えぴそど191 空虚に拗れ
「じゃぁ俺はバールにこの事を伝えて来るから、クランクとナットは打ち上げを頼んだよ。」
「あぁ、任せろワッシャー、ど派手にやって、とっとと逃げて見せるさ。」
「ワッシャーこそ、途中でこけたりするなよ。バールにも言ってやれ、お前が一番心配だってな。」
「ははっ!分かったよ!じゃぁ行ってくる!!」
雨が滴るゴーロンの街の一角、裏路地を進んだ人気の無い場所で、若い冒険者達3人は身を潜めていた。
その内の一人が風属性の魔法を使いながら走り出すと、猛スピードで路地を駆け抜けて行き、あっという間に姿が見えなくなっていく。
「…でもよ、本当にこんなもんで陽動なんてできるのかねぇ。」
「確かに、イオ魔鉱石だっけ?確か、子供の玩具だったな。」
「まぁ、失敗しても俺達の所為じゃないしな。気軽に楽しもうぜ。」
「あぁ、そうだな。よっと!」
クランクはそう言いながら立ち上がると、大きな鞄を担ぎ、屈伸を始めた。
「じゃぁナット、俺もちょっくら麻薬を木っ端微塵にしてくらぁ。」
「クランク、お前の持ち場が一番危ないみたいだからよ、本当に気をつけろよ?」
「だーいじょーぶだぁーって。あの人数の人足を雇ってりゃ、一人くらい増えても分からねぇさ。」
「それでもだよ。」
「OK、OK。じゃぁな!」
クランクとナットは手を合わせると、互いの身体を強く抱きしめ合った。
そして、クランクが走って行く姿を見届けたナットは、時計と地図を取り出すと、ユージリンが配置した筒の位置を再度確認する。
「水は200mlずつ…はぁ…この雨がそのまま使えりゃなぁ…」
ナットは口をへの字に曲げながら空を一度眺めると、顔に付いた雨水を取り払い、鞄を担ぎ走って行った。
◇
「い、如何でしょうか…」
しゃがんだ状態のダリアは、木箱に詰められた魔鉱石を手に取り、一つずつ入念に確認していく。
「………純度は問題無さそうですね。お前達、全ての石を確認していきなさい。」
「はい。ダリア様。」
その言葉を聞くと、ワルファースを中心とした商人達は『ふぅー』とばかりに緊張の糸を切らせ、手で熱を帯びた顔を扇いだ。
ダリアの連れてきた面をした異様な服装の兵達は、残りの石を確認し、終わった物から外へと運び出していく。
「で、では、残りは60kgですね。恐らく2~3日中には取り揃えられると思います。」
「ええ、正直驚きですね。昨日今日の話で500kg近くも手に入れるとは。これだけあればひとまず問題はありません。ですが…ワルファース殿…」
ダリアは立ち上がると、振り返りワルファース達を見下ろした。
「まさか、手に入れる宛があったにも関わらず、手に入りにくいと金額の釣り上げを要求してきたのですか?」
「な!?め、めめめめ滅相もございません!!こ、これは根気強く交渉していた大口を卸す商会が、わ、私達の熱意に折れ、安く売ると言ったからでありまして、け、決してそのような事は!!!」
ダリアが扇子を勢いよく開くと、ワルファース達は一気に顔面蒼白となり、目を見開いたまま固まってしまう。
また、石を運び出していた兵士達にも、一瞬で緊張が走った。
「……まぁ、良いでしょう。」
扇子を再び閉じると、興味を無くした様にワルファース達から視線を外し、雨が降り注ぐ、薄暗いゴーロンの町並みを映す窓に向かって歩き出した。
ダリアの後ろからは、金塊が詰まった鞄を持った兵士がワルファースに近寄り、それを渡す。
「豚も叩けば空を飛びますか。ともあれ、これで最低限の……ん?」
その瞬間、街の景色が俄に明るくなったと感じると、直後に轟音が鳴り響いた。
「雷…ではないですね…?」
更に複数の火の玉が空へ向け昇ると、破裂するかの様に爆発し、先程とは比べ物にもならない程、大きな閃光を帯びた光線が四方八方へと伸びる。
「ぐっ…お前達!敵襲の可能性がある!!警戒体制をとりつつ、イルミナ石からさっさと運び出しなさい!」
「はい!!」
「ダ、ダリア様!あれを!」
ワルファースが指差す方向を見ると、麻薬栽培を行っている栽培上の方向でも、複数の光弾と爆発が見受けられた。
「クソ猫め、回りくどい事を……あーうぜ………一班!紅梟様の元へ石を運び、同時に増援を頼みなさい!途中襲撃の可能性もある!二班からワープを連れて行く事!」
「「「「はい!」」」」
「二班!私に付いて栽培場の敵を蹴散らちます!」
「「「はい!」」」
「三班!ここに留まり、周辺の確認を行いないなさい!何かあれば私にすぐ報告に来る事!いいですわね!敵を見つけた場合は残らず駆除なさい!」
「「「はい!!」」」
「分かったのであればすぐ動きなさい!さぁ!早く!」
ダリアの号令により、兵士達は蜘蛛の子を散らす様に慌ただしく動き出すと、その姿を見ていたワルファースが不安を漏らす。
「て、敵!?ダリア様!敵が来ているのですか!?」
「……ご安心下さい、狙いは私達でしょう。念の為ここにも兵は置いてゆきます。勝手に出歩かぬ様に。」
冷たい視線で見下ろしながら放つダリアの言葉を聞くと、ワルファースは無言で何度も頷いた。
そして、店から出て馬車に乗ると、ダリアは勢いよく扇子を広げる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!しょうもねー事してくれてんじゃねーか!ボケカスがぁ!!!ぶっ殺してやる!!!!」
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次話から戦います




