えぴそど36 Once in life
別視点
「なぁ、あんた。その依頼俺に譲ってくれないか?」
俺はくじを持った冒険者に声をかけた。
「もちろんタダでとは言わない。報酬分は先払いで全部渡すよ。護衛を経験しておきたいんだ。」
「あ?てめーは確か…ユージリンとか言ったな。はっ!物好きだなてめー。あぁ!こっちはタダで金が入るんなら構わねぇよ。」
昔からくじ運には恵まれていた筈だが、ここ一番で運悪く外してしまった。
ブーメルムへの輸送護衛依頼。
その余りにも高待遇な上に簡単な依頼に手を上げる者が殺到し、くじにて選ばれる事になっていた。
興味は無かったが、クジに当たった彼女のあの笑顔を見ていたら、居ても立っても居られなかった。
依頼は順調に進んだ。
彼女とは中々一緒の班になれず、話す機会が無い。
その上、彼女は野営中も決まったパーティとずっと話しており、入り込む余地も無かった。
特にあの魔法使い。
リナイと言うのは、もしかしたら噂通り彼女の想い人なのかもしれない。
Aランク目前と言われる、メイエリオとは10も年の離れた男だ。彼と話す時の彼女の顔は一段と輝いていた。
ブーメルムまでの最後の夜、俺は意を決して彼女を誘う事にした。震える手足を誤魔化す為に酒を一気に飲み干すと、胸の鼓動が激しさを増す中、隣の焚き火へと向かった。
「メイエリオ、ちょっといいかな。ブーメルムに着いたら一緒に狩りに出ないかい?」
彼女は頭を傾け、口を尖らせていた。
何かを考えている時は決まってこの顔だ。今までは遠目から見るだけだったが、その顔が俺に向けられている。
とても可愛いらしい
「いいよ。せっかくだし行こうか。」
その言葉が発せられた瞬間、俺の手は無意識にガッツポーズをしようとしていた。止める事が出来なかった為、無理矢理に身体を捻り後ろを向く。
「ありがとうメイエリオ。じゃぁまた明日!」
その時、彼女の後方に居る巨大な熊が目に映り込んだ。さっきまで自分が居た焚き火のメンバーが、次々に殺されていく。
スケアリーベアーと言う強く固く脚の速い真っ赤な魔物だ。
高ランクの冒険者の指示で、俺やメイエリオは商人を逃す手筈を整える。馬を御せるのは自分だけだったので、俺は馬車に馬を繋げる事にした。
4台ある馬車の内、直ぐに出られる様、街道沿いの馬車を選び準備を進める。途中叫び声が聞こえ、辺りに火が付き始めているのが分かった。
馬が火に興奮し上手く繋げられない。
いっそ商人を見捨て、彼女を連れて馬で逃げるか考える。
「ユージリン!まだなの!?」
「もう少しだ!火のせいで馬が大人しくしてくれないんだ!」
後方が見えないもどかしさ、彼女の声から焦りが感じられる。皆がやられているのかもしれない。
俺は頭を左右に振り、馬を繫ぐ作業に戻る。
「馬の準備はできた!そっちはどうだ!?」
返事は無い。
荷台の方では商人の乗り込みが行われている。
「早く出て!早く!」
その声を聞き、手綱をしならせ馬車を出した。
上手くいく
きっと上手くいく
辺りは真っ暗で少しでも気を抜けば街道を逸れてしまう。目が慣れてきたとは言え、今は馬車を走らせる事に集中しなければならない。
カジンの丘が見えて来た頃、辺りは明るくなりつつあった。夜が明けようとしている。
馬も限界か歩き始めてしまった為、馬車を一旦止め状況を確認するが、荷台に彼女の姿は無かった。
商人に問いただすと彼女は馬車には乗らず、盾を構えスケアリーベアーに立ち向かって行ったと言った。
そこで俺の思考は停止する
どれぐらい呆けていただろうか。
俺は馬車を再び動かし、オンダの村に入った。
商人達は村とブーメルムを繋ぐ連絡係と話をしている。馬車には村で急遽雇った御者と護衛を乗せ馬も替えた。
俺も荷台に乗りブーメルムに向かったが、この辺りの記憶は曖昧だ。
幾らかしてブーメルムが見えて来た。
街に入るとすぐ兵士に付き添われギルドに連れて来られた。
ギルド長に色々聞かれた気もするがあまり覚えていない。外は日が暮れようとしていた。
「よし分かった。騎馬隊を編成しろ。スケアリーベアーの討伐と金塊の回収だ。明日の朝一で出せ。」
ギルド長の言葉を聞き兵士が敬礼をし部屋を出て行く。
「俺も…」
「…何か言ったかユージリンとやら。」
「俺も行きます。この目で確かめないと!」
メイエリオが死んでしまったとしても、この目で見るまで信じられない。俺は再びあの場所へ戻る事を決意した。
「……いいだろう。だがその前に今日はしっかり眠れ。今のままでは森に着くまでに倒れてしまうぞ。」
「ありがとうございます。ジャクシン様。」
次の日の早朝、まだ日も明け切らぬ内に宿を出た俺は兵舎に赴き、騎馬隊の集結を待った。
騎馬隊と合流して俺も馬を借り街を出る。
ブーメルムを出てしばらくすると、前方にどこかで見た覚えのある男が荷車を引いていた。
そして、その後ろには金髪をなびかせる彼女の姿があった。
「メイエリオ!」
彼女は生きていた。
この時ほど神に感謝をした事は無かった。
俺は馬を飛び降りると走って駆け寄り、彼女を胸に引き寄せた。
「メイエリオ!本物だ!生きてる!メイエリオ!」
「ユージリン!よかった、無事だったんだね。」
「君の方こそ…なんて無茶をする子なんだ!馬車に乗ってるものだとばかり…」
そして騎馬隊の隊長により、2人に護衛が付けられ街まで連れて行ってくれる事になった。
俺も戻りたかったが、自分で行くと言った事には責任を持たなければいけない。彼女を見送ると俺はハラハラ鳥の森へと向かう。
野営地に着くと悲惨な光景が広がっていた。
人の死体は食い散らかされており、食い残しに鳥が群がっている。
そこにはスケアリーベアーの死体もあったが、食われてはおらず、3頭が並んで倒れていた。
兵士達が辺りの調査や荷の回収を始めた中、俺も徐に歩き状況を目に焼き付けて行った。
ふと、足元に血のついた翡翠のブレスレットを見つける。リナイが着けていた物だ。俺はそれを拾うと袋に入れながら誓った。
貴方の代わりに俺が彼女を守ります
ユージリン視点のお話です
実は元々3話で終わらせる予定が
どう頑張っても7話分になってしまい
さすがにやりすぎだろうと
ゴリゴリ内容を削りました
それでも話を繋げる為に
4話になってしまいました
長くてすみません
やっぱ会話が増えるとどうしても
長くなっちゃうよぉー!