えぴそど48-勇9 偽善の蕾
「うそ~まじでカクト~!?」
「カクト!相手は子供だぞ!!」
突如現れた巨大な黄金の魔法陣
兵士達も、今までの遠征で見てきた大技に顔をひきつらせていた。子供達はその魔法陣に驚き、声を上げる事を忘れそれを見つめている。
スキル〈禍〉
魔法陣から次々と現れた巨大な矢は、空に向かい放たれる。皆一様に、あまりの巨大さと轟音を立て放たれる矢に畏怖していた。
そして、矢が尽きると魔法陣は消えていき、雲が消えた一帯には静寂が広がり、そこにカクトの声だけが響き渡る。
「聞けぇ!お前らぁ!!お前らを守っていたもんはもう居ねぇ!!!ここからお前らに待ってるのは惨めな生活の果てにある孤独な死だ!!それが現実だ!それがこの世界だ!」
少年達は何も言わずカクトの言葉を聞いていた。
「このクソったれな世界に染まれねぇ奴から死ぬ!染まれたとしてもゴミを漁り!泥水をすする家畜以下の日々だ!そんな中で自分が生まれた事を神に感謝しなければならない!!ここはそんな馬鹿共が創りあげた最悪な世界だ!」
呆然とする者、泣き出している者、怒りに震えている者。三者三様の様相を呈していた。
「だが、それでも世界に抗い、こんな世界をぶっ壊して新しい世の中を創りたいと願うなら…今すぐ泣き言を言うのを止めて俺の元へ来い!!」
突然差し出された救いの手に、子供達は反応する事が出来なかった。
「聞こえなかったのか!!人として生きたいと願うのなら!俺と共にこの世界をぶっ壊せ!!」
その言葉を聞き、先頭に居た青年が剣を掲げる。
「俺は付いていくぞ!こんな世界ぶっ壊してやる!」
青年に続き、『俺も!』『私も!』と次々と声を上げていく子供達。
先ほどまでの絶望感が消え、子供達の目には生気が宿っいた。
それから、怪我を負っている者の治療を行い、運んだ食料は足りなかったが、サブタブとジョリーアンが森の中で魔物を狩り調理して配っていった。
馬車は荷を全て降ろし、幼い子から順に馬車に乗せ先に城に向かう様にしいる。
無論、手が足りなかった為、集団の先頭に居た青年達のグループも手伝い、歩ける者を率いて馬車に付いて行った。
「あの人数を全て領内で養うつもりか?」
「ああ、こいつらはキジュハの奴等とは違う。まだ堕ちきっていない。今ならまだ人としての生活を取り戻せる。むしろ、今しか無い。」
「アムドの防衛が完了すれば、幾人かは帰す事もできるでしょうよっと!じゃ、カクト。俺は城に先に戻り増援を連れてくるぜこれ。」
「ああ、頼むサブタブ。」
「私もそろそろ彼等の護衛に着いて行く。ジョリーアン、コルピナ、カクトをくれぐれも頼むぞ。」
「はいよ~。」
「愚問…です…おやっさん…。」
時刻は正午になっており、カクト、ジョリーアン、コルピナを残し、全員でカクトの城へ向かって行った。
「1~2時間も行けばコーリンに着くけど~どうする~?寄る~?」
「いや、そのまま突っ切る。」
「であれば…カクト様…馬を…歩かせましょう…強化魔法も…もう多くは…使えません…。」
カクト達はアムドを目指し馬に乗る。
しばらくするとコーリンの街の城壁が見えて来たが、そのまま街道を進みだす。
街の規模としては大きくないコーリンだが、城壁の外へも避難民がテントを張っており、中に人が溢れている事が安易に想像できた。
アムドへ向かう道には途中で力尽きたのか、魔物に襲われたのか何体かの死体がある。
カクト達は時たま馬を走らせ、馬が疲れると歩かせ、ひたすら先を急いだ。
そうして日が暮れ始めた頃
「カクト~流石に限界だ~そろそろ野営をして少しでも寝かせてよ~。」
丸二日寝ていない状態だった。
カクトも疲れの表情を浮かべている。
「ああ。アムドへは後どれくらいだ。」
「ここから…ですと…えと…あの森が…これだから…今のペースで…行くと…数時間と…いうところでしょうか…。」
コルピナが地図と周りの風景を見ながら推測する。
コルピナも疲れ切っており、目は半分も開いていない。
食事は携帯食を馬上で食べていた為、そのまま簡易テントを張り、カクトの案で先にコルピナとジョリーアンを寝かせる事にした。
カクトが一人で魔力操作の練習をしていると、大きな袋を担いだ一人の女が声をかけてきた。
「こんちわちー。ん?こんばんわーか。君達はアムドへ向かってるの?」
「……何の用だ。」
「んー?お疲れの様だからねー滋養強壮に効くこのポーションを買わないかなってさー。」
「いらん。失せろ。」
「あはー、勇者のくせにノリ悪いんだねー。」
その言葉にカクトは透かさず〈歪〉を発動し、光の刀を手に握り構える。帝国の者なら間違っても『様』を付けない事は無い。『勇者』と言い捨てた時点で魔族の可能性があった。
そのまま〈覡の眼〉を使い鑑定する。
しかし、帝国の色も魔族の色も表示されなかった。
「何者だてめぇ。」
「はいはい、そんなに睨まない睨まないー怖いなーまったくー。私はハピオラ・スカーレット。ぶっちゃけ君の敵だねー。」




