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えぴそど72-勇15 蘇芳の実

「そちらの方…お怪我はございますか。」


ベルは男に対し、礼を言うつもりは無かった。

周りを巻き込み地面を凍らせた事により失われた命もあったかもしれないのだ。


それでも、彼が来なければこの場に生存者がいる筈も無く、せめてもの褒賞として回復を申し出たのだった。


「怪我?ある様に見えるならお前の目から治せよ。」


男は瞬き一つしないままそう答える。

怪我どころか返り血ひとつついていないその姿に、ベルは底知れぬ恐怖を感じた。


男の目の下には深く濃いくまがあり、顔は青白い、一見すると病弱で今にも倒れそうな様に見えた。


「そうですか、それならいいのです。ではごきげんよう。」


男の横柄で不躾な態度にどこか嫌悪感を抱き、ベルは振り返えるとエリシアの方へと歩き出した。


しかし、その後ろを男が無言で付いて来る。


ベルは少し不機嫌な表情を見せ、振り返るが、男は何食わぬ顔でこちらを見ているだけだった。


「何か御用でしょうか?もし助けた礼が必要だと言うのであれば、お願いした覚えはありませんし、あれで助けられたと思いません。」


「あ?礼?助けた?何を言ってるんだお前は。脳みそ溶けてんのか?」


「………では、なぜ後ろを付いて来られるのでしょうか。」


「あの奥にある家に食い物がねぇか見に行くんだよ。止めてみるか?」


女は横目で家を確認すると、身体を横向きにし、顎で男に先に行く様に促した。


男は何事も無かった様に民家に向かい、中に入っていった。


辺りは日が暮れ始めている。

カーニャや兵士達の遺体だけでも埋葬してあげたかったが、魔物の死体に埋もれ最早困難となっている。


「ベル様、如何なさいますか。馬もいない状況で、負傷者4人を連れてジャンカーロに戻るのは厳しいかと。」


「報告が無ければ明日には更に増援を送って下さっているかもしれません。なるべく奥の民家で今夜は夜を明かしましょう。」


「分かりました。あちらの荷車を使い、皆さんを家に運びます。」


「ええ、そう致しましょう。」


二人は近くにあった荷車を使い、負傷者を奥の民家へと運び、他の民家を回り食材を集め、簡単な調理を行うと負傷者達へと配っていった。


「こちらを飲めますか?温かいスープですよ。」


「あ…あ、ありがとう…。」


「お気をしっかりとお持ち下さい。きっと助かります。」


負傷者は4人とも意識はあるものの、苦しそうだ。

魔法で表面の傷は治せても、根本的な消耗には効かない。


特に内蔵の損傷や、体内に侵入した毒などの治療には、最上級スキルに値する魔法でなければ効果が薄い。


ベルが使えるのは上級までだった為、負傷者を早く医者に見せる必要があった。


「何か御用ですか。」


ベルは目に傷を追った負傷者にスープを飲ませながら、家に入って来た男に向け、振り向くこと無く冷たい口調で問いかけた。


「ああ、うまそうな匂いだ。俺にもくれ。」


もちろん先程の無粋な男だった。


「……エリシア、代わって下さい。こちらの方へこのスープを少しづつ。」


エリシアに目の見えない負傷者を任せ、ベルはスープを木の器によそった。


「そちらにおかけになりなさい。」


「あ?こんな辛気くせえ場所で食わねーよ。」


ベルは小さい溜息を出した。


「そうですか、ではこちらをどうぞ。」


「おお。じゃぁな。」


「お待ちなさい。貴方、施しを求めておいて礼の一つも言えないのですか。」


「施し?礼?はははっ…お前死にたいのか?」


男は瞬きも無くベルを睨みつけた。

不穏な空気が流れ、エリシアと負傷者も震えていた。


「殺めたいのであればそうなさい。ですが、あなたのその態度は間違っています。言えないのであれば、そちらをお返しなさい。」


「…………面倒くせぇなぁ…。」


男は右手で頭をガシガシと掻き、改めてベルの方を向くと、ベルが最初に座る様に言った場所に腰を下ろした。


「スープを頂きます。ありがとうございます。」


男はふてくされた様に口を尖らせ、あからさまな棒読みで礼を読み上げた。


もちろん不服だったが、男は欲しい物をどうやっても手に入れたいと思う性分だった。礼を求められたのであればそうするしか無かった。


「…ええ、どうぞ。ゆっくりお召し上がりなさい。」


男がその時見たのはベルのとても優しそうな笑顔だった。


不意に心臓は強く脈打ち、胸が痛い。

男に今まで無かった感情が芽生える。しかしそれが何なのかは本人には分からなかった。


気を紛らわす為、一気に喉に流し込むが、スープの味が分からない。


「…?……おかわりもありますわよ。」


「あ、ああ……ま…まだ…大丈夫だ。」


熱があるのか顔が熱い気がする。

それより何より顔を上げられない。


目の前にある器から顔を上げ、その先にある女の顔を見る事ができなくなっていた。


「……うまかった!じゃあな!!」


男は急に立ち上がり外に出ると、2軒隣の家に入っていった。


ベルは何事も無かった様に負傷者の介抱を続け、エリシアと交代で警戒と仮眠を取りつつ、夜を明かした。


しかし、増援の来る気配は無く、死体を食べに昨日とは別の魔物も集まり始めていた為、ベル達は自力で避難する事にした。



ベルとエリシアは

負傷者を荷車に乗せ森の獣道を進んだ

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