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えぴそど56 孤児

風呂から出た俺達は身支度を整え、酒場へ向かう事にした。


ドライヤーは無かったが、俺以外はなぜか風魔法を使って乾かしている。さすがファンタジー。生活の随所にご都合的な魔法が使える辺り頼もしい。


トモもすっかり綺麗になり、みんな臭くはなくなっていた。コノウさんに全員分の服を用意してもらい、今の俺は裸ではなく、ちゃんとした町民スタイルだ。


伸びまくり野生児の様なヒゲを剃ったヤッパスタを見て、メイエリオが『誰!?』と驚いていたのは笑った。中々のイケメンで俺も正直驚いている。


ああ、やっと手に入れた文化的な生活。

(思ってたのとはちょっと違うけど)


「トモ、またお留守番で悪いが待っていてくれ。ちゃんと帰ってくるよ。」


「わふっ!」


5人で屋敷を後にすると、酒場がある区画に歩いて行った。


「メイエリオ。どこかおすすめのお店とか無いのか?」


「んー。私いつもギルドで呑んでたからあんまりお店分からないんだよね。」


「そうかぁー。コノウさんは何かいいお店知らないですか?気軽に呑める様な所がいいんですけど。」


「そうですね。分かりましたお連れ致しましょう。この時間なので、朝まで営業しているお店のほうが気兼ねなくいけるでしょうね。」


コノウさんに連れられて来たお店はギルドの半分くらいの規模の酒場だった。


なんというか、感動だ。異世界で今から普通にお店に入って飲み食いが出来る。なんかほぼキャンプでの食事だったので涙が出そうだ。


ふと横の小さな路地を見ると、ゴミ置き場を漁っているフードを被った10歳くらいの少女が見えた。


「みんな先に入って注文しておいてくれ。俺はちょっと小用を済ませてから行くよ。」


コノウさんは入らずにこちらを見ていた。


「あーっと、あれを見て下さい。」


コノウさんは何も言わないまま、俺が指を指した方向を確認し少女を見つける。


「孤児でしょうか。どうされるおつもりで?施しをされるのであればお止めします。」


意外な反応が返ってきた。

確かに何か食べ物かお金でも渡そうかと思っていたが、何かしてはいけない理由があるのだろうか。


「止める?理由を聞いてもいいですか?」


「一時的な施しでは何も解決致しません。反って何もされない方があの子の為だと思ったまでです。ああやって強く生きている内に手を差し伸べると癖になってしまいます。」


「はは、まるで野良猫の様な扱いですね。ではこうしましょう。僕はあの野良猫を拾って家に連れて帰ります。あの広大な屋敷を掃除する使用人はもう一人居たほうがいい。」


俺が少し皮肉を込めて言ったにも関わらず、コノウさんは表情を変える事無く幼女を見ていた。


「分かりました。ですが、今後もそうやって孤児を見つける度に拾っていては収拾がつかなくなりますよ。」


「そうですね。その時はいっそ孤児院でも作るか、子供の国でも建ててやりますよ。」


俺はコノウさんに笑顔でサムズアップし、少女に駆け寄った。


「こんばんわ。」


「……!?!?」


「あぁ、驚かしてごめんな。あれ?君どこかで…。」


「……ごはんくれたお兄ちゃん……。」


「う~ん…あ!ギルドに居た子か!そうかそうか。ははっ!なぁ、お腹空いてるなら今から中で一緒に食べないか?」


「………。」


少女はこちらを警戒している様に見つめてくる。

そらいきなり俺みたいなおっさんが、夜中に甘い誘惑の言葉を細路地でかけてきたら怖いだろうな。


「他にも何人か居るんだ。お金はもちろんいらないから食べようよ。」


「…うん……。」


俺が手を差し出すと、少女は小さい手を返して来た。

手を握りコノウさんの元に戻ると、コノウさんの目が怖いのか少女は俺に身を寄せ、半身隠れる形になった。


「さ、コノウさん。中で乾杯しましょう。」


「……かしこまりました。」


お店の中に入ると、大衆酒場の様な雰囲気でそれぞれの席が賑わっていた。


メイエリオ達が座っている席に行くと、少女はまた萎縮して俺の後ろに隠れる。


みんなに事情を説明すると、メイエリオが真っ先に少女に駆け寄り、膝を折って空気を作ってくれた。


「大丈夫だよ。さ、一緒に食べよ。」


「…うん…。」


俺とメイエリオの間に少女を座らせ、注文をする。

テーブルにエールとワインが届くと、俺の口の中は涎でいっぱいになっていた。


「それじゃぁ…えと、何に乾杯しようかな。」


どれから言ったらいいの迷っていると、皆はそれぞれグラスを掲げていった。


「無事、討伐を終えた事に。」

「ヤッパスタの自由に。」

「旦那の男気に。」

「皆様との出会いに。」

「あーえーと、これからの未来に!」


「「「「かんぱああああい!」」」」


俺は一杯目を一気に飲み干すと、コノウさんが透かさず二杯目を頼んでくれた。


「ぶはぁ!!たまらなんなぁおい!!!」


「だはは!旦那ぁ!イける口だな!俺もおかわり頂くぜ!」


「あー呑め呑めヤッパスタ!ここは俺の奢りだ!みんないっぱい呑め~!!」


ハイロックオーガの素材は渡してしまったものの、討伐報酬をたくさん貰っている。今の俺は気分がいい。


二杯目を早くも飲み干すと、コノウさんが少し溜息を漏らした様に見えたが、次を頼んでくれた。


少女は何も言わず、目の前の食事にがっついている。時折、咽るとメイエリオが背中を擦りフルーツジュースを飲ませていた。



なんて幸せな時間なんだ

今夜は潰れるまで呑んでやる!!

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