えぴそど213 情報交換
「まずは、ベル・ホロント。彼女が賢者である事は間違い無い。そこを前提として聞いてくれ。」
不満そうな表情を浮かべ、先程までの余裕は無く、腕を組み、口を尖らせ貧乏ゆすりを始めた賢者を他所に、桃犬は話始めた。
話を要約するとこうだ。
彼女は拳王と協力し、双方の国の弱体化、若しくは解体させ、新国の設立と、国境の撤廃を狙っていた。
表面上はパーフラ協会の信徒として、賢者の役割を全うし、勇者と共に魔王討伐と魔族の殲滅を目的としている。
だが、彼女自身には全く持って勇者に協力する気持ちは無く、魔族の殲滅をするつもりは無いどころか、魔王にすら興味が無いのだと言う。
しかし、それは帝国への敵対思想を持っている事となり、周りは疎か、勇者側に悟られる訳にはいかない。
もし、知られてしまった際には勇者側、あるいは帝国そのものとの戦いとなってしまうのは明白だが、いざ戦う為には戦力が必要であり、極秘に動く彼女にはそれが無い。
そこで、裏世界の組織である、フットプリンツと協力関係を築く事で、情報収集と戦力の増強を図っているだった。
「んだよ。じゃぁ、このねぇちゃん王国の敵じゃねじゃねーか。むしろ、俺達とも協力出来るんじゃねーか?」
ヤッパスタの言葉に、賢者は眉間にシワを寄せたまま黙っていた。
「バカをいえ、しりしよくにはしっているだけだろうが。」
「どういう事だよアルネロ嬢。」
「その兎さんの言う通りですわ。私は別に、博愛に満ちながらこの世界に舞い降りる、天使や女神の類いではありませんことよ。そもそも、貴方達がこの話しを勇者側に漏らすだけでも、私にとっては命取りだというのに……それをこの男は……」
「ん?よく分からねーぞ。」
「とうぞく、いまはいい……けんじゃよ。すべてをしんじるわけではないが、わたしたちがおこなう、レベリオンへの…サブダブへのしゅうげきを、きさまはみのがすというにんしきでまちがいないか。」
「ええ、むしろ、願ったり叶ったりですわ。なんだったら彼が言うように、協力してあげても良い事ですわよ。」
「ふむ……」
賢者の言葉に、アルネロは何かを考え始めた。
「な、なぁアルネロ。俺達の目的はサブダブだけだろ?勇者と事を構えようなんて思ってないよな?」
俺は急に心配になり、アルネロに確認した。
「……だいじょうぶだ。いざとなったらわたしだけでなんとかする。ここまでつれてきていてなんだが、きさまらをおおごとにまきこむつもりはない。」
「大事って…それじゃぁサブダブを狙ったら、やっぱり勇者陣営とそのまま衝突する事もあるって事か?」
「ふはっ!ああ、そりゃそうだろ康介。サブダブは勇者カクトの側近中の側近だぜ。戦った時点で、勇者や帝国への敵対行為となり、下手すりゃ、帝国が王国へ攻め込む大義名分が生まれる事にもなる。」
桃犬の言葉に、俺はハっとさせられ、またすぐアルネロを見るが、アルネロはややうつむき加減のまま、何も答えなかった。
「まぁ、ところがどっこいなもんだ。それを回避しつつ、サブダブに一矢報いる方法を俺は知っている。」
桃犬が続けると、アルネロは鞄から資料を取り出した。
「……『一矢』ではこまるのだがな、いまはそれすらもほしい。これは『拳王』キラハからききだしたじょうほうに、わたしが『脚色』したしりょうだ。」
渡された資料を手にし、桃犬が数枚読み込むと、その表情は一変し、目を見開いた。
「おいおいおいおいおい!!おいー!!!まじかー!!!ぷるぴっぽーい!!!」
そのまま立ち上がると、資料を高速でめくりながら、ソファの近くを行ったり来たり、落ち着きの無い様子を見せた。
俺達含め、賢者サイドもその様子をただ黙ってみている。
アルネロに至っては、罪悪感でもあるのか、急に俯いたまま動かなくなってしまった。
「そうか!ははっ!!だからキジュハの民は!………繋がる!歴史が!真実が!!今、繋がる!!ひゃほぉーい!!!神への跡が繋がるぞ!!」
「……ちょっと桃犬、私にもお見せ頂けますこと?」
「いや駄目だ!!ベル!お前からの情報では等価にならない!これは!それほどまに凄いことだ!!」
「……いいですわよ。キラハに直接聞きますわ。」
賢者が拗ねた様に顔を背けると、桃犬はアルネロに近づき、俯いていた顔をクイっと引き上げる。
「やめろ、さわるな。」
「ひゃはー!アルネロ!これは本当に凄い事だ!何でも教えてやる!聞け!どこから話せばいい!!ぷるぴっぽーい!」
アルネロは桃犬に顔を掴まれたまま、離す素振りは見せず、メモを取り出すと、『きけることはすべてきく』と言い、桃犬の話を聞き始めた。
「ねぇ、貴方。」
「?」
「そう、貴方よ。コースケさんと言いましたか。貴方に聞きたい事がありますの。よろしいかしら?」
桃犬が興奮したままサブダブについて語り始める中、二人を他所に、賢者が俺に向かい話しかけてきた。
「え、ええ。どうしましたか。」
「貴方のレベルで、どうやってキラハとまともに戦えたのか、是非お教え頂けません?」
そう言った賢者の顔は微笑ましい様に見えて
目が笑っていなかった




