えぴそど252 天才
午前11時過ぎ、私達はヤーを出てガルガン砦を目指した。
軍の人が進みやすい様に、ある程度の幅の道が出来上がっているものの、途中には森を抜けなければならない場所もあり、いつ魔物の襲撃があるか分からない。
この中で一番守らなければならない存在は、言うまでもなくシュナだ。
危険察知能力としては、ピカイチであるハティのトモの上に乗っている事だし、過剰に心配する必要は無いけど、それでも出来る事はしておかないと。
行軍時の編成として、先頭にレンジャー見習いの私が立ち、その後ろにピッタリと離れないモナオ、その後ろにトモとシュナ、そして最後尾にイノイチさんが回ってくれた。
そこまで強い魔物はいないはずだから、どうせならイノイチさんとおしゃべりしながら進みたかったな…
ちなみに今の台詞の選択肢はこうだ。
▶『これだ!見つけたぞ!』
▷『危ない!みんな下がれ!』
▷『だめ、モナオ。みんなが見てる…』
今までの傾向的に、表示される台詞にはある程度の未来予測が含まれてる気がする。
一番上はおそらく花を見つけられた時用だとしても、何を見つけたのかが無いから私は騙されない。
二つ目は安に魔物の襲撃を意味してるかと思えるし、三つ目に至っては200%使う事が無いから安心して。
なんせ、相変わらず碌なものは無い。
ちなみに、私のメイン武具は普段弓なんだけど、レンジャーとして先頭を歩く時には不向きな武器になるから、こういう時は25cm程の短剣、ダガーを持ってる。
これならダンジョン探索の時も邪魔にならないし、とっさに飛び込んで来た魔物にも対処しやすい。
レンジャーの学校では短剣講習があるくらい、レンジャーとして、ナイフは無くてはならいアイテムらしい。
そうそう、武器と言えばこれ。
足に絡みついた王冠花。
なんで急に蔦が足に絡みついたのか、街を出る前にイノイチさんに聞いてみたんだけど、イノイチさんにもい分からないらしい。
ずっと鉢を持ったままだったから、イノイチさんに蔦を切るかと聞かれたけど、なんだか可哀想だからそのまにしてる。
流石に鉢は邪魔だったから、手頃なバックパックを買って、今は背中に背負っている状態。
私の見立てでは、きっと私に危険が及んだ時にでも開花して、攻撃をガードとかしてくれちゃったりするんじゃないかなーーーーーーって、その上、物凄い戦闘能力で敵を圧倒してくれるんじゃないかなって期待してる。
期待というか、もう確信的。
そうこう考えながら、森へと続く長い草原道で、私は周りに目を配りながらも、先を急ぐ為どんどんと進んで行く。
そんな私の後ろのモナオは黙って付いて来るだけなんだけど、シュナとイノイチさんは何かを話してるみたい。
時折、シュナの笑い声の様なものが聞こえてきて、少しだけ振り返ると、イノイチさんの表情も柔らかく楽しそうだ。
悔しいというか羨ましい…
ん?
魔物が居た。
といっても、ただの子鬼だ。
まだ街から出て1時間も経っていないこの場所は、いわゆるドボーク平原。
ドボーク平原に居る子鬼と言えば、ベビーゴブリンと呼ばれる超絶雑魚だ。
身体は小さく、知能も低い。
冒険者が落とした武器なんかを持ってる事があるから、刃物だった場合は気をつけないといけないけど、今の私に間違っても傷を付けられないくらい弱い存在。
このまま進めば、向こうも気付いて向かってくるかもしれないから、今のうちに弓で仕留めてもいいけど…
私が後ろを振り返ると、後ろの全員が子鬼に気付いていた。
そう、私はシュナに狩りの練習をさせようか悩んでる。
立ち止まり、私は思い切ってイノイチさんに向けブロックサインを送ると、イノイチさんは頷き、シュナに説明してくれた。
「おねぇちゃん!私やってみる!」
うん、良い返事だけど、そんな大きな声を出したら…
ほら向こうも気付いちゃったよ。
私は念の為に弓に持ち替え、トモの所まで下がると、トモの顔を見ながら『シュナをお願いね』と心の中で言った。
トモはシュナを乗せたままゆっくりとパーティの先頭に出ると、向かってくる子鬼達から目を離さず待ち構えていた。
向かってくる子鬼は全部で6匹。
そこら辺に落ちていそうな、太めの木の枝を手にしているのが5匹、1匹だけ錆びたナイフの様な物を持っている。
斬れないにしろ、突き刺さっては流石に危ない。
私が刃物を持った子鬼だけを射抜こうと弓を構えると、トモの前方の地面に、やや大きめの魔法陣が展開した。
ん、え、あれ。
あの魔法陣ってもしかして光属性の色してない?
「目標を意識して、射線上範囲内に固定する……それで、それで、えと、入った!!後は放つだけ!今!ライトクローーーーース!!!」
〈中級光魔法 ライトクロス〉
子鬼が揃いも揃って魔法陣のある場所に足を踏み入れると、シュナが魔法を発動した。
十字に強烈な閃光が走り、天に向かいそのまま光の壁を作り上げる。
ええ、天才魔法少女だとは言いましたけどね、まさかこんな子供が中級魔法を使うと思いますか?
しかも光属性だよ…びっくりするぐらい難しいんだよ?光属性に転換するって…私出来ないし。
子鬼?
そんなん秒で蒸発っしょ。
こんな雑魚に使う様な魔法じゃないし、私ってばボール系のさ、例えばファイヤーボールとかウォーターボールとか、そういうのが出るかなーって思ってた訳。
この子、学校でどういう立ち位置なのかな。
私は無表情のまま、横にいるイノイチさんに顔も向けると、イノイチさんも無表情のまま固まったいた。
シュナは初めての勝利に大層喜びながら
トモと一緒にはしゃいでいた
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「メイエリオだし!!」
「シュナだよー」
「次回のカマ切り戦士は!なんかこう!なんやかんやあったけど!いい感じじゃない!?上手く進んでないこれ!?」
「おねぇちゃん凄い元気だね!」
「シュナたんの魔法にはかなりびっくりさせられたけど、私だってこれからすんごーーーーく活躍するシーンがあると思うの!」
「楽しみだねおねぇちゃん!」
「………なんてね…私知ってるんだ…この筆者が私の事そんなまともに扱う筈が無いって…もういいや…死のう…」
「情緒不安定すぎるよおねぇちゃん!(汗)」
「次回!泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる!【えぴそど253 お花畑】ぜったい読んでよね!」
「いよいよモンチロマッチョイだね!」
「それはどうかな…」




