えぴそど236 アドレナリン
「そりゃぁ…あれですかい?勇者が居るっつーベロベロンの奴ですかい?」
「レベリオンなのです。」
「そう!アズ・バーネット!俺達が助けたのは、レベリオンの総司令官だ!」
俺はジャンカーロの街をアルネロを探す為に走りながら、ヤッパスタとグリカに状況を説明していた。
「でも、なんでそんな奴がこんな所に一人、意識失って川流れたんで?」
「おっさんの見事な川流れだったのです。」
「そんな事は今はいい!ともかく、アルネロにこの事を知らせないと!」
「んージャンカーロは広いのです。ここからは手分けするのが得策だと思うのですよ。」
「そうだな!一時間ごとにあそこの噴水に集まろう!」
そこからは手分けをアルネロを探し、街を走り続けた。
元々今日は別行動をする予定だったが、アルネロは自身の予定を詳しく教えてくれない。
その為、総当たりで街中をくまなく探し続けるしかなかった。
途中、俺はフットプリンツが拠点とする倉庫にも向かったが、そこでもアルネロは疎か、桃犬も居ない様で、捜索は更に難航する。
そして…
「はぁ…はぁ…はぁ…」
何度目かになる噴水の前に着くと、日が暮れ始めており、息を切らしバテているヤッパスタとグリカが座り込んでいた。
「ひぃ…ひぃ…だ、旦那。居ねぇぜどこにも…ひぃ…ひぃ…もう走れねぇ…」
「グリカの体力は完全に終わったのです…もうベッドで回復させるのが得策だと思うのです…」
「はぁ…はぁ…そうだな、二人は先に宿に戻っておいてくれ、アルネロもそろそろ帰ってくるかもしれない。」
「旦那はどうするんで…?」
「俺は、アズ・バーネットとの約束通り、彼がここに居る事を知らせてくる…」
二人と再び別れ、俺はセシルの屋敷へと向かった。
アズから頼み込まれ、幾分か時間は経ってしまったが、こちらとしても事情が事情なだけに、独断では動き辛い。
遅くなったとはいえ、大目に見てもらい所だ。
とは言え、セシルの屋敷はジャンカーロの中でも高台に作られており、辿り着く為には坂道を上らなければならなかった。
筋肉が悲鳴をあげる中、必死の思いで屋敷の前にまで来ると、顔馴染みの門兵達が駆け寄ってくる。
「コ、コースケ様!大丈夫ですか?顔色がよろしくないようですが。」
「ぜはぁぜはぁ…え、ええ…俺は大丈夫です…ぜはぁぜはぁ…それよりも、スティンガーは居ますか?」
「スティンガー殿はハゼルゼ様に呼ばれ、城に出向かれており、まだ戻ってきておりません。」
城…
そう屋敷より更に坂道の上の高台にあるジャンカーロの中央砦の事だ。
高く頑丈な城壁を誇るジャンカーロの街の中で、唯一城壁外を見渡す事が出来る城。
その言葉を聞いた俺の何かが、音を立てて崩れていくのが分かった。
「あ、あの…コースケ様?」
「え?あ、ああ、はい。あはははっ!」
「お急ぎであれば馬を用意致します。おい!馬を出せ!」
「「はっ!!」」
「おね……いや!待って下さい!!」
「え?」
「おれ……行きます!走ります!」
この時の俺は蓄積された疲労と乳酸から妙なテンションになってしまっていた。
「お、お待ちを!そんなお疲れの身体では!怪我をされるかもしれません!」
「コースケ様無茶です!熟練の兵士でも全力で走って3分はかかります!そんな膝が笑っている状況では!」
「死ににいくようなもんです!コースケ様!何卒ご再考を!」
「男には……」
「「「え?」」」
「男には!無茶だと分かっててもやらなければならない事もあるんですよ!!」
「うっ…こ、コースケ様…」
「分かりました!行って下さいコースケ様!」
「気合です!コースケ様!絶対に!絶対に行けます!そして…生きて戻って来て下さい!」
変なテンションの俺に対し、門兵達も仕事疲れか、変なテンションになっていた。
そして坂道を上がり出した俺に対し、門兵達からはいつしかコースケコールが始まっていく。
「「「コースケ!コースケ!コースケ!コースケ」」」
さながら、駅伝や何時間テレビのエンディングの如く、声援を受けながら、俺は目一杯に力を振り絞り坂道を駆け上がる。
あと体力はどれくらい残っているだろうか
その先で俺は何を手にするのだろうか
いや
そんな事は正直どうだっていい
引き裂かれた筋繊維の悲鳴を無視し
視界も霞んでしまう中
今は一歩でも前へ着実に進む
難しく考える必要は一切と無い
早くある必要は全く無い
ただその足を前に出し進め
俺は俺が納得するエンディングに向かい
走り抜ければいい………
俺は坂道を半分の所まで来ると
物音を感じ顔を上げた
「おーコースケじゃないか、体力作りか?精が出るなー」
なー なー なー なー
そんな俺の横を、馬に乗ったスティンガーが坂道を下って行き、その声は俺の脳裏で反響した。
我に返り振り返ると、門を開けスティンガーを屋敷に迎え入れた門兵達がとても複雑そうな顔をしている。
俺が苦笑いを浮かべると、門兵達は目を逸し、涙をぬぐっている様だった。
そして俺は力尽き
サムズアップをしながら
その場に倒れた




