えぴそど22-勇1 餓鬼の種
柿の種じゃありません
みんな死んでしまえばいい
こんな世界滅んでしまえばいい
その日が来るまで全てから奪い
喰らい尽くしてやる────
少年は名を失っていた。
誰に呼ばれる事も無く、誰に名乗る事も無くなった名に、存在価値は無くなり消えた。在るのはこの世界へ対する憎悪のみ。
帝国領、アスタリア国との国境に近い、旧キジュハ王朝跡にある貧民街。
少年はこの場所に流れ着き、寝床にしていた。少年が持つ一番古い記憶は、この場所でゴミ山を漁り、雑草を食べていた事。物心付く頃から独りで生きてきた。
食べる為には仲間も裏切り
食べる為には人すらも殺めた
なぜ自分は此処に居るのか、何者なのか、何の為に生きているのか何も分からない。考える事すら止めた少年は、今日も獲物を求め森に入って行く。
王朝跡の北に広がるジュナ大森林は、毒性を持つ魔物のホットスポットになっており、自生する植物は全て毒気に侵されている。
木の実や果物、キノコ等はとてもでないが食べられない。だが、飢えた貧民街の子供達は我慢できずに食べてしまう事がある。もちろん食べた者は全員死んだ。
少年の目的はそういった物では無い。
この森にはダンジョンがあり、冒険者が数多く訪れる。そのダンジョンから出てきた冒険者を狩るのだ。
少年が冒険者狩りを始めたのは半年前。
ダンジョンがある事を知った彼は、売れる物を探す為に潜る事にした。入り口まで着いた時、魔物にやられ瀕死のパーティーがちょうど出てきた所だった。
冒険者の一人が少年に助けを求める。
3人の内2人は重症、残る一人も満身創痍の状態。すぐに街に運ばなければ手遅れになりそうだ。
誰が?一体誰が助けるのだ。
少年が助けを求めても、誰一人振り向いてくれた事は無かった。
少年は頷きゆっくり近づくと、石で削った自作の木の槍を冒険者の喉に突き立てた。
刺した冒険者の顔を一時見つめると槍を引き抜き、続け様に残る2人にも槍を突き刺し息の根を止める。
大収穫だった。死体を道の脇に隠し、装備を全て剥ぎ取った。死体は魔物が勝手に食べてくれる。
ダンジョンから帰ってこない冒険者は死んだと思われるだけ。別段、珍しくも無い。装備は闇市で売れば足が着かない。これ程までに充実した狩りは今まで無かった。
それから、少年の日課はダンジョンの入り口付近に潜み、弱った冒険者が出てくるのを見張る事となった。既に狩った冒険者は15名を超える。少年は剥ぎ取った剣を握り、その時を待っていた。
だが、その日はいつもと違っていた。
ダンジョンから出てきたのは4人。
傷付きとても疲弊している様には見える。けれど、それを見る少年は一瞬躊躇してしまう。
今まで自ら歩ける者が3名以上の場合、手を出さない事にしていたのだ。いくら傷付いているとは言え、返り討ちに遭う可能性がある。
少年はまだ身体も小さく非力な為、騙し討ちや奇襲を用いた戦い方をする必要があったのだ。
しかし、この三週間は狩れそうな冒険者が中々居らず、少年は少し焦っていた。と言うのも、闇市では足元を見られ高額の手数料を取られる。元々得られるお金は多くは無い。その上、残りの備蓄も心許無い。
少年は意を決し、パーティーの背後に回り込み、一番屈強そうな男に剣を伸ばす。この男を殺れば、後は大した事は無さそうに見えたからだ。
「ははーっ!やーっと出やがったな賊め!」
男は即座に振り向き、持っていた盾で剣をいなした。残りの3人も素早い身のこなしで距離を空け、少年は完全に囲まれてしまう。
ジュナ大森林のダンジョン入口付近に出没する、盗賊の討伐依頼に来ていた4人の冒険者だった。
リーダーで元帝国剣士のアズ、大錘使いのジョリーアン、拳闘家のサブダブ、回復と補助魔法を使うコルピナ。4人のギルドランクはAに位置し、実力も経験も充分だった。
「まだ子供ですね~ほんとにこの子なんですか~?」
「ジョリーアン!他にも居るかも知れねぇ!気ぃ抜くな!」
少年は剣を構え、逃げる機会を伺う。
捕まってしまえば殺されると思った。
「おっと、逃げられると思ってたら大間違いだぞクソガキ。仲間が居るのか正直に答えろ。」
「おやっさん…探知魔法には…反応ありませんね…ソロっぽいです…」
「じゃぁ~ちゃっちゃとヤっちゃいましょうよ~この森は臭くて嫌です~」
どうすればいい。少年は必死に考えた。
剣を捨て、一番脚の遅そうな魔法使いの格好をした女の脇に向かい、走り出した。だが次の瞬間、後頭部に鈍い痛みが起こり、その場に倒れ込んでしまう。
「ヒットォ!逃げられないって言ってんでしょうが!」
「サブダブさん~なんで殺さないんですか~」
「こんなガキ殺しても後味悪いでしょ。ギルドに引き渡せば賞金は貰えるし別に良いでしょうが。」
少年は歯を食いしばり、膝を立てる。今日まで必死に生き抜いて来た。それがこんな一瞬で終わる事が我慢ならなかったのである。
今日も食べて生き残る。明日も食べて生き残る。
この世の全てを喰らい尽くすまで止まれない。
「おお!頑丈なガキだな。何本か骨でも折っとくか!」
「あ、じゃぁ~私がヤリます~」
背後から少年の左肩に、ジョリーアンの大錘が叩き込まれる。着けていた防具が割れ、骨が砕ける音が響き、少年に激痛が走る。少年は『うぐぅっ!』と小さく唸った。
「よっと、次は~~~こっち~」
直後、今度は大錘が少年の右足に振り下ろされる。
「ぐぅ!…ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おお~、いい声だね~もう逃げようとしちゃダメだよ~」
少年の右膝から下は本来の可動とは反対に曲がり、骨が肉を破り突き出ていた。今まで味わった事の無い痛みが少年を蝕んでいく。
「まだ意識があんのか!ハハハっ!ジョリーアン!もういい。袋に詰めて帰るぞ。」
少年に近づく4人の影。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ────
その時、急に辺りが強い光に包まれた。
温かくも冷たい不思議な感覚を覚え、少年が前を見ると、異形の姿をしたソレがそこに立っている。そして、ソレが口を開く。
「俺の名は郭東。今後貴様が唯一崇めるべき神だ。」
郭東さんまじイケボ再生




