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泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる  作者: 青狗
突撃☆隣のクソ野郎 中編
230/258

えぴそど230 for a long time

父が遠征に出かけた日、俺は母と共に一日を過ごした。


「リオン、ここはこれでも正解なんだけど、こっちの術式を使う事に慣れておくと、より高度な魔法陣の作成時に役に立つわ。あ!も、もちろんこっちの術式は難しいから、無理だったらいいのよ!?もし、もし出来るならってだけで!ね?ね?」


「はい、大丈夫ですお母様。ありがとうございます。」


「んーーーー!!どういたしましてー!んーんー!」


母は基本ぶっとんだ性格をしているものの、勉学については非常に丁寧に分かりやすく教えてくれるなど、まともな一面も多い。


感情の起伏が激しく、どこにスイッチがあるかも分からない人だったが、俺は母と一緒に居る時間が、何よりも楽しかった。


「あー、雲行き怪しかったけど、ついに降って来ちゃったわねー」


父が出立して数時間ほどが経ち、昼食を済ませた頃、外では大粒の雨が降り出し、風も強くなっていた。


時よりガタガタと音を鳴らしながら揺れる窓を気にしつつ、母に見守られ、勉強を続けていると、二階から小さく何かが割れる音が聞こえる。


「ん?……何か割れたのでしょうか…?」


俺は思ったままを口にしたと思う。


正直、この辺の記憶は少し曖昧だ。


俺が机から顔を母に向けようとした時には、既に母の周りには魔法陣が展開しており、見開いた目は二階への階段を凝視していた。


「おかあさ──」


「しっ!」


母は俺の言葉を遮ると、ゆっくりと俺を抱きかかえ、もう片方の手で、自身の魔導書を掴むと、展開していた魔法陣を上書きし、更に強力な魔力を込めだした。


その時の俺は、鬼気迫る母の横顔に危険を察知し、必死に母にしがみついているのがやっとだった。


嵐の様に強くなる外の暴風雨の音が、二階に続く階段からだけ強く聞こえる。


そして、階段からは木材の軋む音が鳴り、何かが降りてくるのが分かったが、それはすぐに顔を覗かせた。


「リ、リーファ様!わ、私ですザッカートです!」


そこから現れたのは、俺の子守役であるザッカートだった。


俺は安堵し表情を緩め、母に再び視線を戻すが、母の顔は強張ったままだった。


「も、申し訳ございません急に。この近くを歩いていたのですが、急に雨風が強くなり、雨宿りをと…」


ザッカートは話ながら階段を降りてくるが、いつもと随分と雰囲気の違う格好をしている。


「止まりなさい。ザッカート、今すぐそこで止まりなさい。」


母がようやく口を開くも、その声は半分震えているかの様にか細く、尚も近付いてくるザッカートに対し、後退りを始めていた。


「リーファ様…雨が止みましたらすぐに帰りますので、どうかその……エゼルキルの魔法陣を今すぐ消せ。」


表情も声も別人かと思えるほどに豹変したザッカートが手をあげると、二階や窓からも次々と男達が家の中に侵入してきた。


すっかり囲まれた母と俺だったが、母は足元の魔法陣に更に魔力を注ぎ込み、それは既に家全体を飲み込む程に巨大なものとなっていた。


「ザッカート、その者達を連れ今すぐ引き下がりなさい。さもなくば!」


「さもなくばだと?何を言ってんだ。お前こそ聞いてたのか?俺はその魔法陣を消せと言ったんだ。俺はこれでも話し合いに来ただけなんだぜ?」


破られた窓から吹き抜ける風は尚も強まり、俺は今まで感じた事の無い恐怖を抱きつつ、母にしがみついていた。


「……ここに居る半数は殺せるわ。」


「半数だろ?残りで目的を遂行するだけだ。」


「……ザッカート…貴方がうちへ来てもうすぐ一年。最初からこれが目的だったの?」


「ああ、そうだ。お前の研究していた新たな魔法。『ガラハト』と名付けたらしいが、その魔法陣を頂く。いやぁ長かったなぁ…ベビーシッターも上手かっただろ?その餓鬼もちゃんと世話してやったんだからよ。」


「……ここには無いわ。全て軍の研究所よ。」


「嘘だ。そちらはずっと調べているが何も無かった。必ずここに置いてある。」


「……無理よ。あれを貴方に教えた所で、すぐに使える代物では無いわ。」


「そんな事はどうでもいいんだよ。それが欲しいのは……だからよ。」


ザッカートは指を天井に向け上下に振りながら、ほくそ笑んだ。


「まぁ、要するに、あんたにこれ以上でかい顔されちゃ困る人が居るって事だ。安心しろ、命までは奪うつもりは無い。まずはガラハトの資料を出せ。それとも、その餓鬼を俺達に殺させたいのか?」


その言葉に母は魔導書を机に置き、震える俺の身体を撫でると、魔法陣を解いた。


「良い判断だ。餓鬼をこっちに渡せ。資料が本物だと分かればすぐに返してやる。俺だってそいつには愛着が湧いてるしな、悪い様にはしないと約束してやる。」


母はその言葉を聞くと、俺を強く抱きしめ『大丈夫、大丈夫だからね。』と俺の耳元で囁き、近付いて来たザッカートに俺を渡した。


「リオン、大人しくしてれば痛い思いはしなくて済むし、すぐに母親といつもと変わらぬ日常を過ごせる。お前は頭が良い。今は俺の言う事を聞いてろ。」


ザッカートに手を握られながら諭されると、俺は訳も分からないまま頷く事しか出来なかった。


「資料は…この中よ。」


母が壁の何も無い所に手をかざすと、壁の一部が発行し、魔法陣と共に箱が姿を現すと、箱の中から複数の書類の束を取り出した。


「なんだこりゃ…読めねえぞ、ただの落書きじゃねーか。」


ザッカートの仲間がそれを手に取ると、ザッカートに向けひらひらと振りながらぼやく。


「それは…おいおいわざわざ古代文字で書くとはご丁寧なこって。良いだろう。それを全て回収し戻るぞ。リーファ、これに懲りたらもうこの仕事は辞めろ。次は無いぞ。」


ザッカート達はドアを開け、家から出ていこうとしたが、俺を連れたまま手は離さなかった。


「ザッカート!?約束が違うわ!リオンを返して!」


「何を言ってんだ。これが本物だと分かればと言っただろ?」


「本物よ!保障する!」


「それは今から調べる。もし違ったらどうなるか…あ、そうそう…旦那にも軍にもこの事は一切の他言無用だぜ?さもないと…」


ザッカートは俺の首筋にナイフを突きつけた。


「……分かったから!その子に!リオンだけには傷一つ付けないで!」



雨の中泣き崩れる母の姿を背に

俺はザッカートに連れられ家を離れた

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