表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/258

えぴそど71-勇14 群青の実

「そちらの方!動かないで!回復魔法をかけるまでじっとしていていなさい!」


その村は魔物の襲撃を受け、多くの人々が傷ついている。各地で魔物の送還が活発化しており、町や村が度々襲われる事態に陥っていた。


「エリシア!カーニャ!貴女達は西側兵の援護にお行きなさい!あの柵が破られれば総崩れになりますわ!こちらは私が受け持ちます!」


「はい!分かりました!」


村の入り口の方では激しい戦いが続いている。

増援で来た15人程の兵士達は十分頑張ってくれていたが、魔物は増える一方であった。


「隊長!西側の柵が破られそうです!」


「防衛線を下げますか!?」


「ダメだ!正面門に流れが出来てしまってからでは遅い!西の柵に人を集め押し返せ!ここは我等だけで抑え込むぞ!」


「「「おおぉー!!」」」


村の回りは丸太を使い、柵を築いている。


が、オーク種やベアー種などの大型モンスターまで集まってきており、ただの木の柵では破られるのも時間の問題となっていた。


「このままでは全滅ですわ…さて、どうしたものかしらね…。」


茨の刺繍が施された真っ白なローブを身に纏ったその女は、傷ついた村民に回復魔法をかけながら思考を張り巡らす。


魔物一匹一匹の強さは大した事は無い。

ただただ数が多いのだ。物音と血の匂いを嗅ぎつけてか、多種多様の魔物を呼び寄せてしまっている。


魔物同士で争っている場所も見られるが、そのほとんどが兵士達に襲いかかっていた。


ゴブリンや昆虫系の小型種は、柵の隙間から侵入してきており、驚異では無いにしろ、兵士達は手を取られ柵の防衛に集中出来なかった。


この村の自警団は最初の襲撃を食い止めたものの、既に虫の息。回復魔法でなんとか命を繋ぎ止めているに過ぎない。


(西の柵はいよいよ限界ですわね。この村も、もって後10分といったところでしょうか…。)


女の見つめる先にある、西側の柵がついに崩れた。

柵の正面に居たヤングオークとブラッドベアーがゆっくりと柵内に入ってくる。


その脇からは小型の魔物も雪崩込んで来た。


「カーニャ…。」


魔物による西側の兵の蹂躙が始まった。


爪で切り裂かれ、牙で貫かれ、棍棒で叩きつけられ、辺りが紅く染まっていく。多勢に無勢、四方八方からの攻撃に成す術が見つからない。


その中には女がカーニャと呼んだ者も居た。


女と同じく茨の白いローブを着た若い少女だったが、今まさに四肢がもぎ取られ、悲痛な叫びを残したまま魔物の影に消えていった。


もう一人のエリシアがこちらに走って来た。


「ベル様!!もう駄目です!カーニャが!…早くここから逃げましょう!!」


「…無駄よ。逃げ道はもう無いわ。エリシア、ここまでよ。後は、我等が神に祈りを捧げましょう…。」


そう言うとベルと呼ばれた女は膝を突き、両手を組みながら目を閉じた。


その姿を見たエリシアは、こちらに向かってくる魔物に恐怖を抱きながらも、同じく膝を折り祈りを捧げる。その身体は大きく震えていた。


「我等が偉大なる神よ。我等が人に赦す如く、我等の罪を赦し給え…。願わくば、その大いなる慈悲の元に………。」


ベルはすぐ近くまで魔物が来たことを悟り、唇を噛み締めた。そして、魔物がベルとエリシアに襲いかかる。



その瞬間────



「雑魚が。」


その言葉と突然の轟音にベルが目を開けると、周りに居た魔物が消えていた。


正確には消えていた訳ではなく、魔物の残骸が辺りに飛び散っている。


そして、その目線の先に一人の男が立っていた。


銀髪をなびかせ、顔の半分が隠れようかとする衿の長いコートを羽織り、両手は包帯で幾重にも巻かれていた。


「強そうなのはいねぇな…へっ。」


男は不意に左手を上げ、円を描くように回すと、男の両足に青白い魔法陣が現れ、みるみる内に地面を凍らせた。


凍り始めるのを確認すると、男は門の方へと走っていった。


それはベルとエリシアの足元も凍らせ、二人は冷たさと痛さに顔を歪める。


「くっ、エリシア!エリアヒールを準備なさい!私がノトンフレイムで氷を溶かします!」


「は、はい!」


エリシアが集中し始めると二人を包む魔法陣が現れる。それを確認しベルは足元近くに炎の魔法を放った。


「きゃっ!!」


「うっ…!エリシア!今ですわ!」


豪炎が氷を僅かに溶かすと、すかさず足を抜き出し、エリシアが回復魔法を発動させる。


靴やローブはボロボロになってしまったものの、火傷の回復には成功した。


ベルは門の方を確認すると、先程の男が目にも止まらぬ格闘術で魔物を次々と倒していく。殆どの魔物は足を凍らされた事により身動きが取れず、抵抗する間も無く男に殺されていった。


「ベル様…あの者は…。」


「分かりません。……エリシア、私達は今の内に生き残った方の救出を続けましょう。この氷をなんとかしなければ。」


「はいっ!」


遠くでは男が時折奇声をあげながら戦っているのが分かったが、ベルとエリシアはそちらを振り向く事無く、救出活動を続けていった。


しばらくすると、戦闘音は聞こえなくなり、一瞬で地面の氷も姿を消した。


それに気付き、改めて辺りを見渡すベル。

柵や門に近い場所に居た兵士達は恐らく全員死んでいる。村人も生き残りが4人だけ。


途方も無い数の人と魔物の死体が転がり、辺りは異様な匂いと雰囲気を放っている。


その中央に先程の男がこちらを向いて立っていた。

ベルが見ている事に気付くと、男はゆっくりとこちらに向かい歩いて来た。


ベルも応える様に立ち上がり、男の方へ歩き始める。



この出会いが神々のシナリオを狂わせる事になった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良かったらポチって下さい!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ