えぴそど205 終息に焦れ
「ゴンゴン、息してる?」
ユージリンの治療を終え、ハピスは蹲るゴンガの元へと向かった。
「せ、せんせ…い…おら…おら…」
ゴンガの顔からは血の気が完全に引いており、青白く弱々しい装いを見せている。
「あーはいはい。もう喋らなくていいよ。かーなり出血しちゃってるねこれ。」
「おらの腕…治るだか…?」
「はいはい、喋らない喋らない。とりあえず、これ飲んで。」
ハピスはゴンガの口にポーションを差すと、鉄球から様々な医療道具を取り出した。
「はい、ちょっとチクっとしますよー」
更に血液パックを取り出すと、ゴンガに応急的な輸血を始める。
「後は、んー…腕かーどれどれ。」
「いづっ!」
ループに斬られた腕の状態をまじまじと診察すると、ハピスは心配そうなゴンガに向け笑顔を向けた。
「だ、大丈夫だか?」
「うん!ゴンゴン!無理これ!神経もズタズタくさいし、先の方の細胞は死んで来てるね!完全にこれ駄目!」
「そ……そんな……」
ゴンガは焦点が合わない程に動揺し、腕とハピスを何度も見直した。
「逆に、腕一本であの格上くさい敵に勝てたんだよ。誇るべきところだよ。下手したら死んでたし。ゴンゴンすごい!えらい!」
「………」
ゴンガの目に涙が浮かぶと、ハピスは『ふー』と一息をついた。
「ゴンゴン、大丈夫。私はアルケミストだよ。それも超が付くほどに一流のね。ゴンゴンの腕をちゃんと復活させてあげるから。」
「ほ、本当だか!先生!」
「うん、今までもやったことあるし、ま、今までやってきたものより格段に良くしてあげるよ。」
その言葉にゴンガが安堵の表情を見せると、ハピスは鉄球から何かを取り出し組み立て始めた。
「せ、先生、何してるだか?」
「ん?もちろん今すぐに腕は治せないから、ひとまず腕を切り落として止血しようかなって。」
「き、切り落とすだか!?」
ハピスが組み立てたのは大きな鉈だった。
「………もぉ!!いちいちうるさいゴンゴン!!まだ今回の作戦は終わった訳じゃないの!悪くはしないから!それとも私を信用できないの!?」
「……し、信用してるだよ…」
「おけおけ。じゃーいくねー」
その場に鈍い音と、ゴンガの声にもならない悲痛な呻き声が響いた。
「ふぃーよし。」
「うぐっ…ひくっ…」
「大の大人がこれくらいで泣かないの!ん?あ、おーい!バールたーん!みんなー!」
切り落としたゴンガの腕に包帯を巻いていたハピスが振り向くと、バールが筒が入った大きな鞄を持って駆け寄って来た。
更にバールの後方には、各々が街や栽培場で役割を果たし、合流したバールの仲間が一緒になり、向かってきていた。
「はぁ、はぁ、ほ、本当にもう大丈夫なのかよここ!」
バール達は息を切らしながら、辺りをキョロキョロと見渡す。
「うんー大丈夫大丈夫。もう敵は居ないよ。つか、居ないからこそ、作戦はある意味失敗なんだけどねー」
「し、失敗!?お、おい。どうするんだよ!」
「んーいいのいいの。今はとりあえず、相手の拠点を潰す事で良しとするのさ。とりあえずバールたん、筒のセットをしてくれる?あそこに向かって一斉掃射だよ。」
「あ、ああ。分かったよ。」
「ナットたんとワッシャーたんは、この粉をあの拠点近くにたんまりと振りまいてきて。人っ子ひとり居ないし安心してやっちゃってー」
「おっけー!」
「任せろ!」
「俺は?」
「あー……クランクたんはー……あ、そうだった、ユージリンをこっちに運んで来てくれない?あそこで寝てるから。」
「寝て………え?」
ハピスの指差す方向を見ると、白目を剥いてズタボロのユージリンが放置されていた。
「せ、先生…失敗って…」
バール達が手分けをして準備をしていると、ゴンガが不安そうにハピスに問いかけた。
「うん、結果からいうと失敗。装置や必要なものは全て持ち出されちゃった。どうやら、最後の敵は時間稼ぎだったようだね。」
「な、なんで分かるだか…?」
「んー見えるんだよね、そういう未来が。女の勘ってやつ?ふふふっ…だから終わり!あとは、腹いせにあの建物は木っ端微塵にふっとばそうとしてるけど(笑)」
「そ、そうだか…」
ハピスは腰を手に置き、仁王立ちのまま敵の拠点をまっすぐと見つめていた。
「な、なあ!えーと、ハピス?さん!」
「ん?なーに?」
クランクの声にハピスが振り返ると、クランクの腕の中でユージリンが意識を取り戻していた。
「おーユージリン?さん!起きなすったかー」
「……なんの?ですか…俺は…負けたんですね…」
「んー仕方ないよ。ゴンゴンもだけど、今回の敵は二人より全然強かったし。生きてるだけで勝ちだと思った方がいいんじゃないかな。」
「…ですが……」
「んもー!うじうじしない!!!そんな暇があったらもっと強くなりんしゃい!」
「……はい、すみません。もっと…もっと!強くなります!」
「うんうん、協力は惜しまないさ。」
ハピスはユージリンの頭を撫でると、どこからともなく出したポーションをユージリンの口に三度突き刺した。
「んぐっ!」
「ゴンゴンより君の方が重傷なんだから、どんどん飲めぇい!」
「ごほっ!ごほっ!は、はい…」
「うんうん、よしよし。」
「乳でかねーちゃん!準備出来たぜー!」
バールの声が草原に響いた
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次話がこのパートの最終になります




