者達は手を組み必死に祈っていた。


「…ベル様…。」


「ええ……大丈夫よ皆さん!彼がきっとうまくやってくれるわ!」


前方からは激しい戦闘音が木霊し、時折魔法陣と炎が各所で輝くのが分かった。


「!?エリシア!!ホーリーウォールを!!」


警戒していたベルが突如と叫びながら横に走りだした。エリシアはその声にすぐ詠唱を開始すると、荷車を白く輝く壁が包み込んだ。


ベルは走り出すと同時に魔法を発動し、光の玉を洞窟の上部に放つ。光の玉は花火の様に登っていくと、発光弾の様に辺りを照らし始めた。


「エリシア!そのまま障壁を絶やさないで!」


「はい!ベル様!!」


ベルは驚愕した。

気付かなかっただけで、周りを5体のレイスが囲っていたのだ。


レイス。

アンデッド系モンスター。討伐ランクはB。


空中を浮遊し、様々な状態異常スキルを使用してくる。身体の上下が反対に向いた状態で漂っており、顔の部分は大きな口のみになっている。また、鏡を両手で持っているのが特徴だった。


ベルはレイスの放った攻撃を躱す。

紫色に発光したそれは鬼火の様に飛んで来ており、地面に当たると、火炎瓶が割れたかの如く周りを燃やし消えていった。


その攻撃は止むこと無くベルとエリシア達に向け放たれる。


(こうも波状に攻撃されては詠唱ができませんわ………彼は!?)


男が進んで行った方向を見ると、男は巨大な牛型の魔物と戦っており、同じくレイスに囲まれ攻撃を受けていた。


(どのみち、エリシアの魔力が尽きる前までが勝負ですわね…)



ベルは意を決して立ち止まり詠唱を始めた

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