えぴそど207 価値ある情報
「そっちはどうだ?」
「あぁ!大丈夫だぜ旦那!」
俺達がジャンカーロに滞在し、既に5日が経っている。
マンティコアの討伐から、毎日お祭り騒ぎの様な催しが開かれ、無事だった俺とヤッパスタがセシルに連日駆り出されると、特にする事も無いので、ひたすら酒を飲むという堕落した日々を過ごしてした。
(ちなみにセシルがヤッパスタに頭を下げた事により、不満を持ちつつもヤッパスタはセシルに付き合って行動した。)
長居するつもりはさらさら無かったのだが、アルネロと、主にグリカの回復に時間が掛かっている事や、新しいライセンスの発行までに時間を要している事も相まり、宿を取り街に滞在している状況だ。
「よし!これでいいだろ!」
「おう!いい感じじゃねーですか旦那!」
俺とヤッパスタが何をしているかと言うと、洗濯だ。
いや、別に特に何かある訳でもなく、ただただ洗濯している。
連日のイベントで溜まりに溜まった洗濯物と格闘し、俺達は部屋に戻ると、ようやく平穏な時を過ごせる状態になった。
ヤッパスタが淹れたコーヒーを飲んでいると、アルネロが部屋に入って来る。
「おわったのか?」
「ああ、完璧だよ。グリカは?もう動けそうなのか?」
「もんだいない。もうすぐこっちにくるだろう。」
「そか、そうだアルネロ、これ。」
俺はギャレッドさんから渡されたばかりのライセンスカードをアルネロに渡す。
ギャレッドさんはセシルの側近の一人で、偽造ライセンスの発行に尽力してくれた人だ。
「ふむ、みごとにうそだらけのないようだな。すばらしい。これならジャクシンさまにめいわくがかかることもないだろう。」
「ギャレッドさんに感謝しないとな。」
「おはようなのです。」
アルネロと話していると、グリカが俺達の部屋へと入ってきた。
「グリカ、大丈夫か?」
「大丈夫なのです。ご迷惑をおかけして申し訳ないのです。」
「何を言ってるんだ、物凄く頑張ってくれたじゃないか。感謝しているよ。な?アルネロ。」
「ああ、よくやってくれた。どこかのカスなとうぞくがだだをこねたせいでグリカがきずをおっただけだ。きにするな。」
「はい、なのです。」
「おおぅい、胸に刺さりすぎるって嬢!つ、次からはちゃんと全員守ってやらぁ!」
「私が頑張るから貴方は駄々っ子をしているですよ。」
「そんなのいやだー!!!」
「その調子なのです。」
「違うー!!!」
そんな他愛の無い話をしながら、時間は過ぎていった。
「で、アルネロ。昨日話した事はどうするんだ。」
俺は一段落ついた話の合間に、方針について突っ込んだ。
「……ああ、きさまらのもってきたじょうほうをしんじるのであれば、せっしょくするべきだな。」
俺とヤッパスタは、何もただ酒を飲んで酔っ払っていた訳では無い。
領内のお偉いさん達や、セシルの側近、スティンガーにも手伝ってもらい、レベリオンの事などを探っていた。
その中で、勇者達とは別の組織が、ここジャンカーロに滞在している事が判明したのである。
その名もフットプリンツ。
ハピスさんを襲撃した碧栗鼠や紫熊が居る、未知の天舞の組織である。
そして、その未知の天舞であり、トップである『ユウジ』は、日本からの転移者で間違い無い。
「接触っつってもよ嬢、旦那も俺も探ってはみたが、この街のどこに居るのか分からなかったし、そもそも、まだ街に居るのかどうかも分からねーんだぜ?」
そう、俺とヤッパスタは、何もただ酒を飲んで酔っ払っていた訳では無い。大切なので2回言っておく。
「ヤッパスタが会ったっていうリオンは、口調からして桃犬で間違い無いと思う。俺も見た事あるし、探してたけど、さっぱりだ。」
「それでもみつかれば、こうしょうをするかちはじゅうにぶんにある。」
その言葉に俺とヤッパスタは顔を見合わせる。
「交渉?」
「あいつら確かハピス嬢の敵なんだろ?しかもユージリンと一緒に奴らのアジトを潰しに出たんじゃなかったか?」
アルネロはコーヒーを啜ると、首を『コキっ』と鳴らした。
「やつのことばはせんめいにおぼえている。やつははっきりと『対価』だといった。りがいがいっちすれば、こちらのもとめるものもひきだせるはずだ。」
「対価…でも、見合う価値のある情報なんかあるのか?」
桃犬については、アルネロの証言と、ハピスさんから聞いた話しにより、記憶を覗く能力を持っている事になっている。
更に、等価交換として渡される情報は確実という事も。
だが、アルネロは既に記憶を引き出されており、それ以降に得た情報で無ければ交渉は出来ないと言っても過言では無い。
「きさまがかんがえていることはわかる。わたしのきおくはすでにしられているということだろう?」
「あ、ああ。あいつらが自力で得られない情報を握ってでもいない限り難しいんじゃないかなって。」
「そのとおりだ。だが、やつらですらしらないであろうことをわたしはしっている。しかもそれは、おまえたちもしってることだ。」
「俺達も知ってる?」
「あっ!旦那もしかして!」
ヤッパスタが声を上げた。
「ん?……あっ!お、王国と帝国を行き来するダンジョンの事か!?」
「ああ、そのとおりだ。」
「それなら…あっ!!」
俺は咄嗟にグリカの方を見て言い訳を考えたが、アルネロは『すべてはなしてある』と手で静止した。
「で、でもよ。そいつら王国に潜入しちまってたじゃねーか。もう知ってるんじゃねーのか?」
「いや、しらべたところ、せいせきな『帝国出国許可証』と『王国入国許可証』があった。」
「つまり、あいつらは正規の手順を踏んで、堂々と国境を越えたって事か?」
「まったくもってそうだ。しかし、ぜんかいのしゅうげきでニンソウがわれている。ていこくに『抗議』もだしているし、つぎもおなじてはつうようしないというジョウキョウだろう。」
情報収集を生業とする組織であれば、幹部が正規ルートで王国に入れなくなるのは死活問題だろう。
逆を返せば、両国間の行き来はそれほどまでに難しいとも言える。
もし、本当にあのダンジョンの事を知らないのだとすれば、価値としては相当にして高い。
「分かった。手分けしてもう一度この街を探してみよう。」
俺達はフットプリンツの足跡を追う事となった




