えぴそど197 雑音に紛れ
「あぶぶぶー!!」
面兵の刀による斬撃が、ハピスの顔を目掛けて振り抜かれるが、刃先はすれすれを通り、焦りながらも、ハピスの回避が先を行く。
(あの身のこなし…この女、魔力が見えるのか?いや、あれは紫熊様のお力の筈…なら何だ。)
「どらせぇーい!」
ハピスは鉄球を振り回し、近くに寄った面兵に牽制を入れ、距離が空くと同時に魔法陣を展開する。
「やらせるな!穿て!!」
面兵の号令により、スキルの準備をしていた弓兵が、ハピスに向かい、一斉に魔力を帯びた矢が放つと、ハピスの表情は曇り、魔法陣の展開を止め回避に専念した。
「にゃろめー!私のターンが来ないのだが!!」
ハピスは身を低くしたまま、敵兵へ距離を詰めるも、すかさず面兵の攻撃が入り、敵の数を減らせずにいる。
「どうされましたかイの壱様。」
面兵の一人は、実質的な指揮官である、イの壱と呼ばれる男が立ち止まっている事を気にかけた。
「奴の眼が発動している。にもかかわらず、能力が分からないのが気になるだけだ。」
「確かに、特段強くなった雰囲気はありませんし、強化の類では無さそうですね。」
「……奴は最後まで、周りに自身の能力について口外しなかったと聞く。紅梟様ですら、奴の眼の能力については注意する様仰っていた…」
敵兵は増援を繰り返し、既に50人を超える兵士が、ハピスに向け次々に攻撃を繰り出し始めていた。
「くそそそそー!こんだけ集まれば一網打尽のハピスちゃんなのにー!!ちょっとー!魔力練る時間くらいくれてもいいんじゃないー!?」
それでもハピスは攻撃を避け続け、反撃のチャンスを伺う。
「あれも避けるか…いいだろう、試して見るか。」
面兵が眼を黄色く輝かせ、魔法陣を展開すると、眼と同様に黄色く発光した刀を鞘へと納めた。
「参る…」
イの壱の姿がほんの少し揺れたかの様にブレると、次の瞬間にはその場から消え、ハピスの背後を捉えていた。
「その首、頂戴しよう。」
〈刀スキル 居合斬り〉
構えから抜刀まで、ゼロコンマ何秒の動作から放たれた剣先が、容赦なくハピスの首筋を狙う。
「せいせーい!」
ハピスは振り返る事なく、手にした鉄球を両手で頭の後ろに回し、イの壱の斬撃を受け止めた。
「………」
「黄色に瞬歩ってどこかのキャラとかぶってるぞ!!だが残念!私の相棒はとっても硬いのだ!球の呼気バリ硬ってか!!」
イの壱は特に反応する事無く、身体を回し、死角から剣撃を入れるも、ハピスはそれすら振り返る事なく、鉄球で防いでしまう。
「……気に入らんなその余裕。」
「それは奇遇だね!!こっちもハナから気に入ってないからー!!」
ハピスがようやく振り向き、流れる様に鉄球を振り下ろすと、刀で受け止めたイの壱ごと、後方へと吹っ飛ばした。
「しゃーおらー!」
「…………」
振り下ろした鉄球が、その威力のまま地面に着こうとした瞬間、ハピスの両サイドより眼を黄色く輝かせた面兵が、二人同時に刀を振り下ろす。
「うにゃらー!!!」
勢いのまま身体が前のめりになっていた所を、ハピスはその筋力だけで、上半身を無理矢理後ろへと仰け反らせる。
「もろたでくどー!」
更に鉄球を軸に身体をひねると、靴に仕込んでいた杭が伸び、両サイドの面兵の顔に突き刺さった。
「どんなもんじゃーい!」
杭が抜かれた面兵は、面に空いた穴から血を吹き出しながらよろめくと、そのままその場に倒れてしまう。
「ウの伍…ウの捌……」
イの壱は、球撃を受けしびれが残る手に視線を落とすと、号令をかけるかの様に、その手を振りかざした。
それまで遠距離戦を続けていた兵士達が、イの壱の合図を皮切りに、ハピスに向け一斉に走り出す。
「おうおうー!かかってこんかーい!」
1対50の乱戦になると、ハピスは果敢に鉄球を振り回し、多少の傷を受けながらも、敵を撃破してき、確実に数を減らして行った。
その様子を伺うイの壱の元へ、別の面兵が近付く。
「イの壱、何をもたついている。貴様では荷が重すぎたか?」
「……アの仇……失せろ、貴様に非難される筋合いは無い。ここは私の持ち場だ。」
「戯れるなイの壱。紅梟様からの指示だ、兵を置いたまま貴様は下がれ。私がここを受け持つ。あぁ、私の戦い方を学びたいのであれば、そこで見ていても構わんぞ?」
「……好きにしろ…」
イの壱は刀を鞘に収め、拠点に向け歩き出した。
「ふっ、出来損ないが…ウの弐!全員突撃させろ!あの女の首を取れ!!」
「はっ!」
アの仇の指示が掛かると、眼を光らせた面兵が抜刀し、ハピスに向け、次々と走り出した。
「まじかー!読まれていたにしても、流石に多すぎだっっってっっの!!!おりゃー!!!」
次々と繰り出される攻撃に対し、ハピスは未だスキルを使う間を与えられず、地力と眼の力のみで戦いを続けていた。
「どいつもこいつも眼を使いやがってからにー!!もー!!!うにゃらー!!!」
叫びながら尚戦うハピスの目に
王国兵の集団が向かってきているのが見えた




