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泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる  作者: 青狗
突撃☆隣のクソ野郎 中編
227/258

えぴそど227 大きなおっさんが

俺は体力を削られた身体に鞭を打ち、何とか身体を起こすと、運んで来た人を仰向けにした。


肺は動いており、呼吸はあるので生きてはいるようだが、意識が戻らない。


大柄のその人は立派な髭からして男性ではあるものの、頬はかなりげっそりとし、唇もひび割れている。


もしかしたら、何日も飲まず食わずの状態だったのかもしれない。


どちらにしろ、意識が戻らなければ水を飲ませる事も叶わないと思った俺は、呼びかけながら、その男性の頬を軽く叩いてみたが…


「駄目だな。どうしよう…」


「旦那、こんな時は人工呼吸って聞いた事がありますぜ。」


ヤッパスタがサムズアップで歯を輝かせながら、こちらを見る。


「まじか、え、でも、俺はちょっと無理かも!ヤッパスタ頼む!」


「いや、俺だって無理ですぜ!こんなおっさんに!そうだ!グリカ嬢がんばれ!」


「……」


俺とヤッパスタの視線を集めたグリカは、無言で男の身体を触り始めると、体勢を低くし始めた。


その光景に、俺はなんだか得体の知れない高揚感に包まれる。


「体温は低くないのです……むしろ高い。舟に乗っていた時から濡れて無かった事から、溺れていた訳では無いのです。呼吸は荒いながらもしているですし、人工呼吸をする必要は皆無なのです。」


そりゃそうだわ。


「えと、でも、これどうしたら?」


グリカは俺の方を見ると、なんとも蔑んだ目をしながら、軽い溜息をついた。


「このパーティーに回復処置が出来る者は居ないのですよ。それでもこのおっさんを助けようとするのであれば、魔物討伐を中断し、ジャンカーロに連れて帰るのが一般的かと思うのですが?」


語気にやや苛立ちを感じさせる程、グリカは若干不機嫌だった。


反抗期の娘を持つとこんな感じなんだろうか。


いや、口を聞いてくれるだけまだマシか。


「そ、そうだよな。い、一般的にはそうだよな!流石だよグリカ!は、ははっ…よし!ここを片付けて、街に戻ろう!」


俺は男性を運ぶ為のソリをヤッパスタに頼み、グリカと一緒に広げていた魔物の素材を回収し始めた。


木を削りソリが出来上がると、男性を乗せたソリをヤッパスタが引張り、俺が魔物の素材を持ち、グリカに警戒を頼み街へと戻る。


森の深くまでは入っていなかった事と、一本道を魔物を倒しながら進んでいた事もあり、街道へ戻るのに、そう時間はかからなかった。


広い荒野に出ると、遠くでは冒険者のパーティーがちらほら見え、何処かへ向かっている。


「このペースなら一時間も歩けばジャンカーロに着くだろ。」


「それにしも変だぜ旦那。このおっさん、外傷が全然ねぇ。舟に乗ってた事を考えても、なんで気を失ってたんだ?」


まあ、言われて見ればその通りだ。


「……意識を失った状態でこの呼吸の荒さは、恐らく何かの毒なのですよ。服の中心に何かの染みが残っている事から、嘔吐していた可能性も高く、正直、一刻を争う重症かもしれないのです。」


「毒って事はやっぱり魔物にやられたとかか?」


「魔物にやられたか、森や川で毒性のものを口にしたか、そこまでは分からないのです。」


「何はともあれ、早く医者に診せろって事だな。」


俺達は足を速め、ジャンカーロを目指した。





「つまり、このタイミングで勇者陣営に攻撃を仕掛けると?幹部の貴方が?寄りも寄って、あの緋猫の仲間と?ふざけているんですか、桃犬。」


光も届かない地下の一室では、苛立った空気を出す男に、桃犬が問い詰められていた。


「あーもー面倒臭いなーだから碧栗鼠を寄越せって言ったんだよー!紫熊は絶対反対すると思ってたし!」


桃犬は苛立ちを向ける紫熊に向け、存分に嫌そうな表情を見せ、足をバタバタしてごねていた。


「そ!れ!に!紫熊も知ってるだろ!あのサブダブだぞ!」


「天舞を除けば、重要人物であり、要注意人物の筆頭ですね。」


「だろ!?だからもし仮に消すことが出来たら!うちとしても万々歳じゃねーか!」


「だからこそ慎重に行動すべきでしょう。いつ勇者を裏切るかも分からない状況で……はぁ…桃犬、分かっているでしょう?彼が動き出せば、世界は収束に向かい一気に加速する事を。」


「わーかーってる!っての!」


「いえ、貴方は分かっていない。サブダブが裏切れば、同時に勇者はこの世から消える。逆に言えば、サブダブが勇者を暗殺する事で裏切りとして成立する。ユウジ君の理想を叶える為にも、一番の障害となる存在をこちらの被害無く消す。これはとても重要で、必要なストーリーです。」


紫熊は苛ついた雰囲気を出したまま、表情を変える事なく桃犬をまっすぐに見つめた。


「……今、ユウジ君はどうしてるんだよ。」


「ユウジ君は…お休みになられている筈です。身体に負担が大きい能力なので。」


「時雨とかいう変な雑魚を量産させた所為だろ。紫熊、お前こそ分かってるのか?あれは紅梟が──」


そう言いかけた桃犬に、紫熊は顔の前に指を立て、桃犬の言葉を遮る。


「桃犬。貴方が彼の事をどう思おうと勝手ですが、仲間内に不穏因子を出す訳にはいきません。しかし付き合いの長い貴方を簡単に失いたくは無い。今のは聞かなかった事にします。私の前でそれ以上言わないでください。」


『ガシャン!』


桃犬はテーブルに置かれていたカップを掴むと、壁に向かい思いきり投げつけた。


「けっ!お前もそっちに付くのかよ!あーあー!もう何がなんだかなー!!ぎゃふっー!!!」


「ともかく、裏切りが公になるまで、勇者陣営への攻撃は許可出来ません。情報に対する等価交換と言うのであれば、別の方法をお考えなさい。」


「………分かったよ。裏切りが判明するまでは何もしねぇよ。」



そう言い紫熊にそっぽを向いた桃犬の口元は

笑っていた

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