えぴそど214 什造アゲイン
さて、どう乗り切ろうか。
「貴方とキラハの力の差は明確な筈。まして、レベル差を考えても、ちょっとやそっと特殊なスキルを持っていても話しにならない筈ですわ。」
そりゃごもっとな意見だ。
レベルが見られるってのは、こんなにも面倒臭い事だったんだな。
ヤッパスタは元より、俺のレベルが2だと賢者が言った瞬間、アルネロの耳が反応していたのを俺は見逃さなかった。
そう、今まで仲間内にすら隠していた情報だけに、俺に焦りが無いと言えば嘘になる。
「そもそも、成人男性でレベル2というのがおかしいですし、普通に生活している者でも7前後にはなりますわよ。」
病弱で家に引き篭もっていて…なんて通用する筈が無く。
「もしや貴方も天舞なのかと思えば、手に刻印は見当たりません。なんだってキラハは、貴方と戦う事になったのでしょう。」
そういやそうだな。
俺って一応、ジューちゃんから天舞としての力を貰ったのに、他の天舞みたいに印が手に無い。
「そりゃそうよー♡よく考えたら、要らないものあんなもの。敵に目を付けられるだけだーし♡」
世界が一瞬で凍りついた。
比喩した訳では無い。
実際に時が止まり、思考は巡っているものの、身体が全く動かない。
「もー!康介ちゃん!!会いたかったわー!!!」
ソファで身動きが出来なくなった俺に、オカマの死神が抱きついて来る。
顔近くに寄ったオカマの身体から、溢れんばかりの加齢臭が俺に染み付くのがはっきりと分かった。
「じゅ、ジューちゃん!」
辛うじて動くっ首から上を頼りに、俺は声を張り上げた。
「きゃぁぁぁ!!そうよ!!!ジューちゃんよ!!!寂しかったんだから!!!もーね!私!淋しかったんだからー!!!!」
オカマは泣きながら俺の胸に顔を擦りつけた。
「ちょ、ちょっと待って、落ち着いて下さいよジューちゃん!なんでいきなり!このタイミングで!?」
「康介ちゃぁぁぁぁーーーーん!!」
あ、駄目だ
全然話ができない
それから数分程だろうか、全く動かない身体をオカマに抱きしめられ、弄ばれた。
「ふぅ…」
「お、落ち着きましたか。」
「ええ、ごめんなさいね。嬉しすぎて感情が押さえきれなかったわ。でも、もう大丈夫!」
「そ、それは良かったです。で、なんで急にこのタイミングで出てきたんですか?」
俺の問いに、オカマは心底意味が分からないと言った表情で、俺を見つめた。
「え?何か俺、変な事言ってます?」
「いーえ、ぜんっぜん!ただ、康介ちゃんをびっくりさせようと思ってね…」
「びっくりはしましたけど…あっ!そうだ!ジューちゃんに沢山聞きたい事があるんです!」
「ふふっ、きっとそろそろ謎が謎を呼んで、私の助けが必要な頃だろうとは思っていたわ。」
「ええ!必要です!」
「きゃー♡嬉しぃ!!私が必要だなんて!!!」
「ジューちゃん教えて下さい!ミカミ・ユウジって、俺と同じ日本人の転生者…あ、いや転移者なんですか!?」
正直、聞きたい事は山程ある。
ありすぎて、俺も何から聞いたらいいのか分からなかった。
「え?ええ、そうよ。彼は私が康介ちゃんより先にこっちに持ってきた魂の一つ。それが聞きたい事?」
オカマは案外すんなりと認めた。
「じゃぁ、勢力的には俺の仲間って事ですよね!?」
そうだ、そこをはっきりさせたい。
召喚された目的が、貧乏神と疫病神の戦いに終止符を打つというのであれば、俺とミカミ・ユウジは共闘が出来る筈なのだ。
そうだと分かれば、今目の前に居る桃犬然り、フットプリンツと、すぐにでも協力体勢が作れる。
ハピスさんと敵対する可能性は充分あるが…
「最初はね、そのつもりだったのよ…」
ところが、オカマの様子がなんだかおかしい。
「彼のスキルはちょっと特殊でね。特異性が高く強力な事で、与える代わりに、二柱から条件を付けられちゃった訳。」
「条件って事は、もちろん良くは無いんでしょうね。」
「そーよ、忘却だなんて卑劣なものを無理矢理付けさせられちゃって、強いんだか弱いんだか分からなくなっちゃったわ。」
「ぼうきゃく?あ!スキルを使うと記憶を失うってやつですか!?聞きましたよそれ!」
「そ、正にそれ。彼がフットプリンツだなんて名乗り始めた後も、2回も天啓で話をしたのに、彼ったらすぐにスキルを使って私の事忘れちゃうの。ねぇ、酷くない?私の事、過去の女にしようとしてるのよ!?」
「じゃぁ、ミカミ・ユウジ自身は、なんでこの世界に来たのかも分からないままって事なんですか?」
「ええ、これっぽっちも分かってないわ。彼が失う記憶のほとんどが、この世界に来てからのものなのよ。」
「それじゃぁ説明しても…」
「そうね。もしも、康介ちゃんが私の話や、それこそ、この世界の真実を話した所で、すぐに忘れちゃう可能性が高いのよ。だから、康介ちゃんにスキルを渡す時は、二の舞にならないようにむーっちゃくちゃ考えたのよ!」
「……」
「……ごめんなさいね。分かってるわ。貴方の孤独が少しでも和らげば良かったのだけれども…」
「いえ、大丈夫です。俺には今、頼りになる仲間が居ますし。」
「そうね、私としては、早く皆殺しにしてくれた方が助かるんだけど。」
まだそれを言うかこのオカマは。
「じゃぁ、次の質問をしてもいいですか?」
「ごめんなさい康介ちゃん。天啓でお話が出来るのは、せいぜい10分程なの。もうゆっくりお話をする時間は残ってはいないわ。」
おい!
おいおいおい!!!
オカマよ!おいおい!
そんなに短い時間しか話せないなら!
なぜ俺の胸に長々と加齢臭をマーキングしてやがった!!!
アホなのか!?
なぁ!あんた本当に神なのか!?
「ちょ、ちょっと待って下さい!じゃあ!これだけ!なんでこのタイミングで急に来たんですか!!?」
俺は焦りながらも、オカマが俺に会いに来た本当の理由を聞こうとした。
賢者を目の前に、俺に対する詮索の数々。
これは新しいスキルを渡されるのか、それとも打開策を授けてくれるのか、如何にふざけた神でも、神は神だ。
そう願いながら、ジューちゃんを良く見ると、涙をこぼしながら、姿が徐々に薄れていくのが分かった。
「ジュー…ちゃん…」
「ごめんなさいね、歳を取ると涙脆くなっちゃって、うん!もう大丈夫!私、泣かないわ。また、いつか…きっと…康介ちゃんに会えるもの!!」
「いや、俺が質問した事に答えて欲しいんですけど…」
「本当にただの気まぐれよ。たまたま今だっただけだわ。気にしないで。」
「え!?助言とか新しいスキルとかは!?」
「ええ、何も無いわ。ただ、顔を見に来ただけよ♡」
「………」
「………」
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「元気でねぇぇぇ!康介ちゃぁぁん!!!!」
俺とジューちゃんの叫び声が木霊する中
世界は時を戻し始めた




