えぴそど233 for a day
俺が人狼の洞窟で目を覚ますと、そこに人狼の姿は無く、外から人の話し声が聞こえた。
痛みが残る身体に力を込め、声がする方向に出ると、そこには人狼と、フードを深く被った者達が数名立っていた。
「ん?あれは…おいおい人の子だろ。攫ってきたのか?」
「あー、なんか勝手に私の家に入り込んでたの。今日街に返すつもりよ。だいたい攫ったってお金にならないでしょ。」
するとフードを被った者達が俺に近づき、舐めるように頭から足の先までを見てきた。
「いや、これくらいの子なら充分金にはなるが…」
「じゃぁあんたが買ってよ。ツテが無ければ一緒だし、リスクが高すぎるわ。」
「……あぁ良いぜ、買ってやる。なんとかしてみよう。」
交渉がまとまったのか、どうやら俺はフードの連中に売られた様だった。
俺は無言のままその場に立っていると、お金を受け取った人狼が近付き、膝を曲げた。
「悪く思わないでね。私も生きていくのに一生懸命なの。」
「大丈夫。昨日は泊めてくれてありがとう。」
「……はぁ…」
人狼は俺の頭を撫でると、手を引きフードの集団に渡した。
「悪いようにはしない。ここで大人しくしてろよ。」
「うん。」
フード付きのコートを着せられ、荷車に乗ると、フードの集団は森の中を進みだした。
俺が大人しいせいか、特に拘束などはされず、途中途中には食事や水も与えられた。
フードの集団は、森の中に身を潜め暮らす獣人達を廻り、盗品や生活品の売買を行っている。
フードの先から立派な牙と豚の様な鼻が見えていたことから、猪人と思われた。
オーク等と同一視されがちだが、そちらは知能が低く、魔王に召喚された醜悪な見た目の魔物であり、どちらかと言えばゴブリン種やオーガ種に近い。
耳や牙、鼻を除けば人に近い猪人は、このオークと比べられる事をかなり嫌う。
俺はその後数日程、猪人達と共に森を進み、ある日、見晴らしの良い平原へと出た。
そのまま平原を進むと、先に馬車が見え、人が立っているのが分かる。
まだ大人とは言い切れない青年風情の男と、その男の足にしがみ付いた獣人の子供だった。
馬車の元まで来ると、荷車は止められ、猪人と青年が何かを話している。
「そうですか。仰る通り人身売買はリスクが高すぎる。そういう事であれば、私達が引き取りましょう。この金額でどうです?」
「ええ、ええ充分です。すみません、いつも良くしてもらって。」
「構いません。我らが主、ユウジ君は全ての亜人を平等に扱い、守ってくれます。貴方達こそ、故郷を追われた亜人の方々の為に頑張ってくれています。これくらいの事はさせてください。」
「う…あ、ありがとうございます。」
よく聞こえなかったが、猪人達は全員フード越しにすすり泣き始めた。
それから他の荷物のやり取りを済ませると、猪人達は俺の頭を撫で別れた。
「さて、君。記憶が無いと聞いたけれど、少しでも覚えている事はありますか?」
「名前……名前はリオンって事くらいなら。」
「そうですかリオン。私は紫熊。こっちは碧栗鼠です。」
「シグマとアオリス…」
「そうです。貴方の記憶が戻るまで、私達が貴方を保護します。一緒に行きましょう。」
「うん。よろしくおねがいします。」
そう俺が言うと、紫熊はにっこりと微笑み、碧栗鼠がしがみついままの足で俺の方に近付くと、手を差し出してきた。
俺がその手を握り返すと、紫熊はそのまま俺を馬車に乗せ、フットプリンツの拠点となる鉱山へと向かう。
荷物に囲まれた荷台では、獣人の子と二人きりだったが、ずっと俺に背を向けていたので、俺も特に構う事無く、黙ったまま馬車に揺られていた。
鉱山に着くと、中はとても広く、まるで街が丸々そこにあるかの様に様々な建物が建っていた。
人もたくさんおり、人種だけでは無く、獣人も数多く見られ、活気が感じられるほどに皆何かの作業をしている。
俺は紫熊に手を引かれたまま奥にある建物へと連れて来られると、中に入り、すぐに風呂へと入れられた。
「リオン、今からとても偉い方にお会いします。まずは身体をしっかりと洗いましょう。ちょっと臭います。」
「うん。」
「良い子です。私は先に言って話しておきますので、終わったら──」
「どれどれー!?紫熊が攫ってきたって子はー?」
説明をする紫熊を押しのけ、女性が更衣室に入ってきた。
「ひ、緋猫さん!人聞きが悪いですよ!私は亜人達が危険な目に合わぬ様、引き取ったに過ぎません!」
「んー?そんな事どっちでもいいよーこの子かー育ち良さそうな子だねーよっす!おら緋猫!」
「……よっす、おら…リオン。」
「うわわー!ノリ良すぎー!!ねー紫熊ぁ、この子を風呂に入れるんなら私が見とくよー」
「……分かりました。では私はユウジ君に報告を。」
その後、初めて会った緋猫に体中を無理やり洗われたが、正直この時の緋猫が無茶苦茶過ぎて、俺の意識は若干薄い。
風呂から出てぐったりした俺が着替えると、緋猫に手をひかれ、ある部屋へと連れて来られた。
そこには、不思議な格好をした男が座っており、その後ろには、恐ろしいほど冷たい目をした男が立っていた。
「よー!リオンつったっけな!わいはユウジや!よー来たな!どや!風呂は気持ち良かったか?」
「うん、ありがとうございました。」
「かまへんかまへん!ほんま、ちっちゃいのにしっかりした子やなー!ほんで、記憶喪失なんやてな。可哀想に……記憶が戻るまで、ここにおったらええからな。なーんも心配あらへん。わいは困った子を見捨てる様なアホちゃうから。」
当時の俺は、ユウジ君の不思議な喋り方を半分ほどしか理解していなかったが、その目はとても優しく、俺は自然とユウジ君に惹かれていた。
そうして俺はフットプリンツのメンバーと
過ごす事となる




