えぴそど179 居残りマンティコア
アルネロはマンティコアと距離を取ると、既に展開を終えていた魔法陣を手に纏い、地面に向け水玉を転がす様に投げる。
みるみる内に、水玉の通り道が氷り始め、アルネロの前に滑走路を作り出す。
同時進行で鉄甲を変形させ、既に別の魔法陣を開き、鉄甲に風属性の魔法を詰め込んで行く。
（くっ…）
魔力が切れかかっている事を知らせる、激しい頭痛と脱力感がアルネロを襲うも、手を止める事無く別の魔力を今度は杭に向け溜め込む。
「こなくそぉ！！！！」
その一方で、スティンガーは大剣を盾の様に身体の前に構え、マンティコアに一直線へと突っ込んでいた。
マンティコアもここまでの戦いで、二人の力量を完全に見切っており、大きく避ける素振りは無く、最小限のステップでスティンガーの突進を避けると同時に、側面より爪を振りかざした。
（かかったな！！！！）
スティンガーは避けられた瞬間、大剣を手放すと、マンティコから見えないように作っていた魔法陣を開放する。
〈中級魔法 チェインアップアンカー〉
マンティコアの足元に広がった魔法陣から、無数の鎖が飛び出し、足や翼に絡みつく。
地面と繋がった鎖は、スティンガーの両腕にも巻かれ、暴れるマンティコアを地面へと抑える様に、スティンガーは目一杯鎖を引っ張る。
「ボォォォォォォォォ！！」
「よ、よし！いけるぞ！」
スティンガーの作戦が上手くいったと思われた瞬間、マンティコアが予想以上に強く魔力の鎖を引っ張った事で耐久を上回り、右前足の鎖が砕けてしまった。
「くそっ！！」
そのままマンティコアは唯一開放された右前足を振り上げ、高速でスティンガーに向け振り下ろす。
「まだだっ！！」
スティンガーは足元に捨てた大剣の柄を足で踏みつけ、畳返しの様に剣を起き上がらせると、肩を支えに大剣の背に身を入れた。
「ボォォォォォォォォ！！」
マンティコアの爪は大剣に食い込み粉々にすると、そのままその後ろに居るスティンガーに刺さってしまう。
「ぐぅ……はは…はははっ！こ、これで！お前は終わりだ！」
スティンガーは咄嗟に自身の足にも鎖の魔法を使っており、身体に刺さったマンティコアの爪を抱き寄せ掴むと、マンティコアは再び地面と繋がり拘束される形となった。
「ボウガァァ！！ガァァァ！！」
暴れるマンティコに対し、血を吐きながら必死にしがみつくスティンガーの耳には、既に何かが高速で向かってきている音が聞こえていた。
「頼むぜ！アカーシャ！」
「ああ！またせたな！」
〈虎流格闘スキル パイルバンカー〉
アルネロの放った一撃は、強い閃光と共にマンティコアの喉元に突き刺さり、首周りを完全に吹っ飛ばした。
「ぐっ………」
同時に、限界を迎えたアルネロも、その勢いのまま吹っ飛び、受け身が取れないまま、地面へと叩きつけられる。
支えを失ったマンティコアの頭部は、そのまま地面へと自然落下し、身体もそのまま横へと倒れた。
「はぁ…はぁ………だ……だいじょうぶか……スティンガー……」
アルネロは地面にうつ伏せに倒れたまま、スティンガーの方へと顔だけを向ける。
「ぐふっ………駄目だな。この傷じゃ、当分酒と女は楽しめそうにも無い。こいつは一大事だ。」
「ふっ…なんだったら、そのきずくちからさけをのませてやろうか………ぐっ！」
アルネロは歯を食いしばりながら立ち上がると、微笑みながら鉄甲から水と包帯を取り出し、スティンガーの傷の手当を始める。
アルネロの出血も少なくはなく、ポタポタと、地面へ血痕を残していった。
「しかし、どうするアカーシャ…もう、俺も……お前も戦えないぞ。マンティコアはもう一匹。それに…襲っては来ないが、他の魔物もあんなに集まっていやがる。」
「……もういっぴきは、ナマゴミにまかせて、わたしとスティンガーはばしゃまでさがる。いま、さいあくなてんかいは、ナマゴミについているマンティコアが、こちらへとむかってきて、やつのじゃまをすることだ。」
「ああ、そうだな。なら、ゆっくりはしてられない。行こう、肩を貸してくれ。」
「……おまえのような『大男』をささえられるとでも？」
「支える必要なんかねぇさ。いい女が近くに居りゃ、嫌でも笑って進めるだけだ。」
「……はっ、ほざいてろ。」
アルネロは柔らかい表情でスティンガーの太い腕を肩に担ぐと、互いに身体の痛みに顔を歪ませつつ、岩肌を進み、馬車へと向かった。
◇
『ギャリギャリギャリギャリ！』
俺の耳に聞いた事のある摩擦音が聞こえる。
すぐに振り返ると、半透明な鎖で繋がれた獅子型にアルネロが突っ込んで行く所だった。
そのまま獅子型の顔と胴体を切り離すと、アルネロもスティンガーもその場に倒れ込んでいる。
俺は様子を伺いながらも、獅子型の足を狙い、鎌化槍を振り回し続けていた。少しづつだが、避け方のパターンを掴み、時々、浅いながらも傷を付けられるようになっている。
「いつっ！」
しかし、その代償か、こんなにも長く鎌化槍を振り回した事も無いので、手の皮が剥け、血が滴り落ちていた。
振り向くと、アルネロもスティンガーも身体を起こし、包帯を巻いているのが見える。
「よし！！二人共無事だ！これで3対１！覚悟しろおっさん顔！」
俺は獅子型に対し意気込みながら攻撃を放つも、三人で戦う連携についてあれこれと考えていた。
（アルネロならあれか……いや、案外スティンガーが作戦を出して……楽しくなってきたな！）
そんな事を考えつつ、俺が再び二人の様子を確認する為に振り向くと、二人は肩を組みながら、馬車の方へと歩いて行った。
「おうふっ！ええ！？ちょまっ！ええ！？」
この時点で俺の居残り戦闘が確定した
