えぴそど5 a lot of money
女傭兵?いや冒険者なんだけどその視点です
今後は英題が主人公とは別の者の視点ってことにしようと思ってます
私が冒険者になって5年
弓の腕前は上がり、街の周りや森に出現する魔物なら難なく対処できる。サバイバルの技術も身に付いてきたし、野宿込みのクエストも抵抗が無くなっていた。
仲間達はみんな良い人ばかり。
言葉遣いは粗暴で大雑把な所もあるけれど、何かあったら心配もしてくれるし助けてもくれる。パーティーは組んで無くとも気の知れた関係なのだ。
私の父も母も冒険者だった
冒険者と言うと聞こえはいいかもしれないけど、実際の所はなんでも屋さん。薬草採取から庭の手入れ、資材の運搬から下水道の掃除やら、華やかな活躍とは程遠い汚れ仕事ばかり。
ダンジョンに潜れば、それなりの素材とレアアイテムなんかも拾える事があるし、一攫千金も夢じゃない。その分難易度も高く、最低でもBランク以上のパーティじゃないとまともに進めもしない。
Bランクだった父と母でさえ、ダンジョンに入り命を落とした。私の元に帰って来たのは父のペンダントと、母のピアスだけ。その日から13歳の私は一人で生きて行く為に冒険者となった。
それから幾つものパーティーを渡り歩いた。
途中でメンバーが魔物に殺されたり、違う街に移ったり、引退したりとなかなか上手くはいかない。
最近はソロであっても、ゲストとして他のパーティに参加させてもらえる事も増えた。少しづつ、少しづつクエストをこなし、先月にはやっとCランクに昇格。一応、Cランクともなれば一人前の冒険者として堂々と名乗る事ができる。
ダンジョン関係の依頼も、受ける事ができる様にはなるが、私が潜ってもすぐ死んでしまうのがオチだ。今は森に入り魔物を狩り、素材を売ったお金で気の知れた仲間達と、毎日お酒を呑めればそれだけで満足だ。
この日常がいつまでも続けばそれでいい────
その日、ギルドには商業都市ヤーから、国境都市ブーメルムへ、武器輸送の護衛人員の募集が出ていた。
条件はCランク以上、片道の距離は馬車4日と、ブーメルムでの待機が5日間の計13日間。定員は10名。拘束期間が長いけど、報酬も高く、森での素材集めの実に1.5ヶ月分だ。ぜひぜひ受けたい。
しかも、二つの街を結ぶ街道は見晴らしのいいドボーク平原。多少魔物も出るだろうけど、ベビーゴブリンやコボルトなど、強いといってもオーク程度なので、パーティ以上の人数がいれば大した事はない。
山賊や盗賊に襲われる可能性も無いとは言えないので、野営を挟む行路にはある程度の人数がどうしても必要だ。希望者が殺到した事で急遽くじ引きが行われ、私は運良く参加の権利を獲得した。
私以外に参加するのは、唯一Aランク冒険者のグラハムとその相棒のBランク冒険者ドルガン。
私が一緒にお酒をよく呑んでるBランク4人のリナイ達のパーティ。
それに私を含めCランクのソロ冒険者が4人、これで冒険者の護衛隊は合わせて10人。
後は、依頼してきたエブリン商会の商人が3名と、御者が4名だ。ただの護衛任務にAランクが加わるのは異例だけど、商会の幹部が一人混じっている事もあり、万全を期したんだと思う。
二日後、馬車4台に分かれ商業都市ヤーを出発する。私は最後尾で幕間から見える空を眺めていた。
最初の二日は魔物も出てきたけれど、ドルガンの魔法で馬車を降りる事無く倒されていた。する事が無いので暇なくらい。時折警戒をする為に馬車の上に上がったりもしたけど、やっぱり何も無いただの大草原が広がっているだけ。
私は正直飽きていた
三日目の移動中、リナイ達と与太話をしていると、先頭の馬車に乗っていたドルガンの声が張り上げられた。
「警戒態勢!」
緊張が走る。
今まで魔物が飛び出して来ても、こんな号令は出てこなかった。全員が瞬時に武器を構え前後を警戒する。馬車もスピードを落とし、そのまま止まるのかと思っていた時だった。
「がーっはっはっはっはー」
先頭車両からグラハムの笑い声が聞こえる。
「ぜ、全員!けっ…ぷっ!はーっはっははは!け、警戒を解け!」
ドルガンも笑いを堪え切れていない。
私達は何が起きたのかも分からないまま武器を置く、その笑い声は2台目、3台目と伝染し、ついに私達が乗る4台目の御者も笑い出した。
前を見ても御者でよく見えなかったけど、道端に人影が見えた。すぐに後ろを振り向き、通り過ぎるのを待つと、素っ裸の男が呆然と立ち尽くしこちらを見ていた。
男はなんとも情けない顔をしていた。
股間すら隠そうともせず、体には所々草が貼り付いている。ただただ立ち尽くすだけ。リナイ達もその姿を見て大笑いをしている。
「だははは!」
「なんだありゃ!盗賊にでもやられたのか!?」
「はーっはっは!つか前くらい隠せよな!」
「ひーひひひ!命があるだけマシだろ!」
「「「ちげーねぇ!」」」
間違いなくリナイ達は今晩この話を出すだけでずっと笑っているだろう。笑いのネタがしつこいのだ。
私は笑う気にはなれなかった。
彼がとても哀しそうにこちらを見ていた事、足元が傷だらけだった事、本当に賊の類や魔物に襲われ、なんとかここまで逃げて来たのかもしれない。
でも輸送中や行軍中に、余計な問題の持ち込みをする事はタブーとされている。まして今回はエブリンの役員付き。可哀想だけど仕方がない。
私は彼の姿が見えなくなるまでずっと見ていた。
そろそろ日が暮れる。