えぴそど203 胸懐は折れ
「ごぎゅるがぁぁぁぁ!!!」
ダリアが謎の液体を服用して間もなく、上半身はダらりと垂れ下がり、涎などが混じった血を至る所から垂らし、頭を下げたまま、獣の様に吠えるまでに変貌していた。
「カモン、ダリア。」
ハピスが鉄球を肩に担ぎ左手で煽ると、ダリアはその姿勢のまま跳び上がり、魔法陣を展開させながら身体を反転させ、ハピスの脳天に向け脚を勢いよく振り下ろす。
ハピスは鉄球を素早く動かし、蹴りを受け止めると、ナイフが刺さっていたダリアの脚から、血が吹き出した。
「ぐぎゃらぁぁぁ!!!」
ダリアは叫び逆さまのまま地面に手を突くと、魔法陣を展開させ開脚姿勢から横薙ぎの蹴りを繰り出す。
「………」
ハピスは読んでいたかの如く鉄球を横に向け、蹴りを受け止める。
「ダリア、貴女が呑んだその薬は、おそらく私が開発したものなんだ。」
ダリアの蹴り技は先程までとは比べ物にならない程鋭さと威力を増し、次々にハピスへと襲いかかる。
「それは、一時的に自身の身体能力を爆発的に上昇させ、うまくいけば、人の域を超越しうるものだった。そう、理論上は…」
「あぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
遂にハピスを蹴り続けていた脚からは、骨がむき出しになるほど肉が削がれ、皮膚は完全に黒色に染まりつつあった。
「だけど、遂に完成には至らなかった。なぜだか分かる?とは言っても、今の貴女に私の声は届いてないだろうけど。」
自立が困難になったダリアは、止まること無く、手を器用に使い、尚もハピスに攻撃を仕掛ける。
「簡単に言えばリミッター解除。つまりバーサークだね。使用者を死ぬまで攻撃だけに特化させる、兵士の鏡たる存在を作り出す劇薬だ。」
ダリアが振り上げた腕をハピスが鉄球で弾くと、腕は簡単にもげ、後方へと落ちた。
「人が人では無くなるその薬は、貴女の誇りを守る為に必要だったのかもしれない。その昔、私もそれを飲もうとした時はあったんだ…それでも皮肉だね、その先に栄光は無い。」
鬼の形相をしながらも、使い物にならなくなった四肢を引きずり、胴体の動きのみでハピスに向かってくるダリアの姿を、悲しそうにハピスは見つめていた。
「そんなものに頼らなくとも、貴女は十分強かったのに……でも、同情はしないよ。さよなら、ダリア。」
魔法陣に包まれた鉄球は、魔力が膨らみ、その大きさを数倍にした。
〈初級槌スキル リアルパウンド〉
振り下ろされた鉄球に潰され、ダリアはついに、その姿の欠片すら残さず、この世から消えた。
「………さて、さてさてー援護しますかーにゃ!」
ハピスは鉄球を肩に担ぐと、未だ戦っているユージリンの元へと向かった。
◇
ループが振り抜いた刀は、鞘から一直線にと、ゴンガの首筋にその刃筋を伸ばす。
『ガギギ!!!』
「な!?」
しかし刀は、ゴンガの首を飛ばす事は無く、ゴンガの上下の歯で、しっかりと挟まれてしまっていた。
これはループの慢心が起こしたであり、勝利を確認し、油断したループは手を抜いて振り抜いていた。
「う、うごごが!うごごごぎうごごごほ!ごごごごぎがへーだほ!!」
(い、今まで!投げられたお菓子を!落とした事はねーだよ!!)
更に、口元に向けられた物への空間把握能力に長けたゴンガの才能も相まり、完全に仕留め損なってしまう。
途端に焦りの表情を見せ、刃を引き抜こうとするも、がっちりと大きな歯で抑えられ、ループは刀を抜くことが出来なかった。
「は、離せ!!止めろ!私の刀が!!!紅梟様から頂いた、大切な刀が!!!」
「がぎぎぎぎぎぃぃぃ!!!」
右腕を押さえたままのゴンガは、歯で噛んでいる刀に力を思い切り込める。
「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」
ループはゴンガの顔を蹴り、それでも離さないと分かると、刀を持っている逆の手で、何度も顔を殴りつけた。
「ふ、ふかかへた!!!」
(つ、つかまえた!!!)
ゴンガは顔への殴打を受けながらも、左腕でループの足を掴むと、力一杯握り潰す。
「ぐぅっ!!!」
ループの掴まれたふくらはぎから先は、完全にゴンガの手の中で潰れ、ループは片足を失ってしまう。
しかし、その反動か、先の戦いで傷を負っていたゴンガの腹部の傷口からも、血が勢いよく吹き出し始める。
面の下では苦痛に顔を歪ませていたループだったが、刀を手放し、距離さえ取れば、その実力差からゴンガを仕留める事は用意だった。
しかし、自身の忠を置いた主からの授かり物を手放す事が出来ず、ループは歯を食いしばりながら、再度ゴンガの顔を殴り始める。
「離せ!離せ!離せ!!離せぇぇぇ!!!」
『バキィっ!』
思い虚しく、ゴンガは遂に刀の刃を歯で砕くと、引き抜こうとしていたループは戸惑いと共に、尻もちを突いてしまう。
「き、きさ、きさきさ貴様ぁぁぁ!!」
ループが折れた刀からゴンガに目線を戻すと、既に杓文字が振り下ろされ始めており、ループは身体の中心を完全に潰される形で真っ二つになった。
潰れた死体から杓文字を引き抜くと、ゴンガは辺りを見渡す。
ハピスは暴走しているダリアの攻撃を受けており、ユージリンは押され気味に攻撃を受け続けている。
「ぐっ…い、いでぇだぁ…血を…流し過ぎただか……ゆ、ユージリン、せ、先生…おら、ここまでだぁ…す、すまねぇ…助けにいげねぇ……」
ゴンガは刃で血だらけになった口元をへの字に曲げ
涙目でちぎれかけた右腕を押さえ続けた




