えぴそど54 幼馴染
すぐに拒否しなかったジャクシンさんを見て、俺は交渉の余地があると判断した。
「はっきり言って骨だけでも価値は計り知れないと思います。この街の規模の軍備を充実させるには、お金はいくらあっても足りない筈。それをただ殺すだけの盗賊の命で明け渡すと言っているんです。」
「………ふん。一夜考えさせろ。」
「だめです。今ここで返答を下さい。」
「なに?」
ジャクシンさんの表情は明らかにキレかけている。
眉間のシワだけでは無く、目つきもより一層と鋭くなった。だが、ここまで来たら一緒だ。
「私はお願いしているだけではありません。断られると言うのなら強硬手段という手も考えなければなりません。今この街に本気を出した私を止められる存在がいるのであればお断り下さい。」
俺はテンションに身を任せ、半ば脅しも入れ強気に出てしまった。場の空気が冷たくなったのがひしひしと伝わる。
「コースケ様。それ以上のジャクシン様への無礼な態度は黙っていられませんよ。」
「……じゃぁどうしますかフルブライトさん。私を止めてみますか?」
「いえ、私ならこうしますね。」
冷たい表情のフルブライトさんはユージリンとメイエリオの首に一瞬で剣を突き立てた。
俺は焦らずただ黙ってフルブライトさんを見ていた。
「やめろフルブライト。この二人を傷つければそれこそコースケは本気で怒るだろう。そしてお前にその気が無い事も見通されいる。」
「はっ、お二人とも申し訳ございませんでした。」
強張った顔から安堵の表情にへと変わるメイエリオとユージリン。
「じゃあ…。」
「分かった。盗賊は好きにしろ。ハイロックオーガの骨はお前の言う通り貴重な資源だ。それに、言っておくが、私はお前と敵対したい訳では無いからな。」
「ありがとうございます。ジャクシンさん、フルブライトさん、失礼な態度を取った事をお詫びします。申し訳ございませんでした。」
「構わん。それより問題がまだ残っている。ハティだ。」
「どういった問題ですか。」
「お前が連れていると知ったら間違いなく奴が接触してくる。」
「奴とは。」
「現拳王のキラハだ。奴は人として難がありすぎる。それにハティを欲しがっているのは周知の事実だ。本気で手に入れようと思った場合、どんな手を使ってくるか分からん。」
天舞についてはこれから必ずぶつかる時がやってくる。新しい国を作り世界を統合しようにも、4人の天舞を倒すなり懐柔するなり野放しには出来ないのだ。
「その時はその時です。何とかしますよ。」
「ふっ、そうか…分かった。コースケ、お前の住居を用意しておいた。もちろんスケアリーベアーの報酬で勝手に買ったものだから気兼ねなく住め。」
「あ、ありがとうございます。と言っておきます…。」
フルブライトさんを残し、俺とメイエリオ、ユージリンはギルド長室を出た。
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3人が出ていったギルド長室にて
「フルブライト、この報告書を見る限り、コースケの行動に怪しい所は無かったんだな。」
「はい。但し、異形な技の数々はただの一般人とは言えません。明らかに神々の介入があるものと思われます。」
「やはりそうか…。」
ジャクシンは資料を机に置くと、肘をつき手を顔の前で組んだ。
「お前と私の仲だ。正直に言って欲しい。あれは私にふさわしい男と思うか。」
「………ジャクシン様。まさかコースケを伴侶にお考えなのですか。」
「今の私は中途半端だ。このままいけば次期領主の座もキラハに奪われるだろう。お祖父様の血脈をここで途切れさせる訳には行かない。かといって弱い男では父上が納得せん。これでも私には時間が無いのだ。」
フルブライトはワインをグラスに注ぐと、ソファに腰をかけ足を組んだ。
「……ふふっ、変わったなテオドラ。昔のお前なら家督の事など気にも止めなかったであろうに。」
「その名で呼ぶなカルフィーラ。全てはキラハだ。あいつがジャクシンの名を語る等虫酸が走る。それだけは何としても止めなければならんのだ。」
「しかし、コースケはお前に不信感を持っているぞ。今更お前が擦り寄った所で拒否するんじゃないか?」
「むぅ………ああああああああああああ!!!やっぱり歳を取りすぎたかな!?もう5年若ければ何とかなったかな!?どうなのカルフィーラ!!!」
「はははははっ!やっぱりテオドラだ。大丈夫だよ。君は今でも充分過ぎる程美しいさ。」
「ありがとう…。」
「そうだな、ならばいっそ一緒にダンジョンにでも潜ってみてはどうだ。もっと会話の機会をつくり、距離を縮めるしかないだろうさ。」
「だけど、軍やギルドを放おって行くなんてできないよ…。」
「軍は前任のハイデン叔父様が居れば問題無いだろうが、問題はギルドだな。いっそ、この機にギルドを手放し後任に任せるというのはどうだ?」
「だけど、また以前の様に戻るのでは無いかと不安で。」
「君がギルドの不正資金の流用を突き止め、前ギルド関係者の弾劾を行ってもう5年だ。よく頑張ったよ本当に。そろそろ自分の為に生きてみるのも悪くは無いんじゃないか?」
フルブライトが優しく微笑むと、ジャクシンは天井を見つめながら一つ溜息をついた。
「そうだな…フルブライトよ感謝する。2週間以内に事を進める。お前にも動いてもらうぞ。」
「ふふっ、かしこまりました。ジャクシン様。いつまでも鈍い貴方様をお支え致しましょう。」
「??」
分からないと言った顔のジャクシンを見て
フルブライトはまた小さく笑った




