えぴそど231 for a while
俺は母と引き離されると、森の中を走る馬車の荷台で縛られていた。
しばらく進むと、馬車は森の奥で止まり、外には複数の人の気配が感じられ、話し声も聞こえてきたが、俺は拘束と目隠しをされ、せいぜいその会話を聞くくらいしか出来なかった。
「手に入れたんだろうな?」
「はい。こちらです。」
「貸せ!……ふんっ、古代文字か…これは…ニホンゴとかいうやつ臭いな。あの女の考えやすそうな偽装だ。おい!あの中に読める奴がいただろ!確認してこい!」
「はい、レンドウ様。」
「……あの者達は?」
「あれは俺の奴隷だ。魔物が出たら足止めをさせる為のな。」
当時の俺はその名を知らなかったが、母が所属する軍の研究施設で、母と成果を競い合っていた魔導師の一人だった。
帝国中央の有力貴族の子息だった為、こういった裏の人脈は数多くあれど、本人に才能はあまり無く、今回の様な事を繰り返し、今の地位に居た者と思われる。
「それでは、私もこれで。」
「ああ……ん?おい、あれはなんだ。」
同じくザッカートもその場を離れようとしたのか、引き上げる挨拶をすると、レンドウが俺に気付きその足を止める。
「はい、先程の書類。私では真偽が判断しかねた為、保険として連れて来ました。リーファの子供です。」
「はぁ!?おい!おいおい!お前馬鹿か!あの超が付く子煩悩から子供を奪い取って来たのか!?」
相手の男は大層取り乱した様にザッカートに向け、言葉を荒げていた。
「ご安心を。この後すぐに連れ戻しておきます。」
「ああ!すぐに送りかえ……あああああ!いや!駄目だ!駄目!おい!さっき俺の名前を言ってた奴が居るだろ!聞かれた!絶対に聞かれたぞ!!」
「大丈夫です。まだ4才の子供です。恐怖でそれどころではありませんよ。」
「いや!駄目だ!万が一にでも俺の関与が漏れては駄目だ!………殺そう…そうだ、殺してしまおう!」
「落ち着き下さい。そうなれば、リーファだけでは無く、父親のアズももう止まりません。」
「うぐぐぐぐっ!……あっ!そうだ!そうじゃないか!!!おい!さっきの文書を読める奴は居たのか!?」
「はい、おりました。キジュハの者です。」
「よし!おい!お前、この魔方陣を組めるか!?」
「………いや、無理でしょうよ。こんな複雑なもの…仕組みが分かった所で、簡単に使えるもんじゃない…少なくとも翻訳だけで数日、展開するまでに数ヶ月、まともに使うには数年って所でしょうよこれそれ。」
「それでもやれ!毒を付与しガラハトを発動させるんだ!!家に帰す頃合いで死ぬようにな!これが出来たら、約束通りお前の借金はチャラだ!今すぐ開放してやる!」
「……本当に良いんでしょうね?」
「ああ!!毒だ!」
「いや、そっちじゃなくて、借金の事。」
「いいからやれ!」
「くくっ、へーへー」
まるで言い争いの様な声が聞こえてはいたが、その時の記憶はとても曖昧だ。
「さてと…んーこうか?いや違うでしょうよ…こうだな。」
「おお!魔法陣が!やったか!……ん?何をしている、早くあの子供に向け放て。」
「くくっ、いやおめでたいお方だなって感傷に浸ってたんでしょうよこれそれ。こんな最高位レベルの魔法を簡単に使える訳ないでしょうよ。」
「なに?貴様………かはっ……」
「レンドウ様!!」
目隠し状態の俺には、何が起こっているのかさっぱりだったが、恐らく仲間割れを起こしたのだと思われた。
「残念だったな!これが手に入ればお前達にもう用は無いでしょうよ!はははっ!」
「くそっ!全員でかかれ!レンドウ様の仇を取るんだ!」
「「「「おぅ!!」」」」
争う音が聞こえる中、俺の身体が急に宙に浮いた。
「リオン!逃げるぞ!」
ザッカートが俺を抱きかかえ走っていたのだ。
俺が目隠しを外すと、先程まで居たであろう場所では何人もの兵士達が戦っている光景が広がっていた。
肝心の相手の姿は馬車で遮られ見えず、結局、生き残りが居なかったこの戦いで、未だにこれが誰だったのかは不明だ。
「ぐふっ!」
「ザッカート!?」
「だ、大丈夫…だ…ぶはぁっ……はぁ、はぁ、行くぞ……」
ザッカートの背中には、ナイフの様な物が刺さっており、苦悶の表情を浮かべながらも、ザッカートは俺を抱きかかえたまま走り続けた。
◇
「ん?逃がさないでしょうよこれ…よいしょっと!………お?心臓に刺さってんのに走るって頑張り屋さんでしょうよこれ。すごいすごい。」
「貴様!最初からガラハトが目的で近付いたのか!」
「は?当たり前でしょうよこれ!どんな魔法も時限式に変えられるんだぞ!?これがあれば、天舞だって怖くないでしょうよ!!お前ら本当にこれの価値分かってんのか?でもそんなアホの子だから、借金踏み倒すだけで簡単に奴隷にしてくれて、心の底から感謝してるでしょうよこれそれ!」
「くそっ!殺れ!もっと攻めろ!囲え!」
「はははっ!無駄無駄無駄ぁ!!」
一方的すぎる蹂躙する音は
しばらく森に響いていた
・
・
・
ヤ「ヤッパスタだ!」
グ「グリカなのです」
ヤ「さて、次回のカマ切り戦士は!おいおいおい!まだ続くのかこのつまんねぇ回想!もういいだろ!俺の活躍する話しに戻すべきだ!」
グ「それなりに重要な内容を含んでいると思うのです。むしろ、ヤッパスタが活躍する話が、今後あると思っている事にびっくりなのです」
ヤ「うおい!するだろ!まだハピス嬢から貰った薬も使ってねーぞ!」※1
グ「薬に頼って活躍とか…」
ヤ「ううううううるせぇ!ぜってぇ一番輝いてやる!」
グ「輝きすぎて怒られていたのです」※2
ヤ「うぐっ!そ、それにしてもこの魔法を奪った奴って誰なんだろうな!俺の勘がぜってぇやべぇ奴だって言ってるぜ!」
グ「本気で分かってなかったらひくです」
ヤ「わ、わわわ分かってるさ!盛り上げようと!はははっ!はは…」
グ「ほんとに分かってないとか…」
ヤ「じ、次回!泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる!【えぴそど232 桃犬今度こそ死す!つか死ね!やられろ!やられてしまえ!】ぜってぇ読んでくれよな!」
グ「………もうなんでもいいのです…」
※1:えぴそど147 ヤッパスタエクセレント
※2:えぴそど166 眼球クリティカル




