えぴそど50-勇11 因果の蕾
「はぁ…はぁ…はぁ…これで…全部か……ジョリーアン!警戒を崩すな!!」
「はぁ…はぁ…あ~いよ~!」
「……カクト様……流石で……御座い……ました……」
フラついた足取りでカクトに近づくと、コルピナはカクトの眼前で倒れた。透かさずカクトは抱きかかえるも、顔色は思わしくない。
「大丈夫かコルピナ。自分で回復をかけ……おい、これ……。」
「魔力が……枯渇して……少し休めば……大丈夫……です……。」
「お前!ちっ!ジョリーアン!!!直ぐにポーションをありったけ持って来い!!!早く!!!急げ!!!」
────遡る事 二時間前
「カクト様…!あれを…!」
遠くにアムドの城壁が見える所まで来た3人だったが、街からは煙が上がっていた。
「まさか~まさかまさか~もういる訳~?マンティコア~。」
急ぎ街に向かうと、魔物の叫び声や悲鳴が聞こえている。近くまで来ると焦げ臭い匂いを放ち、何かが燃えているのが分かる。
街に入り声がする方に向かうと、帝国軍兵士が魔物と応戦している所だった。
「5匹も…ダメです…!カクト様…おやっさんと…サブダブさんを…待ちましょう…!」
「何日待つ気だ!コルピナとジョリーアンは組んで左側から行け!俺は右からやる!」
「お~まじか~ちょっとキツイぞ~(笑)」
「〈禍〉を使って…まだ28時間と3分…です…次に使用…できるまで…あと1時間と57分…無理は…なさらないでください…。」
生き残っている100人程の兵士達は5人一組となり善戦している様に見えた。しかし、着実に一人、また一人と殺されていく。
大型の獅子の様な体躯に、尾は2本。蠍と蛇になっており、背中には蝙蝠の翼を生やしている。
顔は人の様な物がついており、爪が大きく、巨体に似合わず動きが速い。
マンティコアは、俊敏な動きで兵士達の攻撃を避けながら羽ばたくと、兵が密集しているど真ん中に降り立つ。
爪で兵を切り裂きながら、尾は意思を持っている様にそれぞれ独立して兵を攻撃していた。
兵士達は魔法や弓、槍や剣などを用い必死に抵抗をみせる。しかし、明らかにその表情は険しく絶望感に苛まれていた。
「聞けぇ!勇者様のご到着である!皆の者!ここが正念場だ!攻撃の手を緩めるな!!」
ジョリーアンが叫ぶと俄に騒がしくなり、視界に勇者を捉えた兵達の目はみるみると生気に溢れ、『やれるぞ!』『勇者様!』『みんな!行くぞ!』など、それぞれが鼓舞をし始めた。
「ちっ!お前ら邪魔だ!!」
カクトは〈歪〉を使い、手に光の刀を握ると、そのまま右端に居た兵達の頭上に〈廓〉を展開する。
〈身体強化(鬼)〉を同時に発動し、その効果を使い跳躍すると、〈廓〉を足場に蹴り出し、マンティコアに斬りかかった。
「ボォォォォォォォォ!!」
手応えはあるが、致命傷にはなっていない。
すぐに振り向き〈廓〉をマンティコアの足を狙い放つ。
光が迫るとマンティコアは危険を察知し跳ぼうとするが、〈廓〉の方が速く、前足を一本失い地面に激突した。
カクトは距離を詰め刀で斬りかかるが、足一本では機動力を殺しきれず、翼で羽ばたかれてしまった。
「ちっ!」
〈身体強化(鬼)〉の効果は10分程。
クールタイムは30分。なんとしても効果がある内に数を減らしておきたかったカクトに、焦りの色が伺える。
「5分…くそっ!」
一匹であれば、アイスワイバーンすら倒したカクトが驚異に感じる事は無い。そのレベルの魔物が5匹。時間を掛ければカクト以外が全滅してしまう可能性もある。
カクトは降りてきたマンティコアに向け〈廓〉を放つと同時に走り込んだ。身体の割に小さな羽では長時間飛べない事をアズに聞いており、すぐに降りて来ることをカクトは知っていた。
〈廓〉はマンティコアの羽に当たり、次に羽ばたく事を禁じられる。落下しながら着地地点に近づくカクトに向け口を開くと、火炎を吹き出した。
「馬鹿め!それも知ってる!」
口を開いた時点で〈廓〉を展開しており火炎を防ぐと、そのまま降りてきたマンティコアに向かい刀を突き立てる。
マンティコアの首筋が割れ血が吹き出すが、まだ死んではいない。フラフラなままカクトを睨みつけていた。
「お前ら!後は任せるぞ!!」
「はっ!!かしこまりました!」
カクトは瀕死のマンティコアを兵達に任せ、次の標的に向かう。
視界の先ではジョリーアンとコルピナも戦っているのが見えたが、苦戦している様子だった。
ジョリーアンはワントップの戦闘には不向きだ。
タンクである彼女が相手の攻撃を止め、アズとサブタブが相手を仕留めるのが定石だった。
カクトと組んでからも同様に相手を惹きつける役目を担っていた為、決定打にどうしても欠けてしまう。
「ジョリーアン!!いけるか!!!」
「あー!!?やっばい~まじ速すぎるって~!!カクト~!!急いで欲しいかも~!!」
「耐えきれ!!すぐ行く!!!」
コルピナも攻撃魔法を放っているが、マンティコアの動きを捉えきれていなかった。それでもジョリーアンに強化魔法をかけながら必死に応戦している。
カクトは3匹がまとまっている真ん中の部隊に混じり、〈歪〉を発動する。
既に〈身体強化(鬼)〉の効果はキレており、このままマンティコアの爪を受けるとカクトでも致命傷になり兼ねない為、即席の班を作ることにした。
「聞け!!タンク2!マジシャン2!俺について来い!」
「ボルサダ!ドナルド!ロクミー!オールシャ!勇者様に付いていけ!!」
「「「「はっ!」」」」
部隊長らきし人物が指示し、大盾を持った2人と魔道士2人がカクトの後を追う。
「あいつをやるぞ!マジシャンはタンクに強化をかけろ!タンクはまっすぐ突っ込め!一瞬でも動きを止めればいい!」
「「「「はっ!」」」」
魔道士は走りながら詠唱を始め、盾兵はそのままマンティコアに突撃した。マンティコアは気にすること無く爪を盾兵に振りかざす。
強化魔法がかかり盾兵は一撃を耐えるも、盾は見るも無残に裂かれていた。
「上出来だ!」
爪を振りかざしたタイミングで〈歪〉を巨大化させており、盾が裂かれると同時に振り下ろしていた。
マンティコアは二歩進んだ所で2つに割れる。
これで〈歪〉もクールタイムに入ってしまう。
残りは3匹。兵士達も気付けば半分くらいになってしまっている。
カクトの額に一筋の汗が流れ落ちた
 




