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泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる  作者: 青狗
突撃☆隣のクソ野郎 中編
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えぴそど229 for a spin

「リオン、父さんと母さんは仕事に行ってくる。ザッカートの言う事を聞いて、しっかり留守番しておくんだぞ。」


「はい!お父様!お気をつけて!お母様も!お仕事頑張って下さい!僕も頑張って勉強します!」


「うぅー!!なんて良い子なのリオーーーーン!駄目!だめだめだめだめ!!私この子を置いて行けない!今日は休むわ!!仕方ないの!これはそう!仕方無い事なのよーーー!きゃふー!!」


「な、何を言ってるんだリーファ!学会の締切まで時間が無いんだろうが!ほら!くっ、なんて力だ!ザッカート!リオンを奥へと下げるんだ!早く!」


「は、はい!アズ様!」


「いやーーー!!リオーーーーン!!愛してるわー!!」




これが俺、後の桃犬こと、若干4才のリオン・バーネット。




尤も、この時はまだ爵位を持っていない両親に姓は無く、只のリオンだ。


父は帝国軍兵士として、魔物討伐で数多くの功績を上げ、平民出身で騎士の称号が無いながら、若くして皇帝陛下より直々に軍を任せられる程に大出世した傑物剣士。


母は多少ピーキーな所があるものの、父と同じく平民ながら魔力操作に非常に長け、魔法学校を出ていないも関わらず、魔導師の称号を与えられた天才学者だ。


そんな才能の塊である二人から生まれた俺も、わずか4才にして文字の読み書きが出来、様々な書物を読みながら勉学に励んでいた。


「リオンさん、お飲み物は紅茶でよろしいですか?」


「はい、ザッカートさん。お願いします。」


なぜ平民の地位に居座る父が、貴族出身の兵士を大半に持つ一軍の指揮官になれているかと言うと、これは恐らく俺と母の為だ。


元々、皇帝陛下より騎士爵の打診が何度もあったにも関わらず、父はそれを頑なに拒み続けた。


貴族階級に尊敬の念を常に持ち、平民出身の自分が、そこに並ぼうなど恐れ多いとかいう建前だったらしい。


(詳しくは知らん)


この何とも嘘くさい理由に、欲が無く、自分達の益を損なわないとして貴族達はこぞって評価し、特例として、指揮官として任命されていた。


本当の所は、勇者が出てこない所為で王国との戦争が風化され、貴族達は自身の利権に絡んだ派閥争いに精を出している。


貴族達は内心、自身の息子達が軍で何か問題を起こせば、トカゲの尻尾切りと言わんばかりに、父を弾劾する気だったのだろう。


そうなれば、何の後ろ盾も持たず、それこそ爵位すらない平民の父など、問答無用で処罰される。


父は父で、そんな泥沼の中央政権に、鳴り物入りの自分が名前を連ねた所で、瞬く間に飲まれ、俺や母親に危害が出る危険性があると悟ったのだろう。


今覚えば、俺の父は相当なお人好しだ。


「ではリオンさん、私は一階で待機しておりますので、何かあればお申し付け下さい。」


「ありがとうございます、ザッカートさん。」


この頃の俺にとって、父と母は愛すべき対象であり、二人の自慢の子で有り続ける為に努力する、何とも健気な子供だった。


そう、あの日までは…


────


────


────



「ではそろそろ行くとするか。」


この日、父は魔物討伐の為に軍を率い、帝国の西部方面に向かう事になっていた。


「はいあなた、あまり無理をされませんように。」


「大丈夫だ。お前達を残してくたばる様なヘマはしないさ。」


俺と母は父を見送る為に玄関まで来るも、母から放たれる殺気に、俺は終始警戒をしていた。


「あと…分かっているでしょうけど。途中の街や、野営地で女を連れ込んだらどうなる事か分かっておられますよね?」


「あ、ああ!もちろんだリーファ!お、俺がそんな事する訳ないだろう!?」


今まで実際に父が他の女性に手を出した訳では無いが、母は嫉妬心の塊であり、冗談でも匂わす事すら出来ない女性だった。


そんな母の問い詰めに、父だけでは無く、俺も焦っていた記憶がある。


「飛ぶ鳥を落とす勢いで出世し、実力と人望を兼ね備え、皇帝陛下にすら期待されている有能な戦士アズ。巷では随分と持ち上げられ、ファンも多いのですってね?」


「だ、だ、誰がそんな事を!お、俺は知らんぞ!あ!そう言えば、ザ、ザッカートはまだ来ないのか!?」


「……ザッカートは今日来ません。私が今日はこの子を見ます。昨日お伝えしたでしょうに。」


「そ、そうか!そうだったな!ははっ!よし!では行ってくる!リオン!良い子にしているんだぞ!あー今日は一雨来そうな空だな!!ははっ!」


「はい!お父様!どうかご無事で!頑張って下さい!僕もお父様の様な立派な戦士になれるよう、頑張ります!」


その言葉に父は微笑みつつ、俺の頭を撫でると、マントを翻し、父は逃げる様に家を出た。


騎兵だけは無く、歩兵が大半の軍となり、移動に時間がかかり、少なくとも十日は帰ってこない。


母は多忙な身ながらも、父が遠征中の間は仕事を早く切り上げたり休んだりと、なるべく俺が寂しくないようにと、一緒に居る時間を捻出してくれていた。


母の過剰とも言える愛情は、今尚俺が人として自我を保てている精神的な支えの根源とも言える。


「ねぇ、リオン。」


「はい、何でしょうかお母様。」


「むふーん!何でも無いの!呼んだだけなの!きゃはー!可愛いわー!!ああああああ!!」


「そ、そうですか。あ、そう言えば学会の準備は上手くいっているのでしょうか」


「ん?あーあれね。もちろんよー私が組み立てた新しい魔法陣が発表されれば、世界がひっくり返る事間違い無しだわーふふんー!」


「おめでとうございますお母様、天才ですね。」


「ぎゃふーーーー!!作った私でも使えない程ややこしいやつなんだけどねー!!いやぁぁぁ!!!もっと褒めてー!リオーーーン!私の事をもっと褒めてー!きゃはひっぽーい!!」


「い、痛いです、お母様。」


「あああああん可愛い私の息子リオン!リオンリオンリオンリオンリオンリーオーン!」



平和なんて薄い氷の上に立つ

クソみたいなもんだって俺は知る事となる

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