えぴそど240 北へ!
ジャンカーロを出た俺達は、馬車に揺られ、帝国北部を目指した。
「それにしてもこれ結構早いな。スカイアロー領へはどれくらいかかりそうんなんだ?」
馬車は馬を6頭連結しており、更にはセシルが乗っていた魔鉱石車の仕組みも取り入れている事から、王国で乗っていたものとは、比べ物にならないほどの速さで走っていた。
「あー……普通は10日くらいだが、このペースなら5日ってとこじゃねーか?」
「これでもそんなにかかるのか?」
「そりゃ、帝国領の最北部と、最南部だぜ?できれば避けたい最短距離の中央部を通ってもそんなもんだ。ま、そのこのデカブツを下ろしゃ、3日には短縮できるだろうけどよーぎゃはー!」
「あぁ!?やっぱこいつ殺す!」
「いつでもこいやー!ぷるぴっぽーい!」
「おいヤッパスタ!いい加減に慣れろって!子供に遊ばれ過ぎだぞ!桃犬も、必要以上にヤッパスタをからかうのは辞めてあげてくれよ。」
「うぐっ…でもよぅ旦那ぁ…」
「へーへー」
「コースケの言う通りなのです。それにしても、桃犬が持ってきたこの紅茶、中々素晴らしいのです。ね?アルネロ様。」
「うむ、かなりうまいな。ここまでほうじゅんなかおりのこうちゃははじめてだ。」
「がひゅー!だろー?ランスター山脈で栽培された茶葉は、寒暖差が激しい気候から、抜群の風味を引き出すんだぜ!しかも、今飲んでるやつはセカンドフラッシュの最上級品だからな!」
「なるほどなのです。そしてこの茶菓子もあなどれないのです。ね?アルネロ様。」
「うむ、フォークがとまらんな。じょうひんさのなかに、しげきてきなしょっかんがふくまれ、なおかつみためでもたのしまされる…すばらしい…」
「ぶひゅひゅひゅー!だろだろだろー?それは南部貴族御用達のパティシエが作ったやつで、皇族にも献納された程の高級菓子だからなー!予約が数ヶ月先まで埋まってる幻の逸品だぜ!?ぷるぴっぽーい!」
「けっ!女子供が菓子だの茶だの手懐けられやがって…」
アルネロですら感情を出しているかの様に喜ぶ姿を見て、ヤッパスタは心底気に食わない様子だった。
「おい、でかぶつ。」
「あぁぁぁん!?まだなんかあんのかボケ!」
「これやるよ。泣いて喜べ。」
桃犬はヤッパスタに小箱を渡した。
「は?てめぇ、開けた瞬間爆発なりするオチだろうが!騙されるかよ!」
ヤッパスタが箱を座っている椅子に投げつけると、クッションにバウンドした小箱は、馬車の外へと飛び出しそうになった。
すんでの所を、桃犬が器用にアクロバティックな体勢で足にひっかける。
「おい…でかぶつ…」
「あぁぁ!?」
「これは旅立つお前に、エリシアが用意した餞別だぞ。」
「はぁ!?い、いや、ま、まじか!!!」
「分かったなら、大人しく受け取れボケ。」
そのまま体勢を直し、桃犬は足でヤッパスタに箱を再度渡した。
ヤッパスタが慌ただしく箱を開けると、中から手紙が出来てた。
何が書いてあったのかは分からないが、ヤッパスタは瞬間的に恍惚の表情で大粒の涙を浮かべ、同じく同梱されていた腕輪を取り出すと、食べるんじゃないかと思う勢いで頬に擦り付けた。
「よ、よかったなヤッパスタ。かっこいいデザインじゃないか。つけてみろよ。」
「おーい”おい”おい”!!う”ぐばぁぁ、あ”い”い”ぃ”…」
嗚咽で何を言ってるのか分からなかったが、ヤッパスタが腕輪を腕に近づけるも、細身な身体になぜか腕だけはごついヤッパスタには入らず、ぐしゃぐしゃの顔で俺の方を見てきた。
「う、腕に入らなくても…あれだ!何かに付けて、首飾りにするとかさ!」
「コースケ、それパーフラ教の司祭以上が作れる、天使の腕輪なのです。傷を負った際に微力ながら回復させる、マジックアイテムで、腕に付けないと効果は無いのですよ。」
「入らないんだから仕方ないだろ!」
「はぁ…貸せ。」
桃犬が腕輪をヤッパスタからもぎ取ると、有無を言わさず腕輪に剣先で切れ目を入れた。
その光景を見て、桃犬の背後で鬼の形相で怒りのオーラを放つヤッパスタを余所に、桃犬が手で切れ目を広げると、それをヤッパスタに差し出す。
「こいつの構造は理解してる。サイズが合わない場合、ここを切り離して広げるんだぜ。バングルにはなっちまうが、これで付けられるだろ。ほらっ」
ヤッパスタは無言のまま差し出されたバングルを腕につけると、何とも腑抜けた表情になり、とても満足したかの様に、腕に付けたバングルを頬に何度も擦り付けていた。
「はぁ…全く。」
馬車の中は騒がしいながらも、上手くやっていけそうな雰囲気を感じ、俺は微笑ましいながらも、そう呟いた。
「あー紅茶飲みすぎておしっこしたくなってきたな。」
「私もなのです。膀胱が暴動を起こしそうなのです。」
「うむ、わたしもだ。」
「おーい!なんか、適当に止まれそうなとこないー?」
桃犬が不意に馬車の前方に向け叫ぶと、前方より溜息が聞こえた。
「はぁ…分かりました。適当な所で休憩を入れましょう。」
今までなんで気付かなかったのか、仕切りの向こうでは御者が座っており、御者は仕切りを下ろすと、そう答えた。
「紫熊ぁ!早くしないと漏れるぞー!きゃふーい!」
その言葉に俺は驚き、御者を再度見ると、馬を御していたのは、森で俺が鎌をいくつも刺してしまった紫熊だった。
「はいはい…ん?なんですかコースケ。私の顔に何か付いていますか?」
「え!?いや!えー?!なんでここに!?」
「なんでって……私も北部に用事がありますので…それに、これは元々私専用の馬車ですよ。」
「言えよ桃犬!」
「なんでだよー別に戦う訳じゃないんだからいいだろー?」
「アルネロ!?」
「わたしはきいていた。きにするな。」
「なんだよー!!!もー!!!!」
「コースケ、うるさいのです。」
俺にとって頗る居心地の悪い馬車へと変貌したが
俺達は順調にあの男の元へと向かいだした
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「ヤッパスタだ!」
「グリカなのです」
「さて、次回のカマ切り戦士は!見ろ!これがエリシアさんからの愛の証!婚約腕輪だ!」
「次回関係無い内容から来たですね。都合の良すぎる解釈で、彼女もさぞ迷惑しているのですよ」
「うるせぇ!ほれ見ろ!ここにヤッパスタとエリシアって彫ってやったんだぜ!へへんっ!すげぇだろ!!苦労したぜ!」
「おおぅ…見事に核となる宝珠部分に傷を…しかも綴を間違えてる…ここまで馬鹿だと、いっそ清々しいのですよヤッパスタ…」
「これで俺は無敵の愛の戦士にランクアップだー!!」
「傷付けて効果はランクダウンだー(棒読み)」
「うぐっ!じ、次回!泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる!【えぴそど241 ドキっ!出会いはいつも突然に!】ぜってぇ読んでくれよな!」
「この流れでボケなのか本気なのか分かりづれぇのです…」
 




