えぴそど194 混沌に塗れ
「もういっちょー!!!」
ハピスが手にした鉄球の周りを、魔法陣が高速回転し始め、凄まじい風を巻き起こす。
〈中級槌スキル マーズインパクト〉
そのまま鉄球を下から上へと勢いよく振り上げると、魔力による衝撃波が一直線に敵を目掛けて飛び出した。
「まっだまだー!!!」
〈中級槌スキル マーズインパクト〉
再び同じスキルを準備し、更に近づいて来た敵に対し衝撃波を飛ばす。
敵の拠点から増援が出てくる様子は無いが、外で見張っていた敵の数は予想以上に多く、倒した矢先から次々に後続の敵が距離を詰め、ハピスは囲まれ始めた。
「ふふふーいいねいいねー!どんどん集まっちゃいなって…おわっ!!?っと!!!」
ハピスが身体を仰け反らせると、顔があった位置すれすれを、鈍い輝きの刃が空を切った。
「………」
「あっぶないなー!おうおうー何そのお揃いのお面ー!だっさー!!!」
ハピスの周りには、今までの敵とは異なり、面を着けた異様な服装の人が、三人立っていた。
「貴女が我がフットプリンツの名付け親にして、裏切りの大罪人、緋猫こと、ハピオラ・ケイブルこと、ハピス・スカーレットですね。」
ハピスに斬りかかった三人の内の一人が、片刃の剣を突き出しながらそう言うと、残りの二人も腰に着けていた鞘から同様の剣を抜いた。
「大罪人て(笑)…つか何その服装と剣は(笑)いつの間におたくらはお揃いの制服で仲良しこよしの軍隊ごっこに変わったんさー(笑)」
ハピスに流れ込んだユウジの記憶から、それが着物と呼ばれる衣装である事と、刀と呼ばれる武器である事は分かっていた。
「貴女の様な幼稚な裏切り者を出さない為にも、統一化は合理的だと思いますよ。緋猫。」
「合理的ね…じゃぁ…さっさとそこを通して合理的に死んじゃってよー!!!!」
ハピスが魔法陣を展開すると、面を着けた三人と、更に周りに居た兵達も魔法陣を展開した。
「おーおー!色とりどりで綺麗だなーっとー!!!やったろうやないかーい!!!!」
満面の笑みを浮かべたハピスが鉄球を振り上げると、その眼は緋色に輝いていた。
◇
「ゴンガ!離れろ!!」
ユージリンが叫ぶと同時に、ユージリンとゴンガが居た場所に激しい爆発が起こる。
「うっ!」
転がりつつ受け身を取ったユージリンが顔を上げると、砂塵の奥で、敵に囲まれるゴンガの姿が映った。
「ゴンガ!!」
ユージリンはすぐに身体を起こし、ゴンガを助けに行こうとするも、ユージリンもまた囲まれてしまい、先に進む事が出来ない。
「こ、こっちは大丈夫だぁ!ゆ、ユージリン!お、オラに任せろ!」
ゴンガはそう叫ぶと、距離を取りながら必死に抵抗している。
ユージリンは静かに頷くと、ゴンガの負担を少しでも減らそうと、魔法陣を展開しつつ敵の拠点方向へと移動した。
〈中級剣技スキル ネオスカイギアドライブ〉
ユージリンが魔法陣を帯びた剣を、横薙ぎに振ると、その剣筋から無数の歯車が現れ、高速回転しながら四方八方へと、敵目掛けて飛び出した。
元々現存していたスカイギアドライブの技に、ハピスの助言を受け、歯車の大きさと回転速度を上げ、敵の殺傷能力を高めたものであり、ユージリンの半オリジナル剣技となっていた。
「がっ!!!」
だが、技を放った直後のユージリンの足首に、鈍い痛みが走る。
足元を見ると、狼型の魔物が、ユージリンの足首に噛み付いていた。
通常、魔力を使った技の威力を上げるには、魔力操作を繊細に行いつつ、魔力量を増やす必要がある。
これには、威力が高ければ高いほど、発動までの時間がかかり、敵に対策を講じられる場合や、射撃系の技の場合、照準位置から逃げられる可能性がある。
ユージリンは、この欠点を補う為、本来は広範囲技であるスカイギアドライブから放たれる歯車の数を減らし、威力だけを上げる事により、以前と変わらない発動時間を実現していた。
しかし、数を減らした事により、攻撃判定から漏れてしまう敵も出てしまうのが欠点となり、今回は、背の低いテイムされた狼型の魔物がすり抜けてしまっていた。
「このぉ!!」
〈初級格闘スキル ラウンドキック〉
ユージリンは地面を蹴り、身体を浮かせた状態から身体を回し、噛みつかれた足で回し蹴りを放つ事で、遠心力を使い狼型の魔物を振り払った。
そのままバク転で体制を整えつつ、剣を拾い構えると、周りの状況を確認した。
(増援か!剣使いが9、いや10人…それに、狼が6匹と、テイマーが2人。)
顔を半分傾け、ゴンガの方向を確認すると、魔法陣を展開しつつ、4人の敵を相手に、一人で奮闘していた。
(こいつらをゴンガの方へ向かわせるわけには行かない!)
ユージリンは再び魔法陣を展開すると、テイマーと狼を惹きつけつつ、剣を持った増援部隊を迎え撃つ為、更に拠点方向へと進みだした。
彼らの戦いの音を掻き消すように
遠くからは爆発音が未だ鳴り響いている




