えぴそど3 強肉弱食
足は痛むがこの場所にずっと居る訳にもいかない。
また襲われる可能性とかそんな事より、衣食住を早く確保しなければ。最低限の文化的生活。それが今の目標である。
俺は素っ裸のまま近くに街等が無いか、探し求め歩き出した。一歩、また一歩と進む度に、股間では揺れる想いがペチペチとリズムを刻む。
目に移る限りとても広大な草原。
近くで人が生活している気配も無ければ、川など飲水の確保も難しそうな場所だった。仕方なくステータスボードに何か打開策が無いかを歩きながら確認する。
まず、一番気になったのがスキルボードにあった
《強肉弱食》についてだ。
「じゃくに…いや、『きょうにくじゃくしょく』か?」
語呂わるぅ!なんだかとても読みづらい!だが説明を読むと眩しくて直視できない程ありがたかった!
《強肉弱食》ぱっしぶ
~自身よりレベルが3以上高いものからの攻撃を弾き衝撃を経験値50に変換する~
こいつか!こいつが俺の命を守ってくれていたのか!感謝しかない!語呂悪いとか言ってごめんなさい!そして、このスキルの効果で色々と見えてきた。
まず、ボッコボコに殴ってきた小鬼はレベルが1~3で、巨大熊が最低でもレベル4以上だという事。
レベルが2へと上がってしまった今、今後はレベル4以下の魔物や人間からの攻撃を、普通に受けてしまう危険性まで教えてくれている。それは優しくもデンジャラスな説明なのであった。
さっきの小鬼がナイフを持って突き立てば、あっさり刺さって死に至るかもしれないのだ。その点を差し引いても充分すぎる性能でありがたい。
そしてそのリスクを補うのがこれだな
《れべるかんていがん》ほじょ
これには説明が出てこない。
平仮名と漢字で何か関係があるのか?〈大かま〉も説明は無いがどうなんだ。まぁ鑑定眼で相手を確認してからオラつけば、安心と安全の確保が確約されるというのは判った。
問題はやっぱり攻撃の残り回数だ
〈小かま 45/5〉と表示されているように、右側が必要ポイント、左が所持ポイントである事はすでに理解できている。
要はそのポイントをどう獲得するのか
そう、謎ワード『男気』だ。
最初はレベルが上がる事で加算されるのかと思ったが、今回のレベルアップでは全く増えている気配がない。
付随して気になる事が、次レベルに必要な経験値が7000億を超えているという事。百四十億回攻撃を受けてやっとレベルが上がるかといった領域だ。why!?
平仮名と言い、このデタラメな数値と言い、設定の雑さというか幼稚さが不気味だが、レベルが上がりにくいというのは、強肉弱食の事を考えると大変助かる。
そしてやはり、『男気』はその名称から察するに、男気を見せる事によっての加算なのだろう。それはそれで更にひとつ疑問が増えてしまう。
そう ” 誰が判定しているのか ” だ────
閑話休題
しばらく草原を歩いていると、整地された道(とは言っても草などが刈られた砂利道)に出ることができた。ようやくこの草原ともおさらばできそうだ。
なにより明らかに人工的な街道を目にする事により、少なくとも知性を持った生き物の存在を感じられ安心する。
生命維持を大前提に文化的な生活を取り戻す。
今の俺にとっては叶えるべき夢であり、必要なトッププライオリティだ。
後は、地平線の彼方まで続くこの道を、右に行くのか左に行くのか…
これゲームならここで必ずセーブするやつ
自身の運命が確実に変わってしまう選択だ。
どうする、天に身を任せ木の棒でも倒したいが、周りには草しか生えてない。
じゃぁ草を空中に放り投げ、風に流された方に行ってやる!と、おもむろに足元の草をむしる。投げたそばから俺の顔や身体にベチベチと舞い戻ってきた。
うん、投げる前から風向きくらいわかっただろ。
草の攻撃で体がどこか青臭くなっていた時、不意に馬の鳴き声が聞こえた。鳴き声がした方向を見ると、馬車が4台程まとまってこちらに向かって来ている。
「キャラバン…か?」
人らしき御者も見える。
これはチャンスだ。手を振ってなんとか助けてもらえば、安全に街まで届けてもらえるかもしれない!
「おおーぃ……」
と声を出しかけたところで問題に気付く。
ひとつは言語が通じない可能性がある。
俺は悲しき旧人類の日本人。日本語以外喋れない。そもそも地球の言葉が通じるのかどうかも不明だ。
海外の映画の、違う惑星のエイリアンですら英語は喋れるのに、俺にはその知識がない。
転生ものだって通じるパターンと、一から覚えていくパターンとあったはず。うわぁ嫌だなぁ…語学勉強は気がのらないなぁ…
もうひとつは御者の後ろ、荷台から強面の男がこちらを見ていた。しかも腰にある剣に手をかけている。
文化の違いはあれど、一番危惧するのは江戸時代的な考えだ。大名行列の邪魔をすると、問答無用で切られたという話を聞いた事がある。
馬車の雰囲気的に、中世ヨーロッパなイメージだが、その作りから貴族の馬車ではないとしても、行列様をお止めするにはリスクが高すぎる。
保護してもらう事は一旦諦めるしか無かった。
俺の目の前を通り過ぎる頃には、御者は鼻で笑い、荷台からは大きな笑い声が聞こえていた。
4台と笑い声が通り過ぎた後、今更自分が素っ裸である事を思い出し涙が出た。
股間もどこか悲しそうに項垂れている