えぴそど193 嫌悪を連れ
「ダリア様、どう致しますか。」
麻薬の栽培場に着いたダリアと兵は、その広大な敷地の至る所から放たれる、魔力の塊が爆発するのを見つめている。
爆発の影響により、麻薬を栽培していた土はえぐられており、尚も続く爆発で、次々に商品が駄目になっていく様を、ただただ見つめるしかなかった。
「………だりぃ…」
既に作業員達は少し離れた場所に集められており、犯人探しの為、逃げられないように管理者達によって、手足を縛られている。
そこへダリアが近付くと、縛られてはいない、フットプリンツの農園管理者達の表情が強ばる。
「だ、ダリア様。今日のギルドから雇った連中はこれが全てです。人数の増減も無く、全員揃っています…」
報告した男は下げていた頭をゆっくりと上げるが、ダリアの冷たく見下ろす視線に恐れを抱き、再び頭を下げ、ただ地面を見つめ沙汰を待った。
「…………」
ダリアは捕まっている冒険者登録者達を見渡すが、特に不審な点は無い。
「ダリア様、これを。」
兵の一人が、土が付き、所々破損した筒を持ちダリアに駆け寄る。
「………」
「これらの魔力を放っている物と思われます。おそらく、この農園の至る所に埋め込まれている可能性が。爆発前に掘り出すのは不可能かと。」
ダリアは筒を兵に返すと、頭を下げ続けている、農園管理者に再び近付いた。
「なぁ、なぁなぁなぁ!」
「は、はいぃぃ!!」
「この数の異物が地面に突き刺さってるのによぉ、なーんで気付かねぇのかなー?」
管理者達の冷や汗は止まらず、雨と共に地面へと落ちていく。
「なんか言えよ。なぁ、誰がやった?」
「あ、あわ、わわわわわ…」
ダリアの問いにも、恐怖で顎がガクガクとなってしまい、まともに返答すら出来ない状態になる。
「………まぁいい。」
その言葉に、頭を下げつ続け、目を見開いたまま地面を見つめる管理者達の喉が、ごくりと鳴る。
次の瞬間
『ゴッ!』と言う鈍い音と共に、先頭に居た管理者の首から上が飛び、少し離れた場所にある、草木が生い茂る場所へ消えていった。
「ひっ!!!」
ダリアのひと蹴りで、いとも簡単に人体が破壊されてしまった光景を見て、冒険者達は短く悲鳴をあげ、震え上がってしまう。
冒険者達の目には、白目も無く、眼球全てが真っ黒になったダリアの姿が映っており、あたかも鈍く輝いている様にすら見えていた。
尚も頭を下げ続ける他の管理者達も、身体があからさまに震えだし、中には漏らしてしまう者も居た。
「今も爆発が続いているのを見るに、時限式のものでしょう。魔法陣の形跡はありませんので、既に仕掛けた者は近くに居ない可能性がありますね。」
「……まぁ、そうだろうな。どちらにしろ、このままじゃここは全滅だ………そう、ぜ・ん・め・つ・だ!!!あぁぁぁぁクソがぁぁぁぁ!!!」
ダリアが頭を掻きむしりながら苛つく姿を見て、管理者や冒険者達とは違う者も、同様に恐怖を感じていた。
それは、管理者の頭が飛んで来た場所に隠れているクランクだった。
(ひー、めちゃくちゃやばい奴だったー!あぶねー!あんな奴に見つかったら一瞬で死んじまう!)
クランクは両手で口を抑え、草木で身体が隠れる様に身をかがめつつ、飛んできた頭を足で遠ざけながら、隙間から様子を伺っていた。
(あんなやべぇ奴らが来る前で本当に良かったぜ…)
クランクはナットとワッシャーと別れた後、この栽培場に到着すると、作業員に混じり作業をするフリをしつつ、筒にある留め具を次々に外して行き、中に水が入る様にしていった。
埋まっている場所は、予めユージリンからメモを渡されており、決められた順番に手際よく準備をする。
最初の爆発が起こった際、混乱に乗じ、この場所へと逃げ込み身を潜めていた。
(ん?おいおいおい!)
クランクが見つめるその先、ダリアが何かを指示すると、兵士達が剣を抜き、管理者や冒険者達を次々に斬り殺していってしまった。
頭を下げていた管理者は元より、手足を縛られた冒険者達は抵抗も逃げる事も出来ないまま、ただただ無残に惨殺されていく。
クランクはその光景を見るや否や、地面と身体の接地面を増やし、様子を監視するのも止め、ただただこの時が終わるのを、じっと身を潜めてやり過ごすだけだった。
「……ループ、キープ。」
「「はっ。」」
ダリアが雨で濡れふやけた扇子を捨てながら兵を呼ぶと、返り血を雨で洗いながら、二人の兵がダリアに駆け寄る。
「緋猫の狙いは十中八九ラボでしょう。あそこが落ちるとは思いませんが、念の為、資料を全て持ち出し、この場を焼き払います。ここを放棄しなさい。」
「「はっ。」」
ダリアは作業に掛かる兵士を横目で見つつ
眼前に転がっている死体を踏み潰した




