えぴそど65 貴族達
「あの!ジャクシンさん!」
「「なんだ。」」
おおふ!父娘どっちも反応した!
同時に見られるととんでもない威圧感なんだけど。
「えと、あのですね。」
「貴様は黙っていろ。後で聞く。」
「え…あ…はい…。」
せっかく話しを合わせようと意気込んだのに、ジャクシン娘からの一言で、鼻先にパンチを受けたかの如く俺は萎縮してしまった。
俺を置き去りにしたまま、父娘は何かを話している。
正直俺はもう上の空で内容をちゃんと聞いていなかった。
そして、ヒートアップしているのか口論になりかけた所で、話しながらそのまま護衛を連れ馬車の方へ向かって行ってしまった。
聞いてくれるんとちゃうんかーい!カーイ!カーイ!
「お疲れ様です、コースケ様。」
フルブライトさんが残り、声をかけてくれる。
「ありがとうござます。あの、婚約っていつからどうなってそうなったんですか?」
「ふふっ、コースケ様にとっては寝耳に水。正に青天の霹靂と言った形でしょうが、今しばらく彼女にお付き合い頂きたい。色々と複雑なのですよ。」
「ええ、私で出来る事ならお手伝いしますが、婚約となるとちょっとビビってしまいます。」
「そうですね。その点も含め説明をしていきたいと思います。みなさんで一度ブーメルムに戻りましょう。」
「分かりました。では行きましょう。」
「待てよ。」
馬車に向かおうとする俺達を止める声は拳王だった。
メイエリオが露骨に嫌な顔をしている。
「コースケだったけか。まだ全てを納得した訳じゃない。これが俺の全力だとは思うなよ。」
「まだつっかかる気か?さっきまでの潔さはどうしたんだ。」
「お前がジャクシンの名を狙っていると分かった以上、このまま黙っていられないと思ってな。」
「別にそう言うのには興味は無い。ただ、君の傍若無人な態度に迷惑している人がいる。その人達の願いなら俺は君を静止してみせるよ。そして、君の攻撃は俺には届かない。」
「はっ、どうかな。これを見ろ。」
拳王は手に巻かれた包帯を見せてきた。
よく見ると所々に見た事の無い文字が刻まれていた。
「これは俺の強大過ぎる力を抑える呪印だ。今の俺は半分も本気を出せない様になってるんだよ。」
やばい。
やっぱり邪眼系の飛の人だったわ。
「………そうか。それでも負けないよ。次に戦う事があれば、それこそ命のやり取りになると思う。こちらも覚悟を決めるさ。」
「やっぱうぜぇな、お前。」
「与えられた力に溺れず、自身の振る舞い方をまずは学んだ方がいい。君は自ら敵を作りに行っている様にしか見えない。最初にも言ったが、俺達は君と戦いたい訳じゃ無いんだ。」
「………ふんっ。」
拳王はそのまま何も言わず何処かへと行ってしまった。
「やっぱり私あいつ嫌いだよ。」
メイエリオが冷たく呟やくと、フルブライトさんが苦笑いを浮かべながら宥めた。
「如何にこの国最強と言えど中身は子供なのです。あれでも3年前と比べると、カカ様のご指導で見違える程に成長しておられるのですよ。」
「あれで成長って、3年前とか絶対会いたくないだろ。」
「ははっ、そう仰らないであげて下さい。いざとなれば民の為に最前線で戦ってくれる戦士なのですから。」
ヤッパスタの肩をポンと叩きフルブライトさんは拳王の背中を見つめていた。
そうこうしながら街に戻る為、馬車に戻っていると、すれ違う兵士達が俺に対し称賛をしてくれた。
「凄かったぞ!裸だけど!」
「強いなぁ!裸なのに!」
「次は勝てるぞ!裸だけに!」
この世界の男の裸体に対する執着心が異常だ。
これは男の裸を題材にした何かを売り出せば商売のチャンスでは無かろうか。
馬車に乗り込みそんな話しをしていると、メイエリオから、ほんの少し前に男性同士の恋愛を描いた小説が流行っていたと聞いた。
それは、男女関係ない程の爆発的ブームを起こしたらしい。
世界は変わろうとも、どこの世界にも似た様な文化はあるんだなぁ。ジューちゃんに今度会う事があったら教えてあげよう。
ちなみにメイエリオはトモに乗っていない。
トモに乗りたいと小さく呟いたシュナの意向を叶える為、ヤッパスタがシュナと一緒にトモに乗っている。
一つ言っておくが、俺はまだトモに乗っていない…
そして、トモに乗ったヤッパスタを見ていると、どうみても山賊にしか見えなかった。
馬車の中ではフルブライトさんが、ジャクシンさんについて説明を始めてくれた。
ジャクシン家の家族構成や現状の状況など聞いていはいたものの、聞けば聞くほど自分が関係無い気がしてならない。
「あの、フルブライトさん。その流れでなんで私なんですか?」
「そうですね……これはここだけの話にしておいて頂きたいのですが…。」
フルブライトさんは少し話し辛そうに辺りを見渡し話を続けた。
「カカ様は少々焦っておられるのです。先代六代目の拳王様のご子息ホーマ・ミュラー伯爵と、先々代、五代目拳王様の家系になる、現当主ロイド・ヴィガルド伯爵との権力争いが原因です。」
でた貴族の権力争い
なんともきな臭い話になってきた
 




