えぴそど53 命の価値
メ「あのさコースケ…。」
康「お?何だ?何だ。」
メ「ううんなんでもない。トモが温かいもんね!」
康「!?!?!?!?」
俺達は今、ブロスの森を後にしブーメルムの城壁が見える所まで帰って来ていた。
途中の詰所で兵士が馬車を手配してくれた為、俺は何気に生まれて初めての馬車体験真っ最中だ。
「コースケ様、ブーメルムが見えましたよ。皆さんもお疲れ様でした。」
フルブライトさんの声に反応し前を向くと、特段思い入れも無い街の城壁が見えてきた。
真っ先に脳内に浮かぶのが、ジャクシンさんの邪悪な笑みだと言うのは黙っておこう。
城壁まで来ると、兵達が集められていた。
最初は出迎えかと思っていたが、ヤッパスタの確保とハピスさんの身元照会の為だった。
「じゃぁよみんな!短い間だったけど楽しかったぜ!」
「ヤッパスタ…。」
連れて行かれるヤッパスタを見てメイエリオがとても悲しそうな顔になっている。俺の思い違いで無ければ、殺しちゃえばとか言ってなかったっけこの子。
「フルブライトさん。彼の減刑等は望めないのでしょうか。」
ユージリンがフルブライトさんに問いかけた。
「……。難しいでしょうね。お二人の想いも彼の人柄も分かってはいますが、人を殺めています。これは変わりの無い事実です。」
「そんな…。」
「ただ、この街でその事実を捻じ曲げる事ができる人を私は知っております。ね、コースケ様。」
「ジャクシンさんなら…。」
フルブライトさんはにっこりと笑うと言葉を続けた。
「さぁ、ジャクシン様へのご報告に参りましょう。と、その前にこちらをハティに着けましょう。従属の首輪です。」
「え、これ?」
渡されたのはホームセンターで売ってそうな犬の首輪だった。真っ赤な色に鋲が打たれており、どうみてもファンタジーな首輪では無い。
「はい、これを付けている事でテイムしている証となります。今回の場合は明確にテイムした訳では無いので、ハティが嫌がらないかというのが問題ですが。」
「分かりました。着けてみます。」
俺は首輪を預かると、トモに向かい喋りかけた。
「トモ、いいかい?街に入るためにはこれを着けなきゃいけないんだ。着けるよ?え?いいのかなこれ。」
トモは尻尾を振りながら頭を下げてくれた。
俺は少し安心しそのまま首輪を着ける。
ベルトを締めると首輪は一瞬発光したが、すぐに収まった。ごめん結構ファンタジーな首輪だったわ。
その後、俺達はハイロックオーガの素材や武器を一旦兵士に預け、トモと4人でギルドへと向かった。
道中すれ違う人がハティを見て驚いている様に見えるが、そんなに有名な魔物だったのか。
ギルドへは着いたが、中にはハティを入れられないとと言うので、外で待たせておいた。フルブライトさんが兵を手配してくれていたので見張りも2人居てくれている。
中に入ると既に日が落ちている事もあり、一階の酒場は人で溢れていた。タルガージが遠目に見えたので念の為、お礼を言っておく事にした。
「タルガージ!ピリオの実すごく役に立ったよ!ありがとうな!」
タルガージはこっちを見ると、酒を呑みながら右手を上げ拳を握った。
なにそのイケメン度合い。
やだ、格好いい。
そして2階に上がると、待つ事無くジャクシンさんの部屋に通さる。扉を開けると資料を見ながら何かを食べているジャクシンさんが居た。
「ご苦労だったな。よもやハイロックオーガの討伐をしてくるとは前代未聞だ。現拳王ですら無傷では行えまい。それにハティをテイムとは…コースケ。お前は本当に一体何物なんだ。」
てっきり一日予定が延びた事に対して罵声が飛んでくるかと思っていたが、意外にも口調は穏やかだった。
「はぁ、まぁ結構頑張りましたよ今回は。ハティは本当にたまたまです。」
「まあいい。ユージリンとメイエリオよ。報告は既に聞いている。2人への命は今のところ特に無い。よく頑張ったな。下に報酬を用意している。受け取って明日からはこれまで通りギルドに貢献していってくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
「ありがとう…ございます…。」
「ん?なんだメイエリオ。何か言いたい事でもあるのか?」
「いえ、文句だなんて…ただ、ジャクシン様にお願いがあります。」
その言葉を聞くとジャクシンさんの目はすぅっと細くなり表情も冷たくなった。
「盗賊の事だな。何を言いたいかは分かるが却下だ。明日にでも刑を執行する。」
「!?……私を助けてくれたんです!!」
「貴様を助けた事で今まで奪われた命の償いが出来ると思っているのか!!!馬鹿者め!」
急に怒鳴ったジャクシンさんに対し、メイエリオもユージリンも萎縮してしまった。何も言っていなかった俺ですらビビり過ぎて半泣き状態だ。
俺は考えた。
ヤッパスタの判断力・戦闘力・生活力・知識などを見ても、殺してしまうにはやはり惜しい。
ふっ、そして今の俺には交渉材料があるじゃないか。
仕方が無い、メイエリオとユージリンの為に一肌脱いでやろう。
今まで培った社畜としての営業力を(以下略)
「ジャクシンさん。」
「うるさい黙れ。意見するならまず服を着ろ。」
待てええええええええ!!!!
待て待て待て待て!!!!!!
一肌脱ぐもん無かったんだけどおおおお!!!
ちょっと待って俺、フルチンなんですけどまじで!一週間話が空いてた所為ですっかり忘れてたわ!何堂々と素っ裸で街の中歩いてるの!?
待って!?みんなもしかしてハティだけじゃなく、堂々とフルチンで歩く俺の事に驚いてたの!?
ぐっ…くぅ…いや、ここは退いてはダメだ。
ここしかない!
「いや、黙りません。聞いてくださいジャクシンさん。交換条件です。」
「……なんだ。」
「ハイロックオーガの骨関係の素材を全て無償でお渡しします。ヤッパスタをそれで俺に売って下さい。」
あの骨や頭蓋骨には相当の価値があると言っていた。
盗賊を一人ただ処刑するのと、貴重な素材と引き換えに、心を許した俺達に預けるとのではどちらにメリットが大きか、彼女なら判る筈だ。
ジャクシンさんは無言のまま資料に再び目を通す。
ここだ。ここで黙っていては営業では無い。
このチャンスを逃してなるものか!俺は一気に畳み掛ける事にした。
唸れ!俺の営業力!!!




