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えぴそど68 月明かり

「うぉぉぉぉ!まじかよ!すげぇ!!」


合流したヤッパスタにユージリンが今までの話を説明している。ヤッパスタはかなり興奮しているのか、酒のピッチが早い。


「でもどこで知り合うんだろ。拳王様は基本的にアスタリアから出る事を禁止されてるって聞いたけど。仮に検問を突破したとしたら、それこそ大問題よね。パーフラ教徒にこっちの入国許可が出るとも思えないし。」


「んーふふ(笑)。拳王はしょっちゅう帝国に行ってるよ(笑)。ベル・ホロントと出会ってからは月の半分はあっちに居るんじゃないかなー。それに彼にとって帝国侵入は息するより簡単だよー。」


「そんなに!?え?それっていいのフルブライトさん。」


「良くは…無いでしょうが、どうする事もできません。恐らく北側ギザの森と反対になる、南側の国境、ジエルド山脈を超えているのでしょう。かなり強い魔物ばかりの道ですが、拳王様なら…。」


「でもこのままじゃ拳王と賢者が結ばれる事は無いんだよねー。」


「それぞれの国が許さないでしょうね。」


「そ!ここからは私も聞いた訳じゃないから分かんないけど、拳王は帝国を滅ぼして、なんだったらアスタリアすらも滅ぼして賢者と一緒になろうと思ってるんじゃないかなー。その為にも軍勢を率いたいのかも。」


それぞれの国を滅ぼす。

その言葉を聞いて俺は心臓が強く脈打ったのが分かった。


そもそも、お互いの勢力に居る人間を憎む呪いにかけれられている筈だ。天舞だって例外では無いだろう。


でも現に、ハピスさんと皆の様に、国の垣根を超えて食卓を囲む事が出来ている。それが可能であれば、俺と拳王の着地点は、もしかしたら一緒なのでは無いだろうか。


それぞれの国を滅ぼし、新しい国を創る。

誰も憎しみ合う事の無い、それこそ争いに身を投じる事も無い世界を…


となると、邪魔になってくるのは勇者と魔王か。

そろそろ考えないといけない問題ではある。


俺がそんな事を考えている間にも、メイエリオとヤッパスタがハピスさんに質問責めだ。フルブライトさんが知らない情報もあるのか、時折耳がピクついている。


ん?待てよ?


「あの…。」


「あははははーそうそう!メイエリオの言う通りだよー(笑)。で、なんだいー康介?」


「結局ジャクシンさんが俺と婚約って言ったのは…。」


「あーまだ続きだったねー。ごめんごめん。拳王と賢者の話がこんなにウケると思わなくてー。」


そう言うとハピスさんの表情が少し冷たくなったのが分かった。


「テオドラ・ジャクシンの目的はもちろん戦争を起こさせない事だね。なぜなら彼女の母親、アンドレアの病を抑える薬は帝都に居るとあるアルケミストにしか作れない。万が一そのアルケミストが死んじゃう様な事があればー。」


その言葉を聞いて、フルブライトさんの空気も冷たくなったのが分かった。


「え、ジャクシン様のお母様って具合が悪いの?」


メイエリオがフルブライトさんを見て問いただすが、フルブライトさんは黙ったまま首を横に振る。


「このお話はここまでにしましょう。あまり大衆の目がある場所で話す内容では無くなってきました。」


俺達が座っている席は、酒場の二階にあるVIPルームみたいな所で、他の客は皆一階に居るのだが、壁がある訳では無いので話を聞こうと思えば聞けてしまう。


「そーだねー。とりあえず康介次第でこの国のドロドロした権力争いに、新しい風を巻き起こす事が出来るって事だね。」


事情はだいたい分かった。

後はジャクシンさんに直接会って話を聞いてみよう。俺に出来る事なのであれば、一緒に考え解決策を見出だせるかもしれない。


「分かりました。まずはジャクシンさんと話がしたいんですが、フルブライトさんから取り次いでもらえないでしょうか。」


フルブライトさんは若干口元を緩ませ、ワインを飲んだ。


「ええ、ですが私が動かなくとも、あちらからやってくると思いますよ。そうですね…まあ、明日辺りにでも。」


「そうですか。じゃぁ私はこのまま待つ事にします。」


こうして宴の夜は終わりを迎えた。


フルブライトさんと別れ、ハピスさんはそのまま家に泊まる事になった。


結構な量を飲んだ筈だが、気になる事や考える事が多く、あまり酔えていない。ふっ、モテる男は辛いな。


「そういえばさコースケ。魔力操作が出来る様になってたよね?遅くなっちゃったけどおめでとう!」


「そうだ!確かにできたって言ってたな!コースケ!おめでとう!明日からもどんどんやっていこう!」


「ああ、ありがとう二人共。これで俺も槍で戦える様になったら面白いんだろうなあ。」


「旦那、いっちょ見せてくれよ。」


ヤッパスタは店から勝手に持ってきた、エール入りの樽型ジョッキに葉っぱを浮かべ、俺に渡して来た。


俺は受け取るとキラハから言われた通り、指先に集中し力を送るイメージを抱く。皿より葉っぱまでの距離がある為、最初は何も起こらなかったが、徐々に葉っぱが回りだした。


「おー!凄い凄い!本当に出来るじゃんコースケ!」


「コースケ!そのまま葉っぱを上に突き上げる様に一気に魔力を注いでみるんだ!」


「康介ふぁいとー。」


「んんんん~こうかああああ?おぉぉぉぉ!!」



その瞬間


ボフッッッッ!!!!!



葉っぱはもちろんエールまでもがジョッキから弾け飛び、葉っぱを覗き込んでいた俺達はびしょびしょになった。


頭上からはパラパラと残りのエールが霧雨の様に降ってくる。そして俺の頭の上に、舞い上がった葉っぱがひらひらと着地を決めた。


『…………ぷっ…あーはっはっはっはっはー!!』


びしょびしょになったお互いの顔を見合わせ、俺達は互いに笑い抱き合い、肩を組みながら家へと帰っていった。



月明かりが美しい夜

今の所上手くやっていけている

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