えぴそど249 花を求めて三里 γ
翌朝、私は足首を掴まれている感覚に襲われ、慌てて目を覚ます。
布団をめくると、右の足首に王冠花の蔦が絡まっていて、蕾自体も昨日より明らかに大きくなってた。
私は底知れない恐怖に感じ、慌てて蔦を外そうとするけど、固く巻き付いていて全然ほどけない。
ただ、幸いな事に声を張り上げ驚く状況にも関わらず、未だに自由に喋る事は叶わず、シュナに変な不安感を抱かせる事だけは回避できた。
しばらく蔦と格闘した後、『ま、いっか』と諦め、王冠花の鉢を抱きかかえリビングに向かう。
扉を開けると、昨日と全く同じ場所に同じ格好で、前を向いたまま座り続けるモナオが居た。
正直、王冠花が絡みついてきた事より、こっちの方が百倍ホラーだ。
王冠花は自我を持つって聞いてたし、傷つけれた訳でも無いから、甘えてきたなんだな位で流せたけど、モナオは違う。
私の中で少しずつだが、仮説が浮かんできた。
一つは、魔物の類である説。
人化出来る魔物は相当稀だけど、今まで居なかった訳じゃない。
相当高位の魔物の中には、そういった事が出来る個体も居ると聞いた事はある。
ただし、そこまで知性がある魔物なら、もっと人らしい行動をしようと振る舞うと思うし、トモが見逃さないと思う。
なので、この説は却下。
次に、魔法人形の類である説。
一般的にゴーレムと呼ばれる種で、分類的には魔物と大差無いけど、これは人が創り出し指示を出す事が可能だ。
だけど、ここまで精巧に見た目を造り込ませる事なんか不可能だと思うし、そもそもそこまでして私に接触させた意味も分からない。
体温もあるし、別段魔力を感じ訳でも無いのでこれも却下。
そしてもう一つは操られている説。
モナオが本当の名前かどうかはさて置き、この人はこの人でしっかりと確実にこの世界に存在していて、何かしらの洗脳を受け、人格を乗っ取られているのでは無いかという説。
そうだとしたら、ゴーレムの考えもそうだけど、なんの為に私の所に?それとも、私が勝手に関わっちゃっただけなのかな。
よく分からないや…
「おねぇちゃんおはよう。」
モナオを眺めながら、そんな事を考えていると、シュナが目覚め起きてきた。
私は笑顔でシュナの頭を撫で、言葉の代わりとしておはようを返す。
「おねぇちゃん、その花大丈夫?」
シュナは私の足に蔦を絡ませる王冠花を見て心配してくれたけど、私は笑顔のまま肩を竦ませ、何でも無いよと戯けてみせる。
「そう…ならいいんだけど。ギルドに行くんだよね?私準備してくる。」
本当は学校に行き、開校しているかどうかの確認もしたい所だけど、この謎イベントを終了させる方が先決だ。
私は一旦、王冠花もモナオの事も頭から消し、シュナと一緒に出発の準備を進めた。
▶『行こう!ガルガン砦に!』
▷『まずはメンバー集めにギルドへ行こう』
「まずはメンバー集めにギルドへ行こう。」
支度を整え、朝食を食べ終わると、私は台詞の選択肢を選ぶ。
「ああ!そうだな!行こう!」
半日ぶりにモナオが返答を返すと、立ち上がり私の後ろに移動した。
真後ろに陣取った事を不審に思い、試しに部屋の中を移動してみると、モナオは私の後ろをしっかりと付いて来る。
ま、変な場所で固まられるよりは、これの方が動きやすい。
ギルドに向かうにしても、イノイチさんが来るであろう時間にはまだ早い。
私は時間を有効活用する為に、ダンディズムの所へと向かう事にした。
街に出ると、昨日と比べ兵士の姿が多く見られ、北で起こった戦闘騒動が、まだ収まっていない事が分かる。
もしかしたら、その犯人が逃げていて、周辺の街に潜伏してるのかも。
ハピスさんやユージリンだったりして(笑)
「おはよう。装備を見るに、今日ガルガン砦に行くつもりなんだね。」
露店の前にまで来ると、出店準備をしているダンディズムが気付き、こちらに声をかけてくれた。
私はすかさずシュナに向かいジェスチャーを送ると、シュナは何かを察してくれたのか、前に出てダンディズムに挨拶をした。
「あの、私シュナって言います。おねぇちゃんがお世話になっています。よろしくおねがいします。」
「……あ、ああ。よろしく。」
「実は、おねぇえちゃんは、今上手く喋る事が出来ない呪いの様なものにかかってて、それで…」
「……呪い?そうか、それは大変だね。」
思ったよりも反応が薄い。
だが、今はそんな事よりやっておきたい事がある!私はすかさずシュナに追加のジェスチャーを送った。
「?……あっ!あの!お名前をお伺いしてもいいですか?」
グッジョブ!シュナたん!
「僕かい?僕の名は……スケ………イザーだ。そう、スケイザー。しがない花屋だよ。」
「ありがとうございます。ちなみにおねぇちゃんの名前はメイエリオって言います。」
「そうかい…ありがとう。話を折って申し訳無いが、メイエリオは喋れなくとも、話を聞く事は出来るんだろ?モンチロマッチョイについて、あの後調べてみたんだ。」
するとスケイザーは地図を広げ、私に近付いて見るように呼んでくれた。
「ここがヤーで、ここがガルガン砦。この街道を通って行けば、比較的魔物は少ないらしい。」
それは凄くありがたい情報だった。
「今までの詳しい発見場所は皆教えてくれなかったが、色々な話を聞く限り、モンタロメッチョラの群生地の中でも、大体この辺りか、この辺、後はここら辺だと僕はふんでる。」
更にありがたい情報が上積みされる。
「ただ、この辺まで行くと魔物の数は劇的に増え、更にモンタロメッチョラの数も多い。後は君達次第ってとこだな。」
スケイザーは地図を丸めると私に差し出してくれた。
正直ここまで調べてくれた事にとても感謝している。
「無事で帰って来る事、花が見つかる事を祈っているよ。」
私は何度も頭を下げ、スケイザーの花屋を離れ、ギルドへと向かう。
足に巻き付いたままの王冠花について
全く触れて貰えなかった事が少し悲しかった
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「メイエリオです…」
「シュナだよー」
「次回のカマ切り戦士はー…まぁ花を探しに行くんじゃない?知らないけど」
「げ、元気出しておねぇちゃん(汗)」
「つか、いつまで章名が(仮)なの…もう『花を求めて三里』でいいじゃん…」
「う、うん。そうだね…あっ!で、でも、おねぇちゃんと久しぶりに一緒にお外行けて、うれしいな!」
「だねー私もそこは嬉しいけど…ま、悩んだって仕方ないか!ちゃっちゃと花を見つけて、モナオをぶん殴ってやろー!」
「おー!…って、だ、駄目だよおねぇちゃん!」
「次回!泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる!【えぴそど250 花を求めて三里 δ】ぜったい読んでよね!」
「やっぱそのタイトルは続くんだ」




