えぴそど46-勇7 慨世の蕾
「カクト~ここからの攻撃パターンはたった24通りなんだから~そろそろ覚えよーよ~。」
「はぁ…はぁ…くそっ!もう一回だ!」
カクト達が帝国の首都ダイダロスに到着し、半年が経っていた。新たな勇者の誕生に、人々は歓喜し、国を上げての大騒ぎとなっている。
帝都に着いてからのカクトは実に多忙だった
連日、皇帝含め貴族や軍の上層部、更にはパーフラ教に毎夜の如く晩餐会に連れ回され、興味も無い話を聞き、面倒な質問をされる。
更にカクトは、皇帝から爵位を賜り領土と城を分け与えられる。私兵や軍を持つ事も許されたが、管理等に興味が無いカクトにはただ広い家が出来た様なものだった。
アズ、サブダブ、ジョリーアン、コルピナはそのまま勇者パーティとしてカクトと行動を共にしているものの、カクトと同じく領土運営には興味が無く、帝国とパーフラ教から人材の補充を行う事になった。
また、家名はなんでもいいと言うカクトに対し、唯一貴族出身のジョリーアンが代わりに考え、カクトの大技〈禍〉にちなみ『スカイアロー』と名乗る事にした。
「ほらほら~!こんな簡単なフェイントに引っかからないの~!!!!」
「うぐっ!!」
「カ、カクト様!ジョリーアン!…や!やりすぎ…です!」
2ヶ月前からだが、ようやくカクトは帝国各地で魔物の討伐やダンジョンの攻略を行い、空いた時間を見つけては4人から戦い方を学ぶ事が出来ていた。
元帝国剣士でもあり、冒険者の中でトップクラスの実力を持つアズからは剣技や基本戦術について学び、拳闘家のサブダブからは足運びや身体の使い方、更に拳王対策に格闘術の特徴などを学んでいる。
魔法使いのコルピナからは攻撃や回復魔法を習いつつ、回避と受けの達人であるジョリーアンから攻撃の捌き方について組手をしているところだった。
「とりあえずカクト~今日はこのぐらいにしておこうよ~明日の遠征に響いちゃうよ~主に私の体力が~。」
「ちっ、あぁ。ジョリーアン、戻ってきたらまた頼む。」
「はいは~い~。」
「メイド衆!…集合!…です!…」
コルピナの号令により、訓練場の傍に立っていたメイド達がカクトに駆け寄ると、カクトの訓練用防具を外しながら汗などを拭いていた。
「コルピナ、飯だ。」
「はっ!カクト様!…皆さん…お聞き…されましたね…すぐに…お食事の…ご準備を…。」
「「「「「「はいっ!!」」」」」」
もちろんメイド衆は全員パーフラ教徒である。
カクトの身の回りの世話はもちろん、夜の相手まで総勢200人を超える女性達による勇者親衛隊である。
食事に至っては、パーティメンバーか、パーフラ教徒の用意したものでなければカクトは食べる事が出来なくなっていた。
これはコルピナ始め、パーフラ教の総意であり、魔族による毒殺を回避する為の決まりにもなっている。
カクトは過保護過ぎる待遇に、嫌気が差し拒否したが、コルピナの熱心すぎる説得により渋々従っているだけだった。
「カクト。今日はもう終わりなのか?」
「ああ、飯を食いに行く。」
「おーいいね。ちょっと早いけど俺達も一緒に行くでしょおやっさん。」
「そうだな。ちょうどカクトに伝えておきたい事があり探しているとこだったんだ。」
屋敷に戻る途中にアズとサブダブと合流し、4人で食堂に向かう。食事の号令からほんの数分しか経っていないが、食堂に入ると既に豪華な食事が用意されていた。
コルピナ含め4人が席に座ると、アズが口を開いた。
「食べながらでいいから聞いてくれ。明日のミノタウロス討伐だが、予定を変えて東のトレントの街方面に向かう事にした。」
「……別に構わないが、何かあるのか?」
「トレントが魔物に襲われ壊滅したらしい。つい先ほど届いた帝国軍からの情報だ。」
「ミノタウロスはダンジョンの魔物だから入らない限り被害は無いでしょうが、街が潰されたとなっちゃ勇者パーティとしてほっとけないでしょうよ。」
「そうか。そいつはもちろん強いんだろうな?雑魚なんだったら俺一人でもダンジョンに向かうぞ。」
「強いのは間違い無い。カクトが居れば大丈夫だろうが、俺達4人だけなら勝てるか怪しいやつだ。」
「分かった。で、どんなやつだ。」
「出たのはマンティコア。討伐レベルはAだ。それが一匹ではなく少なくとも3匹いる。普通に戦えば中々手に負えない相手だぞ。」
「強いだけじゃなく速いからなー。カクトのスキルが当たるかどうかが問題になってくるっしょ。」
「ふんっ…。」
「今は軍がトレントより手前にあるアムドの街に集結し警戒に当たっている様だが、どうやら少しづつそちらに向かって来ているらしい。トレントとアムドは距離が離れているとはいえ何があるか分からん。朝一番で出るとしよう。」
「途中の街には代わりの馬の手配をしておくように伝令を走らせたし、2日もあれば着くでしょうよ。」
「また、人助けか…。」
「何か言ったかカクト?」
「いや、なんでも無い。気にするな。」
この頃のカクトには気になる事が増えていた。
なぜ魔王は魔物を自らの魔族領にも送還するのか。
送還するだけなら防衛の意も汲み取れるが、現に魔族も襲われている。
帝国領に強い魔物が多く出現している事を見れば、魔族の人間にとって魔物は生活の糧にも、強さを得る為にも必要な物になり、意図している事はある程度理解できる。
だったらダンジョンはなぜ生まれた。
不定期に出現する魔鉱石や宝玉、明らかに人の手が加えられた装備品までが得られる。
もちろんそこには強い魔物も鎮座しており、それを倒せば更に経験値と素材が手に入る。
これは魔族領にだけでは無く、帝国領にも数多く存在しているのだ。魔物が出なければただ宝を生み出す洞窟となり矛盾が過ぎる。
これではまるで見世物だ
魔族も人族も戦う事を日常化させ、常にお互いを倒す為に切磋琢磨する毎日。
だが、誰が何の為にこんな事をさせる。
そう、考えられるのは一つしか無い。
「神め…。」
カクトは小さく呟くと
肉にフォークを突き刺した




