えぴそど64 決着
俺は右手を突き出したまま拳王を見ている。
「どっちだ、やるのかやらないのか。俺か俺以外か。」
「は?…いや、これで終わりでいい。俺の負けにしておいてやる。」
「そうか、それは助かる。だけど、この勝負は君の勝ちにして欲しい。拳王に勝ったと言って、変な奴にこれ以上絡まれても困るからな。」
「俺を変な奴だと言ってるみたいだぞ。」
「違うとでも?」
「はっ…。分かった。じゃぁ俺が今からもう一つだけスキルを使ってやる。それで倒れとけ。」
拳王は少し笑いながらそう言うと、鉄甲をクロスし下方向に薙ぎる。スラッシュの拳技版の様な光が俺の方向に飛んできた。
恐らく粉塵の中で、兵士達の方に光が見える様にしてくれたのだろう。
『カキィィィィィ』
【経験値50を獲得しました】
俺は当たると同時に横向きに倒れ、同時に身体強化を解除した。
拳王のスラッシュにより粉塵が完全に薄くなり、兵士達も視認できる程になると、拳王はジャクシンパパがいる方向に向け右手を掲げた。
兵士達の居た方向から一気に拍手や歓声があがる。
彼らからすれば、拳王の大技が入りトドメまで決まった後に、俺が倒れている様に見えただろう。
俺は横目でその姿を見ていると、トモに乗って走ってきたものの○姫…じゃなくて、メイエリオが目に入った。
「コースケー!!」
トモが止まると同時に俺の頬を舐め、メイエリオが降りると俺の肩を抱き寄せた。
「大丈夫なのコースケ!?」
「ああ、全く問題無いよ。少し擦り傷があるくらいかな。」
「良かった。本当に良かった。」
「顔面をぶっ飛ばすことができかなったよ。その代わり鉄甲を少し壊してやった。これで勘弁してくれ。」
「何言ってんのよもう。」
メイエリオは涙を浮かべながら笑っていた。
程なくして、ユージリンやヤッパスタ達も駆け寄ってくれた。
俺は難なく立ち上がると、改めて皆から労いの言葉をもらう。その間にトモが回復魔法をかけくれ、擦り傷などが治っていく。
「ありがとうみんな。今日は早起きで疲れたよ。風呂に入って呑みに行こうぜ。」
「ああ!行こうコースケ!俺は凄い感動したよ!あの拳王相手に一歩も引けを取らないだなんて!」
「俺は旦那が手を抜いたんじゃねーかって読んでるぜ?」
うっ、ヤッパスタの感はいつもどおり鋭いな。
「凄いねー康介。普通にやれば拳王殺せるじゃん。」
何を物騒な事を…っておい!
「ハピスさん!居たんですか!?」
「うんーそりゃ拳王の戦いなんて滅多に見られるもんじゃないし、駆けつけて来ちゃったよー。私もこの後付いていっていいかなー。」
「え、ええもちろん。一緒に呑みましょう。」
「おじ…お兄ちゃんおつかれさま。」
「ありがとうシュナ!!怖くなかったかい?」
「うん、かっこよかったよ。」
おうふ。何気に一番うれしいじゃねーか。
ちなみに最近のシュナは、気を抜くと俺の事をおじさんと呼び出したので矯正中だ。
「そんでトモ、ありがとう。もう傷は完全に治ったよ。」
皆と話している間にも魔法を掛け続けてくれたトモの両頬を両手でモフり、お礼を言うと、トモは尻尾をブンブン振りながら舌を出し笑っている様に見えた。
みんなと話していると、拳王の所に居たジャクシンパパがフルブライトさんを連れてこちらにやってきた。
更にフルブライトさんの反対側にはジャクシンさんの姿があった。え、どうしよう。ファーストネーム忘れちゃった。親御さんがいる時は呼び方難しいよね。
その姿が見えると、やはり俺とヤッパスタ以外は跪き、俺達はむしろ堂々と立って対峙した。
「見事だったなコースケ。仔細について確認したい所もあるが、死なず殺さず無事収めた事を褒めておく。」
ジャクシン娘がパパより先に前に出てきた。
「辺境伯…いえ、お父様。ご納得いただけましたでしょうか。彼こそが私の婚約者となります。」
そうそう、俺がジャクシン娘の婚約者で………
なんですとぉぉぉぉ!?!?!?
「ふむ。確かに強さは申し分ない。キラハとあそこまで互角に戦える者はおるまい。しかしな…」
ちょっとまってまてまって!
話しが全然見えないぞ!
もしかしてドッキリとかそういうのか!?と淡い期待を寄せみんなの方向を向く。
ユージリンは真顔のままだ。
ヤッパスタはジャクシンさんの尻を見つめている。
メイエリオは冷たい眼差しでジャクシンさんを睨んでた。
うん、どうやらみんなも知らない様だ。
一難去ってまた一難。
だが、彼女にも理由があるのだろう。ここは大人として話に乗っかるしかあるまい。
俺は成る様に成れと
意を決した




