えぴそど182 領主ハゼルゼ・ランスター
「セシル、報告しろ。」
「はい!」
領主の言葉にセシルが立ち上がると、両足を肩幅に開き、右手で作った拳を左肩の辺りに付け、左手は腰に当て、やや左斜を正面にする形を取った。
よく分からないし見た事が無いので、この世界か、もしくは帝国か、はたまたこの地方独特の礼儀なのだろう。
そこからセシルは、今回の魔物討伐(ホットスポットの調査・破壊)の経緯と結果を話し始めた。
所々では盛った内容も詰め込まれているが、これは帰りの馬車の中で既にセシルから話されており、俺達も武勲が目的では無かった為、了承している。
ちなみに盛っている主な箇所としては、セシルが作戦を考え、更には馬車を守る為に向かってきたクリスタルウルフと応戦した事があげられる。
「ふむ、検分は残ってはいるが、あれは恐らくマンティコアで間違い無いだろう。良くやったぞセシル。」
「はい!!有り難きお言葉!!」
セシルは頬を赤らめらせ、目を輝かせながら返した。
「しかしだ…」
領主のその言葉に、セシルの表情は一瞬で曇ってしまった。
「いくつも問題を持たせてくれたぞお前は。」
「……はっ……」
「私が認を出したのは、騎士を伴わない非戦闘小隊の調査だった筈。スティンガーの同伴上、魔物に遭遇したとて、多少の戦闘戦闘行為は認めてはいたが…」
「………」
「あのマンティコアは、トレントの街を壊滅させ、アムドに居た帝国兵を蹂躙した魔物だぞ。それを我が領内で、しかもたったこれだけの人数で討伐してしまうなど…中央の耳に入ったら…いや、レベリオンの者達に知られてしまったら…」
「ハゼルぜ様、恐らくレベリオンには既に知られてしまっていると思われます。あれだけの大手凱旋。見逃しますまい。」
領主の側近と思われる、学者の様な出で立ちをした男がそう言うと、『だろうな…』と領主は頭を抱えた。
「も、申し訳ございません父上!」
「……まぁよい。この魔物は進行方向からするに、いずれ領内や街に被害を出していたであろう。それを未然に食い止めたとすれば、政治的な話しなどは小さいとも言える。」
その言葉にセシルは安堵したかの様に、目を伏せた。
「して、先程の傷付いていた者もそうだが、お前達だな、旅の者でありながら、セシルに協力したという武辺者は。」
領主がこちらを向き、明らかに俺とアルネロを見ている。
「は、はい。」
俺はとりあえず膝を突き、頭はまだ若干下げたまま返事をした。
「楽にしろ。ギルドも介さず無給で挑むとは、セシルになにか弱みでも握られたのか?」
その言葉に、俺の後ろに居たアルネロが小さな声で『まかせる』と呟いた。
俺は顔を上げ、領主を見返しながら、応える。
「いえ、セシル様とは不思議なご縁で、ご一緒させて頂く形になりましたが、決して脅されたり強要されている訳ではありません。」
「そうか。そなた等の3人は、相当に活躍したと聞いてる。この街の安全にも繋がる行為だ。スタンレー領の領主として、深く感謝をさせて頂く。」
「えと、はい。ありがとうございます。」
「ギャレッド、彼らも万全では無いだろう。医師や回復魔法が使える者を宛てがい、休ませてやれ。」
「はっ!ハゼルぜ様!」
「セシルとスティンガーはここに残れ、別途話しがある。他の者は退室して構わん。」
「はい!」
「はっ!」
そうして俺達は広間を出て、セシルの側近に連れられ医者の手当を受けた。
────
────
────
「これは成功でいいのかアルネロ。」
病院のベッドに寝ているグリカを見つめ、少し疲れた様子のアルネロに俺は聞いた。
「……ああ。セシルのめんつもたもてたであろうし、わたしたちのようきゅうももんだいなくとおるだろう。」
答えたアルネロには覇気が無い。
「なんだ?なにか気になる事でもあるのか?」
「……このまちにレベ……いや、なんでもない。だいじょうぶだ………すこし、つかれただけだ。それより、きさまのからだはもんだいないのか?」
「え?ああ、手の傷は魔法で治してもらったし、それ以外は特に…あ、いや、3日後くらいに筋肉痛が出るかもしれないのが怖いけど。」
「ははっ…おっさんだなゴミは。」
「うるせぇ。」
正直な所、老いて身体にとって一番の恐怖は時間差の筋肉痛だ。
「落ち着いたら、ヤッパスタを探して結果報告してやらないとな。心配してるかもしれないし。」
「……やつはしんぱいどころか、よいつぶれてるのではないか?」
「まぁ…充分ありえるけども。どうせ酒場に居るだろうし、そのまま一緒に酒でも飲んでくるよ。アルネロはどうする?ここに居るのか?」
「……いや、いっしょにいこう。うさばらしにとうぞくをぶんなぐりたい。」
「いや、何のうさだよ。可哀想すぎるぞ……じゃぁ、とりあえず行こう。」
俺の差し出した手をアルネロが取り
病室から出て街へと向かった




