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泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる  作者: 青狗
殲滅☆大花火
183/258

えぴそど183 寒雨に流れ

アスタリア王国内北西部にある草原では、時折耳を塞ぎたくなる程の轟音が木霊していた。


黒い曇天からは、止むことのない雨が、一時の静寂すらも許さず耳に纏わり付く。


「はぁ…はぁ…はぁ………かはっ……ハピスさんは…はぁ…はぁ…あっちか……」


辺りには激戦の後を匂わせる様に、人と魔物の死体が無数に転がっており、流れ落ちた血は、地面を所々紅く染め上げている。


その中で、傷付きながらも剣を握り、立つ男の姿があった。


男の名前はユージリン。


剣闘士であった彼が、仲間達と別れハピスと共に旅を始めて既に8ヶ月が経過している。


旅の主な目的は、フットプリンツと呼ばれる組織の各地に出来た拠点を潰して行く事。


ユージリンにとって、フットプリンツはあまり関係の無いものだったが、ハピスの類まれなる戦闘能力を見込み、乞えば教えてくれるハピスに師事する為、半ば強引に同行していた。


しかし、相手は想像以上に巨大な組織だった為、各地に強固な拠点と、きりが無いほど多くの戦闘員を配置しており、一つの拠点に仕掛けるだけでも、ユージリンにとっては正に命がけのものだった。


その死にものぐるいで駆け抜けた戦いの日々は、ユージリンの戦闘能力を飛躍的に向上させていた。


「だ、大丈夫かぁ?ゆ、ユージリン。」


そんな満身創痍の状態で戦い続けるユージリンに、バシャ、バシャ、と音を立てながら一際大柄な男が近付いて来た。


「ゴンガ…良かった、無事だったか。」


ゴンガと呼ばれた男の手には、大きなしゃもじの様な鉄の武器が握られており、身体には幾重にも鎖が巻かれている。


「お、おいらは大丈夫だぁ。こ、これくらい、かすり傷だけんども、ゆ、ユージリンは、きつそうだぁ。そ、その目、見えるのかぁ?」


心配そうに見つめるゴンガに向かい、ユージリンは表情を緩ませ安心させる。


ユージリンの顔には大きく刃物で切られた跡があり、片目が完全に塞がっている状態だった。


「ありがとう。俺もこれくらい問題無い。それより、ハピスさんがあんなに先に行ってしまっている。俺達も急ごう。」


「んだぁ。せ、先生を助けなきゃ。い、行こうユージリン。」


二人は丘の先から聞こえる轟音に向かい、雨の中走り出した。



その五日前────



「よし!んじゃーユージリジリジリン!次のターゲットはここだー!!!」


酒場の一角で、ハピスは立ち上がると、酒を片手に、テーブルに置かれた地図に向かい指を差した。


「ジリが二つ多いですよハピスさん。」


ユージリンは干し肉を齧りつつ、その場所を確認し、何かをメモに取りながら、別の地図と照らし合わせている。


「せ、先生。お、おいら、おかわりしてもええかな。」


巨躯のゴンガは、椅子を二つ使ってもまだ尻がはみ出てしまう程太っていた。


「ゴンゴン~もう5回目のおかわりだよ~?医者の立場から言うと、君の暴食はこれ以上看過出来ないな~ま、別に良いんだけどね(笑)!!」


「あ、ありがとうだぁ先生!」


嬉しそうに店員におかわりを頼むこのゴンガは、この旅の途中の森で出会った、流浪の冒険者だ。


ハピスとユージリンが最初に彼を見つけた時、ゴンガは森に囲まれた道の脇で、画面蒼白で泡を吹き死にかけていた。


ゴンガは持ち金を使い果たし、食べるものが無く、空腹に耐えかねるあまり生えていたキノコを食べてしまい、食中毒になって悶ている所を、運良くハピス達と出会う。


最初はスルーして進んでいたハピスだったが、ユージリンの説得もあり、その場で解毒薬を精製し介抱すると、ゴンガはみるみる間に回復した。


その後、何とか恩を返したいと、ゴンガが強く希望し、来る者拒まず気質のハピスが快諾した為、現在に至っている。


「んーこのナレーションというか説明って誰の声なんだろうね?」


「え?ナレーション?何のことです?」


「んーん。なんでもない。」


「それよりもハピスさん。さっき言ってた次のターゲットですが、ここはちょっと気をつけないとやばいです。」


ユージリンはテーブルに置かれた地図の上に、別の地図を重ねて置いた。


「なになに~やばいだなんて、ハピスちゃん興奮しちゃう~」


「ええ、やばいです。この位置はヴィガルド伯爵の領です。」


「日に日に私を冷たくスルーするユージリンも好きだよ?」


「領の中心からは離れているものの、主要都市に当たるゴーロンとこれだけ近い場所となると、ヴィガルド伯爵の息のかかった貴族と繋がりがあると考えても不思議ではありません。そうなると…」


「私達は王国の貴族も敵に回してしまう可能性があるか。いいね、いい人生だよ。」


「よくありません。」


「だよね~」


ハピスは烏賊を干して刻んだものを咥えながら、天井を眺めた。


「ま、どちらにしろ弐過変速型複写装置のパーツは潰していかにゃならんのだよ!それに加担していれば元より敵対するだけだし、杞憂のまま終われば尚良し!ね?ユージリンリン」


「リンが一つ多いですよ。まぁ、仕方ないですね。私はいつも通り付近の街の状況を探ってみます。」


「うんーじゃぁ私はアジトの詳細な場所を探してくるよ!」


「お、おいらは…」


「ゴンゴンはダイエットでもしてて☆」


「う、うぅ…」


「にゃははははは!」



ゴンガの悲しそうな顔を見て

ハピスは心底楽しそうに笑っていた

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