えぴそど200 求心に契れ
バールが加水し点火したイオ魔鉱石は、巨大砲台から轟音を侍らせ、次々にハピスの居た位置を目指し飛来する。
「んぎぎぎぎー!!久々だけどこれやっぱゲロむずー!!」
爆発と閃光に塗れながら、ハピスはこれまでに無いほどの魔力を込めた魔法陣を練り上げていた。
「時間がーーーー!!足りない!効果がーーーー!!切れちゃう!!」
一時的に外皮を強化する薬を服用したハピスだが、予想以上の爆発の威力に、薬の効果が切れかかっており、時折、肌に熱を感じ始めていた。
「それでもー!諦めないハピスちゃん!私ってまじかわいいー!!!」
目を緋色に輝かせながら、両手を地面に向け、ただひたすらに繊密な魔力の糸を魔法陣に流し込み続けると、その瞬間は不意に訪れる。
「来た…きたきたきたぁぁぁぁ!!!!時間ぴったしぃぃぃ!!!」
ハピスの足元で光る魔法陣では、様々な文字列がランダムに蠢いていたかと思うと『カチっ!』という音とともに、急に輪に成り同一方向へと規則正しく高速回転を始めた。
更に、肩幅程だった魔法陣は、急激に広がり、ハピス自身も爆発と閃光の影響で、把握しきれない程大きくなっていた。
「むふふー!!!行っちゃうよー!」
ハピスが手を振り上げると、タイミング良く空へと投げていた鉄球が落下し、ハピスの手に収まる。
「んんんんー気分!爽快!一網打尽!!私の前に道は無し!未来をこの手で掴み取る!!!なーんてね(笑)」
手にした鉄球を魔法陣の中心部分に勢い良く叩きつけると、魔法陣はイオ魔鉱石の光を凌駕する程の光を放った。
「どぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!!いけぇぇぇヘカトーーーーーンケイルーーー!!!!」
〈最上級スキル ヘカントケイル〉
スキルが発動され、多手多頭の禍々しい巨人の像が、ハピスの背後に現れたかと思われた瞬間、辺りは完全なる静寂に包まれる。
先程まで聞こえていた轟音すらかき消し、まるで時が止まったかの様な錯覚すら与える程だった。
イオ魔鉱石の爆発を免れていた敵兵達は、強い光の中にある、その異様な光景を目の当たりしながらも、反応する事は出来ず、そのまま身体を塵へと変えて行く。
爆心地から距離を取っていたアの仇が目にしたのは、閃光と爆発が止んだその地に、ただ一人立つハピスと巨人像の姿だった。
「な……なんなんだあのスキルは……あの威力……最早人では無いぞ……なんだんだ一体……」
ハピスを囲っていたフットプリンツの兵や、ガイガン率いる王国兵の姿は完全に無く、死体すら残っていないその異常な光景に、アの仇は震えが止まらなくなっている。
「ふぅ…とりまこれで一気に楽になったねー(ただ、この先の展望があんまり良く無いんだよなぁ…)」
「ハピスさん!!」
「せ、先生!!」
ハピスが次の行動を考えていると、後方よりユージリンとゴンガの声が聞こえた。
「おー二人共!!無事だったんだねー!!偉い偉い!!」
「ハピスさんこそ!今のスキルは!?」
「むふふー私のとっておきー二人を巻き添えにしてないか冷や冷やしてたよー」
「せ、先生すげぇだ!全然見えなかったけども、すげぇだよ!」
「むふふーゴンゴン、見てなかったのに凄いだなんて………見ててよ!滅多に使えないんだから!!何見逃してんの!!!?」
いつの間にか雨も止み、静かになった草原には所々日が差し込み始めていた。
ハピス達のやり取りはアの仇にも聞こえていたものの、アの仇は反応する事なく、ただ呆然と立ち尽くしている。
「あ、アの仇様……どう…されますか…」
「どうするも何も……あんな化物に、たった三人でどうかできる訳がないだろ……て、撤退だ!ラボにて籠城戦に切り替える!!ラボ内の残りの兵にも伝えろ!!」
「は、はい!」
転進し、拠点へと走り出す面兵の姿は、ハピス達の位置からもはっきりと見えており、拠点にはまだ敵兵が残っている事も暗に感じていた。
「せ、先生!あいつら!に、逃げてるだよ!!」
「ハピスさん!身なりから指揮官級かと!中に入って固められる前に追いましょう!」
「………」
「ハピスさん!」
「せ、先生!」
「……うんにゃ、追わなくていいよ。」
「でも!」
「厄介なのが来たみたいだしね。」
次の瞬間、部下と共に拠点へと走っていたアの仇に黒い影が伸びると、その首は一瞬で飛び、空を舞ったかと思えば、草が生い茂った場所へ落ち、見えなくなってしまった。
「あれは……」
アの仇の首を飛ばした黒い影は、続けざまに側に居た残りの面兵の首も飛ばし、ようやく動きを止める。
「さぁ…二人共、正念場だよ。死なないでね。ちぃーとばっか、骨が折れそうな相手ぽいー」
首を失い血を天へと吹き出す胴体を背に、黒猿と呼ばれるダリアは、勢い良く扇子を開き、ハピス達に向け睨みを効かせた。
「……………ぶっ殺す」
ハピスの額に
雨とは違う雫が流れ落ちた




