えぴそど256 危険な夜
森の近くに築かれたキャンプ地に着くも、簡易的な塀で囲まれた中は、モナオの汚物汚染の所為で入れない。
どっちにしろ魔物がうろつく場所での野宿だ。
塀があろうが無かろうが、交互に見張りを立て、交代で休むのがセオリーだと思う。
とは言っても、そうなると実質的に、私とイノイチさんの二人が交代で見張る事になる。
幸いな事に魔物の匂いに敏感なトモが居る事と、未だ信用半分だが守備適正はある王冠花も居る。
明日の為にも、無理やり休んで明日に備えるしかない。
テント設営後に火を起こし、野菜を煮込んだだけの簡単なスープとパンで腹を満たすと、モナオとシュナは早々に寝てしまった。
いや、別にいいんだけど、秒速でいびきをかいたモナオにはイラっとした。
私だって朝から動いてて、結構疲れて眠いんですけど!!
「メイエリオ、一晩くらい寝なくても私は大丈夫だ。君も頃合いを見て休むといい。」
そんなイノイチさんの嬉しすぎる提案だったが、無理を言って付いて来てもらっているにも関わらず、申し訳ないと思い『交代でいこう』と慌ててブロックサインを送る。
「ふっ、そうか。なら、少し私の話に付き合ってくれ。」
腰から鞘ごと剣を抜き、焚き火の近くに腰を下ろしたイノイチさんは、火で沸かしたお茶をカップに入れ、私に差し出した。
私は差し出されたカップを受け取ると、イノイチさんの隣へと腰を下ろす。
焚き火が時折パキっと音を立てると、火の粉がほのかに舞い上がった。
「今回の件だが、もし私が断っていたらどうしていた?」
一息付いた様子を見計らい、イノイチさんは正面を向いたまま私に質問を投げかける。
私は少し首を傾げながら『今のメンバーで行く』とサインで返す。
「……花の見分け方も、危険性も知らずにか?」
『なんとかなる 突撃』
これは半分冗談だったが、私は半笑いの状態でサインを送る。
「ふっ、メイエリオ、君は強いな…昔からそうなのか?」
少し質問の意図が分からなかった。
昔からそうなのかと聞かれても、私は自分が強いと思った事は無いし、特に何も変わって無いと思う。
いや、変わったとすれば、コースケ達と出会った事が大きい。
自分でも気付かない内に、あの濃い日々で強いと思われる程になっていたのかもしれない。
『強い 教えてくれた 仲間 居る』
ブロックサインの中に適切なもの無い事が多いので、私は少しモヤモヤとしながらサインを送るも、イノイチさんは毎回見事に汲み取り答えてくれる。
「それは素敵な出会いがあったんだな……その仲間は今何をしてるんだ?」
そういや何してるんだろう。
別に手紙を送り合ってる訳でも無いし、もう半年以上会っていないけど、多分元気にはしてると思う。
『分からない グループ バラバラ みんな 強い 心配ない』
「班が…散り散り…消息不明か……喧嘩別れでもしたのか?」
『別々の目標 追いつめる』
「そうか、それぞれの目的に合わせ、別行動を取っていると。その間に連絡のやり取りはしていないんだな。」
そうそう!いや本当にすんごい汲み取ってくれる。
「その仲間とは、もう会わないのか?」
私は首を横に振り『一年 締切 集合 今 8ヶ月』とサインを作る。
すると、焚き火が照らすイノイチさんの口元が、少しだけ緩んだ気がしたが、見直してみると、いつものイケメンクールフェイスだった。
「そうか、あと4ヶ月程で会えるんだな。」
『問題発生 私 目的 達成ならず』
そう、私はまだレンジャーの試験に合格出来ていない。
ギルドでは二ヶ月に一度試験があるのだが、私はここまで2回挑戦し、二回とも落ちている。
「ちなみに、メイエリオの目的はなんだったんだ?」
『レンジャー』
「……なるほどな。今日の行軍中の立ち振舞から、君は既にレンジャーなのかと思ってしまっていたが、まだ見習い中だったか。」
私は嬉しいような悲しいような、カップを両手で包み、少しづつお茶をすすった。
「メイエリオ、正直君にはセンスを感じる。几帳面で繊細な感覚を持ちながら、決して臆病では無い。怖いもの知らずと言えば、レンジャーに向いて居るとは聞こえないかもしれないが、時には大胆な行動も必要だ。」
どうしよう、急に褒めちぎってきたんだけどこの人。
やだ、お茶じゃなくてお酒飲みたくなってきたし。
「だが、今はこんなトラブルに見舞われ、おまけに幼い子どもの面倒まで見ている。はっきり言って、これは君にとって不安要素な筈だ。違うか?」
正直痛い所を突かれた。
連れて行く事を了承したのは私自身だけど、シュナは自分で身の回りの事は一通り出来るからと、甘く見ていた所もあった。
そうは言っても、子供は子供だ。
元々捨てられていたシュナは、時々とんでもない事をしでかす。
人が見ている往来で、落ちている食べ物を拾いポケットに入れたり、何処で汚したのか、服が汚いままでも気にせず学校に行ったりと、衛生概念に難がある。
そのうえ、力の使い方に関しても、先に魔法で注意した様に、これからまだまだ課題が残りそうだ。
私はイノイチさんの言葉に、すぐに返す事が出来ず、改めてカップのお茶を呑んだ。
「……別にメイエリオやあの子が悪いと言っているわけじゃない。俺は……君の力になりたいと思ってる。」
その言葉に私が顔を横に向けると、イノイチさんは私の顎元を優しく掴み上げ、口づけを交わした。
「……君があと4ヶ月以内に試験に合格出来るよう、俺に手助けさせて欲しい。俺と一緒に住もう、メイエリオ。」
きたこれ




