えぴそど58 葉っぱ
俺とメイエリオが庭先でユージリンから魔力操作について学び始め10日が経った。
ヤッパスタは、ハイロックオーガが持っていた大金槌を振り回し練習している。
後から聞いた話だが、見たまま『トールハンマー』と呼ばれていた様だ。
たまにユージリンやトモと組手を行い、最近ではヤッパスタの動きが見違えるように洗練されてきている。
午後からは4人で近くの森や草原で魔物を狩って素材を集めていった。
俺は鎌を使わずなるべく短槍の練習として戦いに参加している。
夜になれば、時折みんなで酒場や大衆浴場に行き、俺とヤッパスタが二日酔いで目覚めるというのも既に日常の一部だ。
今日からシュナも午前中は魔力操作の練習に加わり、午後は屋敷で今まで通り、使用人から清掃などを習う事になった。
休みの日も与えているものの、本人のやる気が髙い為、毎日掃除を頑張っている。
フルブライトさんも毎日の様に訪れるが、コノウさんとの話が終わると特に何も無く帰っていく。
家の外に出かける際の監視も今は無く、疑いは晴れつつあった。
ちなみにハピスさんの入国許可の記録もあり、再発行の末、再び魔族領の探索に出かけたとフルブライトさんから聞いた。
色々な事が順風満帆に回り始めている。
そう、問題があるとすれば俺の魔力操作についてだ。
メイエリオは元々基礎が出来ているので、応用として実践的な使い方を習っており、放つ矢の威力は向上し、新しいスキルなんかも増えている。
俺は魔力を感じ、放つ初歩からのスタート。
具体的には水を張った皿を手の平に置き、浮かべた葉っぱを動かすと言った練習方法だ。
「ぐぬぬぬぬぬ!うぎぃぃぃ!?おぁぁぁぁ!!」
「もう!声出すのなんとかならないのコースケ。気が散っちゃうよ。」
「ぶはぁっ!はぁっ!はぁっ!すまん!だけどこれ難しすぎて!!」
そう、10日間の間まったく出来ないのである。
というか、そもそも異世界人の俺に魔力が備わっているのかもここに来て怪しい。
「コースケ。焦るんじゃない。誰だって最初はそうだ。きっかけがあればすぐコツは掴めるんだがな…お?」
「これでいいの?」
「おうわぁ!!!」
「ああ!凄いなシュナちゃんは。後はそのまま思ったように動かせる様にひたすら練習だ。」
「うん!」
今日から始めたシュナが早くも葉っぱを動かし始めた。俺は開いた口が塞がらない。
「なあユージリン。魔力が無い人間っているのか…?」
「聞いた事は無いな…。だが、操作が出来ない人は多いさ。特にやり始めは皆がつまづく問題なんだし、獣人はそもそも魔力関係自体に長けている人種だ。気にしないで練習を続けていこうぜ。」
「ああ…。分かったよ。」
俺は気を落としながらも再び皿を手の平に乗せ、葉っぱを見つめ、ユージリンに習った様に水を動かす様に念じていく。
「きっかけさえあれば……んぎぎぎぎぎぎ…。」
「魔力が一方向に安定してないな。お前に手の平で行う方法は合っていない。」
「…じゃぁ指か!?」
俺は左手で皿を持ち、右手の人差指を皿の底に当て再度念じてみる。
「お!?おおおお!?」
微かだが葉っぱが動き始めた。
最初は揺れた水の振動かと思ったが、ゆっくりと確実に時計回りに回り始めている。
「出来た!!!俺にも出来たぞ!!」
俺は興奮したまま皆の方向を見ると、皆の表情は硬く、武器を構えこちらを警戒していた。
そのまま俺は助言の声の方向に向いて見ると、見た事の無い青年が立っていた。
銀髪の髪に、口元が隠れるほど襟の髙い灰色のコートを着た若い男の子だ。目元は切れ長で鋭く、クマが酷い。両手は包帯で何重にも巻かれており、血の様なものが滲んでいた。
「良かったな出来て。」
「あ、ああ。君のおかげだ。」
青年は瞬きもしないまま会話を続ける。
初めて会うが、俺には彼が誰だか分かった。
現拳王キラハだ
「ところで、何の用だろうか。一応ここ、俺の家なんだけど。」
「ああ、知っているよ。要件は大した事は無い。あの魔物を貰いに来た。俺が誰だか分かってるんだろ?」
分かりきっていた要望だが、大した事無いと言われるとカチンと来ちゃうぞ俺。
「君は拳王だよね。話は聞いているよ。ただ、大した事無いと言わても、あのハティは俺の大切な仲魔だ。譲る気は無いよ。」
「そうか。分かった。じゃぁ貰っていく。」
待て待て待て!こいつ会話成り立ってなくね!?え?さっきまで普通に喋ってたよね!?
「いや、あの、ちょっと…。聞いてますか?君に譲る気は────」
『カキィィィィィ』
【経験値50を獲得しました】
拳王の足蹴りが俺の顔面に伸びていた。
強肉弱食で防ぐも、攻撃は目で追える速さでは無かった。いや、そもそも攻撃に移るモーションすら何も感じれなかった。
「お前さ、何防いじゃってんの?」
拳王は表情を一切変えず、こちらを見ている。
通常、強肉弱食で弾かれた攻撃はその反動が相手に返り仰け反っていたのだが、拳王の足は魔法陣に止められたままピクりとも動いていない。
俺の本能がこいつはやばいと告げた。
レベルを確認するとその数字は62を指している。今まで出会った人物で最高値だ。
スキル云々では無く、単純なレベル差で他を圧倒できる存在だった。
勇者とか魔王もこんな次元の人物なのだとすると先が思いやられる。
俺は深呼吸し
目をゆっくりと開けた




