えぴそど181 凱旋デモクラシー
「おぉぉぉ!!!」
「なんだありゃ!でけぇ!!」
「すげぇぇぇ!!」
「セシルぼっちゃまー!ばんざーい!」
大歓声の中、俺達は岩山のホットスポットの探索を打ち切り、ジャンカーロに帰ってきた所だ。
街頭には、兵士では抑えきれない程の街の人間が集まっており、その人の波を掻き分ける様に、俺達の乗った馬車はゆっくりと進んでいく。
馬車の先頭には、身を乗り出すように堂々と剣を掲げ、民衆に姿を見せるセシルが立っている。
(ちなみに馬車と言っても、魔鉱石で進む車の様なタイプなので、前方に踊り場が設置されていた。)
更にその後ろでは、マンティコアの巨大な頭が、スティンガーの大剣に突き刺したまま高々と掲げられている。
そうして、街のちょうど中心辺りにまで来ると、馬車が止まり、セシルが馬車の柵に足を上げ、皆に向かって叫んだ。
「見ろ!これがあの勇者様を苦しめた凶悪な魔物!マンティコアだ!スタンレー家嫡男であるこのセシル・スタンレーの指揮の元、側近達が一丸となり、三体の内二体を見事討ち取ったぞ!!」
ツッこみたい所はいくつかあったが、数をごまかしている訳では無いし、ここはそっとしておこう。
「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
セシルのその言葉を聞いた民衆達は、更により一層大きな歓声をセシルに浴びせ、しまいにはセシルコールまで始まってしまった。
俺達はあまり目立たない様に馬車の中から出てはいない。
そもそも、アルネロもグリカも戦いの傷が癒えておらず、かなりグロッキーだ。
グリカに関して言えば、撤退中に追ってきた魔物の迎撃も買って出ており、何気に誰よりも傷を負っていた。
あのスティンガーですら、街に入る直前まではかなり苦しそうだった為、今は仮面を被り表情を消している。
一頻りセシルを讃える時間が過ぎると、馬車は再び進み出し、セシルの住む屋敷が見えて来る。
「やっとここまで来たな。グリカ、アルネロ、もう少しだぞ。」
「……アカーシャとよべといってるだろボケ…」
「ご、ごめん。忘れてた。」
「それに、このままいえにもどるとはかぎらんぞ。」
「ん?どういうことだ?」
その直後、馬車は屋敷を素通りし、道沿いに進みながら城の方向へと進んで行った。
「ふーやれやれ。」
仮面を取ると、随分と疲れた表情を浮かべながら、スティンガーが中に入ってきた。
「城に着くまで少し休ませてもらえる事になった。」
「えと、というか城に向かってたんですねこれ。」
「ああ、理由はいくつもあるが、そもそも、調査について領主に許可を貰っている事が大きい。ナマゴ…おっと、コースケが持ち帰ったマンティコアの頭は、成果としては十分過ぎる報告となるだろう。」
「領主と言うと、セシルさんのお父さんですか?」
「そうだ。スタンレー地方を統括する、ランスター家の現当主、ハゼルゼ・ランスター様だ。なに、安心しろ。ハゼルぜ様はセシルと違い、とても聡明なお方だ。」
「それを聞いて安心しました。てか、そんな事言ってもいいんですか?」
「ははっ、ここだけの話に留めておいてくれ。」
そんな話をしていると馬車が止まり、小窓から見上げると、城の真下に到着しているのが分かった。
「よし降りるぞ。」
スティンガーの後について、グリカをおんぶした俺と、アルネロも馬車を出る。
城とは言っても、王様が住むような絢爛な物では無く、防衛拠点と言う方が正解な程、無骨で機能的なレンガで出来た建造物だった。
「おい、お前達!歩けるか!」
セシルが俺達に向かい声をかける。
「はぁ、まぁなんとか。でも早く治療に専念したいかもですね。」
「分かっている。だが、お前達が居なければ説明が付かんのだ。もう少しだけ辛抱してくれ。」
「了解です。」
セシルは俺達の戦いを見た後、態度をかなり軟化させている。
下民と呼ぶことも無く、馬車に獅子型の頭を持って帰った時には、俺の事を驚くほど褒めちぎっていた。
それだけでは無く、アルネロやグリカの手当を率先して行うなど、根底では決して悪い奴では無い。
そして、案内されるままに広間に通されると、そこには多くの兵と、中央に幾つもの勲章が付いた軍服を着ている男が立っている。
どう考えても、中央の彼がここの領主だ。
「拝礼!!!」
セシルの号令に、俺以外の全員が膝を付き、頭を下げた。
「え!?え!?」
「……コースケ、領主の前だ。膝を付き頭を下げろ。」
俺がグリカを抱えたままあたふたしていると、セシルが立ち上がりゆっくりと近づき、グリカを支えながら小声で言ってきた。
「よい!セシル!その者は怪我人を抱えているではないか!救護兵を呼べ!何をぼさっとしている!すぐに手当にかかれ!」
「はい!父上!」
俺は近付いて来た兵士達にグリカを預けると、アルネロに視線を移した。
アルネロの怪我も軽くは無い筈だが、アルネロはこちらを見たまま首を小さく横に振った。
そのまま顎で促され、俺は前を向くと皆と同じ様に膝を付き頭を下げる。
グリカが運び出され扉が閉められると
何とも言えない緊張感がある静寂が
辺りを包み込んだ




