えぴそど221 密封会談
「俺は補佐役として、ベルの意向に沿いながら行動する事になっている。あいつは今、自身に味方する貴族を増やそうとしているんだ。」
桃犬は俺にも酒を渡すと、自身も口にしながら話を続けた。
「元々ベルは勇者を良く思っていない。あれが世界を救う等と、どうしても思えないってな。」
「それはそれであれだな。勇者は帝国から厄介者認定され、賢者は帝国の事なんか微塵も守ろうと思っていない。そんなんで本当に──」
「大丈夫かって?大丈夫だろ。前にも言ったが、今までもそうしてきたんだ。天舞が居なくとも、王国が攻めて来ない限り、この国はなんとでも回る。」
「そんなもんか。」
「そんなもんだ。」
「……じゃぁ、賢者はランスター家を味方に引き入れようと工作してるのか?」
「ランスターだけじゃない。ここを中心に南部には、中央から目も向けられず、燻っている地方貴族がうじゃうじゃといる。」
「燻っている?」
「ああ、戦争も無く、大した特産品も無いから上手く経済を回せない。税は減り続けるものの、魔物の襲撃は増え支出は増える。未来の無い下級貴族達だ。」
「これだけ聞くと、内戦がいつ起きてもおかしくないように聞こえるな。」
「……争いなんていつ起きてもおかしくないぜ。この世界はいつだって開戦前夜だ。要は争いの後、国を興すにしても、それを支持するものがいなけりゃ意味が無い。ベルやサブダブはああ見えて、政治ってやつを良く分かってやがる。」
「そうか、君達がジャンカーロに居る目的は分かったよ。」
「なら、続きを話せ。大分と中がおっさん臭くなってきたからな。」
桃犬が張った魔法壁の中は、壁外との空気を遮断してしまう為、俺の加齢臭が充満して…ってうおい!俺の香りはいつだってフレッシュグリーンだ!
「あ、ああ。第三の神の話だな。」
「そうだ。康介、貴様がその第三の神から信託を授かったとでも言うのか?」
「そうだ。だが、俺に力をくれた神の目的までは分からない。」
これは嘘だ。
まだ、全てを桃犬に話すつもりは無い。
「……丞之座、郭東神に次ぐ第三の神の存在か…魔物活動が活発化している原因はそこなのか…しかし、康介に信託を与えたとして、第三の神の目的は何だ…」
桃犬は口元に手を置き、ブツブツと独り言を言いながら、何かを考えていた。
「……なぁ、桃犬は二柱の神が何を目的としているのかは知ってるのか?」
「…ああ、郭東神の目的は単純明快だ。王国陣営を壊滅させる事。これは歴代の勇者、賢者の発言で一致している。」
そうだろうな。
俺も知ってはいたが、あえて聞いたのはポーズだ。
「だが、丞之座に関しては資料が少ない。基本的に歴代の魔王は他人と関わらる様な人間じゃなかったし、拳王も丞之座の事を記録として残している者は少ない。唯一残っている丞之座の言葉は、『王国に仇為す王朝の者達を根絶やしにせよ』だ。」
まぁ、そういう戦いだからな。
そこまで言うと、桃犬は再び独り言を言いながらふさぎ込んだ。
「両者共に土地と、そこに住む者達を守る為の神だと信仰されてきた。なら、土地を持たない第三の神の目的とは……いや、そもそも今まで丞之座は邪神として存在し、それを討つ為に勇者や賢者が生まれたとされている……第三の神が王国側で生まれたとすると、丞之座の仲間として考える方が早いか。」
彼の推理が間違った方向へと行っているが、俺がそこを指摘する事は無い。
「……まぁいい。それで、康介。第三の神について証拠は出せるのか?」
そう来ると思っていた。
今の俺に信託を受けた刻印が無い以上、このまま喋っても、俺の妄想の嘘物語と化してしまう。
かと言って実際の所、俺自身も未だに夢なのでは無いかと思える程、滑稽で突飛な展開だった。
だから、今出せるものとしてはこれだ。
「証拠になるかどうかは分からないが、俺のスキルについて教える。」
「……ふっ、それが何を意味するのか分かってるのか?」
「ああ、もしフットプリンツが敵対する場合……いや、敵対する者に桃犬が情報を渡せば、俺は死ぬ可能性がうんと上がるって事だろ。」
「分かっているならいいが、そこまでして俺を引き込みたいのか?変な奴だな。」
「もちろん、全てを話す訳じゃない。その一歩手前、明らかに神が作り出したであろうスキルを話す。」
「……いいだろう。言ってみろ。」
俺は、桃犬に強肉弱食とれべる鑑定、バーストモードについて話した。
ただ、強肉弱食にレベルが関係している事は伝えず、ただ全ての攻撃を弾くとだけ説明している。
「………試してもいいか?」
「ああ、そこにある剣で思い切り刺すなり斬るなりしてみてくれ。」
桃犬は部屋内に置かれていた剣を手に取ると、おもむろに俺に対し真上から振り下ろした。
もちろん金属音が鳴り響くだけで、俺の身体には何ひとつ傷は付かない。
だが、衣服は切れる事を忘れてしまっていた。
思い出した時には後の祭り、俺の服はすっぱりと左右に別れ、『ふぁさ』っと床に落ちる。
「……今のは単純な斬撃だ。魔法壁のレベルが高ければ同じ現象にはなるだろうが。」
「魔力を使用している素振りがあるか?いや、そもそもその魔法壁を極めたとして、拳王の攻撃を無傷で凌げるとでも?」
「……なるほどな。キラハとの戦いに合点がいった。そしてお前が目撃される度に真っ裸だった理由もな。」
そう、下着も含め切れてしまった為、俺は今すっぽんぽんだ。
桃犬は更にゆっくりと剣を俺に向け出し、俺の身体を貫こうとする。
剣は俺の皮膚上で、『カキッ!』と短く鳴り、見えない壁で止められてしまう。
「……良いだろう。信じてやる。」
その言葉に、今回の交渉の成功を半信半疑にしていた分、嬉しさがこみ上げ、立ち上がると桃犬の肩を掴んだ。
「本当か!一緒に来てくれるのか!?」
「それとこれは別の話しだ。」
傍から見れば
美少年に掴みかかる真っ裸の変態がそこに居た




