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えぴそど39 Rain tomorrow

俺たちはブロスの森を当初の目的である、『ワイルドオーク』の討伐とは反対方向に進んでいた。


襲ってきた盗賊を捕え、アジトを聞き出す事に成功したのだ。盗賊は縄で縛られ案内をさせられていた。


「ここまでで勘弁してくれ…まっすぐ行けば柵と小屋が見えてくるはずだ……」


盗賊がそう言うと、いよいよお役御免だ。

ここで始末し、後は全員で盗賊のアジトの殲滅を行うのみ。だが、コースケから意外な言葉が出てきた。


「彼を殺すのは簡単だと思います。このまま生かし、街で正式に罰を受けてもらうべきだと思うのですが。」


賊に情け?いや、どちらにしろブーメルムに戻れば極刑でしか無い。彼の意図が分からなかった。


結局、馬と盗賊を見張る役として俺とメイエリオが残る事になった。俺は無意識の内に握っていた拳をすぐに後ろに隠した。


しかし、残る様に言ったコースケの声はかなり震えていた。責任感からだろうか、武者奮いなのだろうか、如何に彼であってもアジトには何人いるのか分からない。怖いに決まっている。


彼の勇ましい後ろ姿を見送り、俺達はその帰りを待つ事にした。


「貴方はなんでこんな事をしているの?」


メイエリオが突然、木に括られた盗賊に話しかけた。


「こんな事?はっ!まあどの道死ぬんだ、いいだろうお喋りに付き合ってやるよ。俺は元々冒険者だった。賊に堕ちたのは1年前だったか、当時パーティを組んでいた仲間がダンジョンで全員やられたんだ。」


「全員…」


「あぁ、かろうじて生き延びたんだが、周りの反応は冷ややかだった。俺が仲間を見捨て逃げたと言い回ったんだ。そこからパーティを組む奴も居なくなり、街を移っても噂が残る。依頼指名も無く生活に困った俺は今の奴等と出会ったって訳だ。」


「そう…貴方の名前を聞いてもいい?」


「あ?ヤッパスタ。俺の名前はヤッパスタだ。元々はカテリアの街を拠点にして、それなりに名の通ったタンクだったんだ。」


「ヤッパスタね、そのダンジョンで一体何があったの?」


「ああ……出る筈のねぇバジリスクが出やがったんだ。俺は石化を盾でなんとか防いだが、気付けば他の3人は石になっちまってた。どうする事もできねぇし走って逃げるしかなかったんだ…まぁ奴等が言うように見捨てたのと変わらねぇな…」


「…可哀想に…」


俺は黙って話しを聞いていたが、ヤッパスタの名前は耳にした事がある。細身な身体には似つかわしくない大盾を使う将来を有望視されていた冒険者だ。


盗賊行為は見逃せないが、おそらく面白おかしく話に尾をつけられ嵌められたのだろう。冒険者同士は仲間であり商売敵だ、同情の余地はある。


「おいおい嬢ちゃん!なんだそりゃ!」


ヤッパスタの声にメイエリオを見ると涙を零していた。


「ううん…ちょっと思い出しちゃって。私も変な噂とか色々あるから…」


「そうか…大丈夫だ嬢ちゃん。あんたはまだまだこれからだ。俺の様なおっさんじゃどの道こうなる運命だったんだ、気にするな。」


「うん…ありがとうヤッパス……っ?!」


会話の最中、急にメイエリオがヤッパに覆いかぶさる。そこへ大きなキノコが飛んできた。


「ぐぅっ!!魔物…!?」


「くそ!メイエリオ大丈夫…か…」


魔物の襲撃だ。

キノコ型の魔物が3匹。全く気付けなかった。問題はどうやら麻痺の胞子を既に吐いている様だった。身体が痺れ上手く動かない。


「デリシャスマッシュだ!麻痺の胞子と猛毒の爪がある!麻痺は時間が経てば治るが毒だけはもらうな!」


「ユージリン…!うっ…大丈夫!?」


俺はその問いには答えず、歯を食いしばりキノコに向け剣を振るう。だが、見た目に反し表面がかなり硬く、一撃では倒せそうになかった。


「ちっ!メイエリオ!すまない!距離を取って弓で援護してくれ!」


「うん!あ…」


メイエリオ側に更に1匹のキノコが現れる。完全に挟まれる形になってしまった。


「ユージリン!こっちは私が抑えるから!」


「頼む!無茶だけはするな!」


その言葉に俺は任せるしか無かった。

こちらも攻撃を捌きダメージを与えるのに必死だ。


動きも早く、硬い表皮、その上ちょこまかと落ち着きが無い。だが、かろうじて攻撃はワンパターンだ。胞子を吐くか、体当たりしてくるか。


慌てず落ち着いてダメージを積み重ねて行けば、勝てない相手では無い。


「嬢ちゃん!後ろだ!」


ヤッパスタの声に慌てて振り返ると、メイエリオ側にもう1匹キノコが現れ体当たりを受けてしまっていた。


「きゃっう!…このぉ!私だって戦えるんだから!」


今は彼女を信じるしか無い。

俺はようやく1匹のキノコを息の根を止める事が出来た。今は少しでも早く目の前の敵を倒し、彼女の援護をしなければ。


「俺の事は構うな!嬢ちゃん!やめろ!やめてくれ!」


「うっ……もぅ魔物には誰も殺させない!!」


再度見ると、メイエリオがヤッパスタをかばい攻撃を受けている。そしてキノコは更に3匹増え、俺の方に5匹、メイエリオ側に2匹と計7匹になっていた。ジリ貧だ。このままではいけない。


俺はすぐにメイエリオとヤッパの方に向かい、ヤッパスタの縄を切り2人に向かい叫ぶ。


「ひとまず後退する!このままじゃ囲まれてしまう!」


「おお!分かった!ん……おい!にいちゃんやばい!毒だ!嬢ちゃんが毒爪を受けちまってる!嬢ちゃん!しっかり!」


見るとメイエリオの顔が真っ青になり、息遣いも荒い。膝を着き立ち上がれそうに無かった。


不運は重なるキノコはまた増え10匹になっていた。俺達は完全に囲まれてしまう。


「ヤッパスタ!その子を…守っていてくれ!」


「お…おお!任せろ!絶対に守り切る!」


俺は無我夢中でキノコに向かい剣を振るった。

ヤッパスタもメイエリオの弓を振り回し彼女を必死に守ってくれている。しかし多勢に無勢、みるみる傷ついていった。


「こいつらは…ぐはっ!な、仲間を呼ぶんだ!!なんとかしてここを離れないといけねぇ!!くっ!このキノコ野郎が!」


一匹を倒しても2匹、3匹と増えていくデリシャスマッシュ達。気付けば、キノコは15匹になっている。


彼女と縁のある者の多くは死んでいる


皮肉もいい所だ。メイエリオとの距離が近づけば近づく程に高まる死のリスクだと…そんなもの!俺がここでそのジンクスを打ち破る!


一度で斬れないなら二度三度、いや何度でも斬ってやる。この腕がもげようとも俺は生き延びてメイエリオの笑顔が見たい。


「ヤッパスタ!まだいけるか!!」


「ああ!?もう気力も体力も限界だ!次のダメージで死んじまうかもしれねぇなぁ!!……だが!自分をかばった女すら守れねぇなら、死んだ方がマシだぜ!!」


「ははっ!漢だな!街に戻ったら処罰される前に酒を奢ってやるよ!」


「嬉しいねぇ!嬉しくて涙が出ちまうぜ!まったくよぉ!ぐはぁっ!…くそがぁ!舐めるなぁ!頑丈さだけは誰にも負けねぇぞぉぉぉぉ!」


士気はあれど俺も含め肉体の限界が近い、遠くには木の大きな魔物まで近づいてきているのが見えた。いよいよ最後の悪あがきだ。俺は再度歯を食いしばり、キノコを達を斬る。その時だった。


「試してやる!」


不意に後方よりコースケの声が聞こえる。



その声はとても頼もしく残響した


これでユージリン視点は一度お開きです


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