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泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる  作者: 青狗
突撃☆隣のクソ野郎 中編
216/258

えぴそど216 お菓子

「どうするんだアルネロ。すぐにでも向かおうと言うのなら、サブダブの居場所を調べてやるぞ。」


「……ひとばんかんがえさせてほしい。」


「くくっ。ああ、いいぜ。考えろ考えろ。どっちに転んでも、俺からすればいい情報が得られそうだからな。」


「………おい、ゴミども。いくぞ、かたづけろ。」


アルネロの言葉に、俺達三人は折り紙を片付ける。


その様子を見るアルネロの目は、心底俺達の事をゴミとしてしか認識してなさそうだった。


「兎さん。」


片付けが終わり、エリシアさんの案内で部屋を出ようとすると、賢者がアルネロを呼び止めた。


「貴女がいくら足掻いても未来は変えられませんわ。それでも目的を遂行なされたいのであれば、私と…いえ、私とキラハにご協力頂ける事を願っております。」


賢者は貴族の礼を模した様子で、膝を半分折りつつ頭を下げた。


「……」


アルネロはその言葉に返す事なく部屋を出ると、無言のままエリシアの後ろを歩き、倉庫から出る。


その更に後ろを歩く俺達からでは表情すら見えなかったが、やや俯き加減の彼女の後ろ姿から、晴れやかな気分で無い事は分かる。


「それでは、私はここまでとなります。皆様お疲れ様でした。」


入り口まで見送ってくれたエリシアさんが、別れの挨拶と共に笑顔を見せると、アルネロはそれにすら反応を見せずに進み出す。


慌ててグリカが後を追う様にアルネロに付いて行くと、俺もエリシアさんに一礼をしてその後を付いて行った。


「ん?お、おい、ヤッパスタ、行くぞ。」


「…旦那、俺っちは少し彼女に話がある。先に行ってくだせえ、すぐに追いつきます。」


「……ああ、分かった。迷子になるなよ。」


俺は微笑ましい気持ちと、戻ってきたヤッパスタをどう慰めてやろうかと考えながらアルネロの元へと走った。





「……」


康介達と別れ、一人残ったヤッパスタに対し、エリシアは若干困惑の表情を見せた。


「あ、あの。ヤッパスタさん?いいのですか?お連れの方は行ってしまわれましたが。」


「ええ、宿の位置は分かっています。それよりも…」


「?」


「もう二度とお会い出来ないと思っていました……エリシアさんのそのお美しいご尊顔を、もう一度拝めるだなんて…神様に今感謝の言葉を贈っていた所です。」


「そ、そうですか。でも、その節は本当にありがとうございました。あのお陰で何だか吹っ切れて、今は前向きに色々と進んでいけています。」


「本当ですか!?そいつぁ良かった!」


ヤッパスタはその言葉を聞くと、満面の笑みを見せながら喜ぶ。


「ですが…」


「ん?どうされましたか?何か心配ごとでも?」


エリシアの表情は柔らかいままだったが、少し伏し目がちになり、はっきりと言い出せない口元となる。


「何かあるなら何でも言って下さい!俺はエリシアさんの味方ですよ!」


「…あ、ありがとうございます……その、ヤッパスタさん…」


「はい!」


「間違っていたらごめんなさい。私は今までこういう経験が全く無かったので、その、この気持をなんて表現したらいいのか…」


その言葉にヤッパスタは何かを察したのか、急に鋭い目つきとなり、自分では精一杯の男前な表情を見せた。


「ははっ、いやだなぁエリシアさん。ご安心下さい。私の心は、いつだってエリシアさんだけのものですよ。」


「ええ、ですから……恐らくヤッパスタさんは、私に好意を抱いておられるのではないかと、薄々思うようになっていました。」


「え!?そ、そうです!合ってます!合ってますよそれ!!もしかして!このままお付きあ──」


「あの、申し訳ないですが、私がそのお気持ちに応じられる事はありません。」


その時

ヤッパスタの全神経が一瞬で断裂し

細胞の一つ一つが悲鳴をあげながら

死滅し灰となり風に舞いながら

散っていった



……


………


「……あ、あの、ヤッパスタさん?」


真っ白となったヤッパスタに声をかけるエリシアに、力を振り絞りながら顔を向けるヤッパスタ。


「あ、ああ。ええ。えーと。な、なんでしたっけ。ははっ!いやぁ!ははははっ!!」


必死に冷静を装うも、黒目は眼球の中でワルツを披露し、膝は生まれたての子鹿と化していた。


「……ここではなんですし、少し場所を移しましょう。」


エリシアは、倉庫入り口を警護するランスター兵が笑いを堪えながら震えている姿を見て、ヤッパスタの腕を引っ張り、倉庫近くの曲がり角を曲がった。


「ヤッパスタさん、勘違いはしないで下さい。」


「が、がんじがい!?」


エリシアの言葉に反応したヤッパスタの目には、枯れる事のない涙と鼻水の大瀑布が出来上がっており、所々には虹がかかり始めていた。


「ええ、ヤッパスタさんから向けられるお気持ちは、とても嬉しいです。ヤッパスタさんと共に歩む人生であれば、さぞ楽しいだろうなと想像した事もあります。」


「!?え!?じゃ、じゃあ!なんで!?」


エリシアはヤッパスタの言葉に悲しそうな表情を見せると、振り返り倉庫の方へと数歩進み立ち止まった。


「私はパーフラ教団の司教。この身を神様と勇者様に捧げた身。それに…人族と魔族の壁もあります。」


「そんなもの!小さな事ですよ!」


「……そうですね。私も、ベル様と一緒に居る事で、信仰心が揺らぎ、人族や魔族等も含め、小事と思えた夜もあったかもしれません。ですが……」


「………」


「今はまだ自分の気持ちに整理がつきません……なので、ここまでです。」


再び振り返ったエリシアの表情は、ヤッパスタにとってどこか儚くも、はにかんだ顔がとても可愛らしく見えた。


「……分かりましたエリシアさん。もう野暮な事は言いません。」


「………色々とありがとうございました。これからもお会いする事はあるでしょう。それが仮に戦いの場に変わろうとも、私はヤッパスタさんと過ごした楽しい時間を決して忘れませんから。」


「ええ、ただ、これだけは覚えておいて下さい。私のエリシアさんへの思いはこの花の様に色褪せる事が無いという事を。」


ヤッパスタはポケットからお菓子の包装紙で折ったチューリップを取り出すと、エリシアに渡した。


エリシアは柔らかい表情のまま無言で頷き、折り紙を受け取ると、代わりに同じお菓子を取り出しヤッパスタに渡す。


そして、エリシアは振り返ると、そのまま立ち止まる事なく倉庫の中へと戻って行った。



ヤッパスタが包装紙をほどき菓子を口に入れるも

菓子は涙でしょっぱく感じた

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