えぴそど190 閃光に乱れ
「よし、番号!」
ボツボツと大粒の雨が降り注ぐ草原の一角。
背の高い草木に身を潜めたハピスは、後ろを振り向くと小声でありながらも、勢いのある声で言う。
「1…」
「え?なに?え?えーと、2?」
「さ、さん!」
「ゴ、ゴンガ!声が大きい!」
ハピスの後ろには、ユージリンとゴンガ、更に若い冒険者の一人、バールが居た。
「おっけぇ、揃ってるねーじゃぁ、手筈通り進めちゃいますかー」
ハピスが雨除け用のマントを脱ごうとすると、ユージリンが慌てて止めに入る。
「ちょ、ま、まだですよハピスさん。勝手に始めないで下さい。」
「えー?違った?おら、早く奴らをぶっつぶしてーぞ!」
目を輝かせ両手をぶんぶんと振るハピスを見て、ユージリンは少し可愛いと思いつつも、溜息を吐いた。
「兎に角、まだです。どこが手筈通りですか。全然違いますよ。」
そう言うとユージリンは横でしゃがんでいるバールの方向へと身体を向ける。
「バール、君達には本当に感謝している。ありがとう。」
「おいおいユージリン。まだ作戦は終わってねーし、成功するかも分からねーんだろ?」
「それはそうだが、この先は本当に危険だ。これが最後の別れになるかもしれない。だからこそ今、改めて言っておきたかったんだ。」
ユージリンはそう言うと握手を求め、バールに向かい手を差し出す。
バールはその手をパチンッと払うと、微笑みながらユージリンの肩を組む。
「そんなつれない事を言うなよ。金の依頼は昨日で終わっちゃいるが、ここからは俺達自身の希望で参加してんだ。一緒に戦って、勝利を祝う酒をまた奢ってくれよ。」
その言葉にユージリンは口元を緩め『ああ、分かった』と返すとバールと抱き合い、お互いの士気を高めた。
その後方から更にもう一人、ユージリン達の居る場所へと身を屈め走って来た。
「はぁ、はぁ、はぁ、バ、バール。来た!例の女が店に入ったぞ!」
走って来たのはバールの仲間のワッシャー。
彼は取引を終えたオーランの魔鉱石を店に運ぶのを手伝い、それを受取に来たダリアが店に入るのを監視し待っていたのだった。
「よし、クランクとナットへは?」
「伝えてる!あいつらも準備OKだ!」
「だとよ、ユージリン。」
「分かった。ワッシャー本当にありがとう。これで動ける。」
「あ、ああ。それじゃ俺は街に戻って配置に着くよ。」
「じゃ、俺はあっちだな。」
「そだねーでもバールたん、ワッシャーたん、危なくなったらまじで本当にガチですぐに逃げてね。」
「ああ、了解だ、乳がでっかいねーちゃん。」
「逃げるのは得意だ。任せてよ。」
そう言うとワッシャーは来た道を再び身を屈め走って行き、バールは大きな袋を抱え別の方向へと走って行った。
「ハピスさん、後は、クランクの合図を待つだけです。」
「んーなんやかんやこの短時間で事が上手く進んだねー」
ハピスが再び前を向き直すと、その目線の先にはフットプリンツの拠点が見える。
雨の中とはいえ、外には充分な見張りの数が出ており、中には魔物と思える獣を従えたテイマーらしき姿もあった。
「あ、あの数に、こ、この三人で突っ込むだか?」
「やっぱ多いよねー」
「はい。ですが、ゴンガやバール達のし掛けが上手くいけば、半数とまではいかなくとも、かなり減らせられる筈です。」
「は、半数だか…」
「はいはいーゴンゴン気負いしないーさっきも言った様に、私が先頭で突っ込むから、漏れた敵を二人で処理しつつ進んでくれたらいいからさ。」
「で、でもそれじゃぁせ、先生が危なくねぇが?」
「私は……まぁ、目的は敵の殲滅じゃなくて、あの施設にある装置の破壊だからさ!なんとかなるっしょ。それよか、あっちの方がやっかいだよねー」
ハピスが腕に付けた時計を確認していると、拠点の門が開き、装甲馬車の一団が出てくるや否や、猛スピードで街へと向かって行った。
「伯爵兵…繋がっていたのは予想通りですが、戦闘に加わるでしょうか。」
「120%来るね。私の勘がびんびこびーんでそう唸ってるよ。」
ヴィガルド伯爵の旗印を付けた馬車がゴーロンに向かい戻って行くが、戦闘が始まれば引き返してくる可能性は高かった。
「あと1分だ。くぅーもう少し早くあの伯爵兵が出てきてくれればなー」
そして間もなく、東の方角とゴーロンの街の方角より、突如として閃光が走り、轟音が数度鳴り響いた。
その後も曇天に覆われた雲に向かい、眩いほどの光が走ったかと思えば、すぐに耳を塞ぎたくなるほどの轟音が鳴り響き続ける。
三人は聴覚を維持する為に、両手で耳を覆いつつ、その時を待つ。
曇天の空に咲いたのは、大きな爆発の光だった。
ユージリンが商会の動きを追っていた夜、ゴーロンの街で、偶然見つけた店で見つけた魔鉱石を使った仕掛けだ。
この魔鉱石は魔力を溜め込む事ができる性質があり、また、一定量の水を染み込ませる事により、溜め込んだ魔力量に応じた爆発を起こす物だった。
光を伴う爆発と、音を出す特性から、主には魔物避けのものだったが、魔物に効果が得られる程の魔力を込めるには、時間とかなりの魔力量が必要になり、その使い勝手の悪さから、魔物避けとしては鳴かず飛ばずの石だった。
ユージリンは、ハピスの魔力を回復する薬を宛に大量に買い込むと、頑丈な筒の中に2つの石を詰め込んだ。
この筒は横から水滴が少しづつ内部にこぼれ落ちる様になっており、一定量に達すると、下に敷いた石だけが爆発を起こした。
更に、その力で上に置いた石を空へと打ち上げ、その際に蓋部分にある水袋を破ると、水を浴びた上の石が、上空で爆発する仕組みを作っていた。
「たーまーやー!」
「え?なにそれー(笑)」
「なんでも無いです。コースケにこの光を見たら、こう言うんだって聞いてたもので。」
「おもしろー次会ったら聞いてみる(笑)つか、こりゃー戦争になっても使えますなー!よっ!ユージリンの発明王!」
「平和の為に使われる事を祈っておきますよ。」
すると、轟音が未だ鳴り止まぬ中、俄に敵の拠点が騒がしくなり、馬車が用意されると、麻薬栽培が行われている方へ向け、敵の兵士達が半数近く向かい出した。
「よし!!ユージリン!ゴンガ!スタンバイ!あと2つ鳴ったら出るよ!!!」
「はい!」
「は、はいだぁ!」
空へと上がる2つの火の玉は
まるで花びらを咲かせるかの如く
巨大な閃光を纏い広がっていった
・
・
・
告知通り2021/6/21より月・火・水曜日の
週3日朝6時の掲載と今後はしていきます。
今後ともよろしくおねがいします。
 




