えぴそど204 一意は逸れ
「!?……そんな馬鹿な、ループ…」
ユージリンと戦っているキープの目に、ループの身体が真っ二つにされる姿が映る。
それは同時にユージリンからも確認出来たが、ゴンガの傷を見るに、既に戦線に復帰できる状態では無い事が分かっていた。
「はぁ、はぁ、ゴンガ…やったな…」
余所見状態のキープに対し、ユージリンが素早く切り込むも、キープは顔を背けたまま、片手で握った刀で、ユージリンの斬撃を簡単に受け止める。
「ゆっくり遊んでいる時間は無くなった様だ。終わりにさせてもらう。」
キープは片手でユージリンの剣を弾くと、ユージリンは大きく後退させられてしまう。
戦闘が始まって以来、ユージリンは決定打を決められないまま、一方的にキープに攻めたてられていた。
片目を失い、身体には無数の傷を受け、元々万全では無かった状態での戦いに、ユージリンの疲弊は激しく、ここまでユージリンが死なずに済んでいるのは、キュアソードの自立反応があったからである。
剣の侵食を受けた手が、自動的に回避運動をもたらしてはいたが、相手の力量が上を行き、ユージリンは活路が見い出せないでいた。
(はぁ、はぁ、力、技、速さ、どれを取っても相手の方が上手だ。このままでは…)
ユージリンが魔法陣を展開しようとすると、キープは眼の力を発動し、瞬時に距離を詰め、刀を振り抜いた。
(くそっ!)
ユージリンもギリギリの所で刀を受け止めるも、次の瞬間には刀が別の刃筋を辿り、振り抜かれていた。
「がっ!!」
身を捩り回避しようとするも、胸当てから肩にかけて切り込みがユージリンに入り、血が滲み出す。
「決めさせてもらう。」
ユージリンが僅かばかり仰け反ってしまった瞬間、キープは刀に魔法陣を展開させると、目にも留まらぬ速さで刀を鞘に収め、抜刀の姿勢を取った。
〈刀スキル 無距離居合斬り〉
キープの刀は、完全にユージリンを捉え、魔力を帯びた刀は瞬速の一閃を残し、刃は天へと向けられた。
キュアソードが反応し防御反応を取るも、斬撃を浴びると、キュアソードは砕け、キープの刃はユージリンにも届く。
防具もろともを破壊されたユージリンは、血を吹き出しながら体ごと後方へと吹き飛んでしまう。
倒れたユージリンが動かない事を確認すると、キープはダリアの方向を確認する。
「ん?……な!?…ダ、ダリア…様!?」
しかし、そこにダリアの姿は無く、対峙していた筈のハピスが、こちらに向かい歩いて来る姿が見えた。
「そんな…まさか、ダリア様までもが…くっ!」
キープは刀を鞘に入れ構えると、面越しに再び眼を輝かせ始めた。
「貴様ぁ!!よくもダリア様を!!!!」
「えー!?私の所為なの!?どっちかってーと自滅ぽいんだけど!!」
ハピスは構えず、鉄球を担いだまま、ゆっくりと歩きながらキープに近づく。
「仕留めさせてもらう!」
「じゃぁ、返り討ちにさせてもらう!なんてね。」
まだ距離はあったものの、眼の力による瞬歩を使い、刹那の瞬間にハピスに詰め寄ると、刀を抜き、振り抜いた。
〈刀スキル 雷閃〉
『ガキィ!』
しかし、刀はハピスの身体には届かず、鉄球で受け止められてしまう。
「な!?」
「な?」
ハピスの眼が輝いている事に気付き、警戒しつつも、キープは更に斬撃を続けて行く。
〈刀スキル 業生〉
〈刀スキル 流水〉
〈刀スキル 如来〉
明らかな死角より放たれた技すらも、最小限の動きで受け止めるハピスに対し、キープは底しれぬ恐怖を抱いてしまう。
「くっ………腐っても元幹部か…」
「腐ってるだなんて失礼だな!私はそこそこ綺麗なはずなんだけど!!」
キープは距離を取ると、刀を再び鞘に収めた。
「ん?諦めたかい?正解、君は正しいよ。まずもって私には勝てないからね。相手と自分の力量を測れるのは、君が強い証拠だ、恥じる事はないよ。」
キープはその言葉に面を外し、ハピスがユージリンの元へと歩く姿を目で追った。
「……ア種の中でも剣撃の速さだけは自信を持っていたのだがな…所詮我らは模造品だったか…」
「意外にイケメン過ぎて笑うわ。兎に角これ以上の戦いは意味を持たない、降伏してよ。あ、ユージリジリユー、めっちゃ瀕死じゃん(笑)」
ハピスは鉄球を開き、中からポーションを二本取り出すと、一つはユージリンの傷口にかけ、一つはユージリンの口に突っ込んだ。
その光景を傍観しつつ、キープは身体に巻いていた鞘の留め具を外すと、刀を抜き、鞘を捨て、着ていた着物を脱ぎ、上半身を裸にした。
「否、会稽の恥は持たない。」
「なにそれ、つまらない意地で死んじゃうだけだよ?」
「かもな……それでも…」
キープは腰を落とし刀を構えると、大きく息を吸った。
「我は上級時雨兵!ア種ノ参號!いざ!決着の刻ぞ!反逆者!緋猫!」
キープの足元には大きな魔法陣が展開され、眼は今まで以上に神々しささえ感じられる程に、黄色く輝いた。
「お、おうふ。なんだか仰々しい肩書きがあったんだね…こほんっ!やーやーわれこそは、グラマラスボディに世界一かわいい顔を持つ、超絶天才アルケミスト!ハピオラ・スカーレットなーりー!」
ハピスは、鉄球内から取り出した小さなメスを握り、キープと同様の構えを取った。
キープの足元にある魔法陣が光を増すと、バチバチと稲妻を纏うかの如く周りを電気が走る。
「もうね、正直見飽きたよ。黄色の眼は瞬歩頼みなんでしょ。それじゃ、勝てないね。」
「ふっ、構うものか!私の全てをぶつけるだけだ!参る!!!」
ハピスの目の前から消えたキープの姿は、一時の静寂の後ハピスの後方に現れる。
しばしの静止の後、キープの首と胴がゆるやかに離れ、そのまま倒れ落ちた。
「……さてと、これでだいたい終わりかな。よいしょっと!」
ハピスは空に向け何かを投げると
白目を剥くユージリンの口に別のポーションを差した




