えぴそど47-勇8 無聊の蕾
早朝、カクト達は準備を済ませ城を出た。
勇者パーティとして、帝国より全員に最高級の装備品が支給される様になっており、5人全員が同じ色と装飾の着いた武具を身に着けていた。
白銀に輝く鎧やローブ、表が黒いマントの裏地は朱殷色となっており、鎧の色を尚一層引き立たせる。
遠征には勇者の守備も兼ね私兵の帯同もしている。
兵士は濃紺色を基調とした帝国軍の鎧と、パーフラ教徒達は茨の刺繍が入った真っ白なローブを着ていた。
カクトとジョリーアン以外はそれぞれ4人づつの兵士を班として指揮している。
カクトに関しては戦闘中に近づくのは反って危険という事もあり、唯一対処できるジョリーアンが専属で守備に付くことになっていた。
前方にはアズと別に一人の兵士が馬に乗り先導し、後方ではサブダブが警戒に当たる。残りは4馬連結の高速馬車3台に分かれ乗っていた。
その中央馬車にて
「カクトはこの半年で背が随分と伸びたよね~成長期だな~言ってる間にコルピナを抜きそうだよね~」
「……。」
「カクト様は…6ヶ月で5.4cm…伸びて…おられます…現在の身長は…165.2cmです…。」
「……。」
「コルピナ~そういう事をしれっと言うから~カクトに気持ち悪がられるんだよ~?」
「はぅ…!…カクト様…申し訳…ございません…。」
「うるさい!!集中できねーだろ!!!」
カクトは馬車の中で魔法の習得に励んでいた。
主に必要としているのは回復魔法である。賢者がこのまま現れない可能性もある中、拳王や魔王との戦いでは必要になってくる。
だが、神託により得たスキルの魔力操作は分かるものの、カクトにはそれをどうやってやっているのかが理解出来ていなかった。
手で三角形を作り、その真中に光を灯す。
魔法使いが最初に行う魔力操作の練習だが、カクトはこれが中々出来ない。
「カクト様…焦らず…やっていきましょう…。」
「そうだよ~いざとなったらコルピナがカクトを全力で回復するって~。」
「はい…!します…!」
「……。」
そうして、最初の街に付く頃にはすっかり日は暮れ始めていた。ここでは馬を替える事と食事を摂るのが目的となっている。
「カクト、食事が済んだらこのまま出発するぞ。交代で睡眠を取りながらでも進み先を急ごう。」
「ああ、分かった。」
勇者一行の到着とあり、街では盛大なもてなしを受けているものの、カクトは無表情のまま食事を続けていた。
そこへ街同士の連絡係と喋っていたサブダブが戻ってくると、その表情は曇っていた。
「ちょっとヤバイ情報が入っちゃったでしょうよこれ。」
「どうしたんです~サブダブさん~。」
「次の街のコーリンが子供の難民で溢れてるらしいだよこれ。しかも物資が不足して餓死者も出てる様だし、勇者と判れば助けを求めて暴徒化する可能性もあるって事でしょうよ。」
「トレントの生き残りとアムドからの避難民か…。おそらく親達が子だけでもと残りの馬車で逃したんだろうな。飢えた難民の前に出るのは確かに危険だ。」
「ですがおやっさん…勇者様のご威光を…示すには…丁度良いと…思われます。」
「プロパガンダに使う気~?怒って〈禍〉とか撃っちゃわないかな~(笑)」
「カクト、このままコーリンに向かえば難民の子らと鉢合わせになるだろう。時間は掛かってしまうが迂回してアムドへ向かおう。」
「…いや、予定通り最短ルートで向かう。アズ、コーリンにはどれくらいで着く。」
「あ、ああ。今から出れば昼過ぎには着くはずだ。」
「お前ら!いつまで食ってるんだ!乗せられるだけの食料を積んですぐに出るぞ!」
カクトが急に声を荒げた事に兵達は驚き、慌てて食事を切り上げ出発準備に入る。
もちろんアズ達4人もその姿に驚きを隠せない。
「アズ、俺も馬に乗る。馬車になるべく食料を積み、ありったけの馬を出させろ。ジョリーアン、お前は俺の横に付け。」
「分かった。」
「りょ~かい~。」
この頃には馬に乗れる様になっていたカクトだが、自ら進んで乗ろうとはしていなかった。
カクト以外はどういう心境の変化があったのかわからないまま、街を出てコーリンに向かう事になった。
先頭を馬で駆けるカクト。
馬車の速さに合わせず先行するカクトに対しアズが叫ぶ。
「カクト!飛ばしすぎだ!馬が潰れるぞ!」
「ならコルピナ達に強化魔法をもっと掛け続けさせろ!」
「そんな事させたら戦う前に魔道士班の魔力が枯渇してしまう!」
「そんな雑魚は降ろせ!コルピナ!!強化だ!やれ!」
「は…はい!!カクト様…!!」
暴走している様にも見えるカクトの行動だが、言われた通り魔道士組で魔法を馬に掛け続ける事となった。
「カクト~どうしたの~?急に変だよ~。」
「うるさい。今ならまだ…。」
兵士達をアズの判断により交代で寝かせつつ、夜通し馬を走らせた。徐々に明けて来た街道を歩いている集団を見つける。
「止まれ!」
カクトの声に一行は馬車を止める。
「何人居るんだこれそれ。やばいでしょカクト。」
「この辺りは魔物が少ないとは言え、護衛も付けずここまで…。」
ざっと見るだけでも200人以上。
憔悴しきっており、衣服は汚れ、怪我もしておりボロボロになった子供達の集団だった。
カクトはそのまま馬を前に出し、先頭に居る武器を持った青年達に近づき話しかけた。
「おい、何処から来た。」
「……トレントだ。アムドは危険だって言うし、コーリンはもう一杯だ。腹を空かせた奴も付いて来てるし、もうどこ出身の奴かなんかわかんねーよ。」
「そうか…。家族は…?」
「みんなやられちまったよ…みんなだよ!みーんな!魔物に喰われちまってるよ!!なんだよおめぇはよ!!」
青年の叫び声に反応し、小さい子達は泣き出している。既に死んでいるであろう妹を背負っている子の姿まであった。
「あのよ!どこの貴族様か知らねーけどな、食いもんくらい恵んでくれても罰はあたらねぇぞ!!寄越せよ!!!」
その青年の声を皮切りに、周りに居た子供達も『食べ物!』『水を!』『助けろ!』などと一斉に騒ぎだした。
アズとジョリーアンが素早くカクトの前に出ると武器を構えた。しかし、逆効果となり『俺達を斬るつもりか!』など騒ぎ立てる。
後方からは石なども投げられ為、兵士達もカクトを囲み子供達からカクトを離した。
「ほらほら!やっぱこうなっちまったでしょうよ!どうするんだよ!この人数分の食料は流石に持って無いよこれ!」
「カクト…様…」
カクトが何も言わず右手を空に掲げると
黄金の巨大な魔法陣が現れた




