えぴそど174 取り囲むマンティコア
俺は炎に包まれたまま正面に走り込み、上空から見た獅子型の位置の辺りにまで来ると、鎌化槍を思い切り振り回した。
(くそっ!もう充分近付いた筈なのに!)
手応えは全く無く、尚も眩いばかりに光り輝く炎の渦の中に、俺は取り込まれている。
(避けられたのか!やばい……息が…)
走り続けた所為もあったのか、息を止めていた苦しさもあったのか、俺はよろけてしまい、斜面にあった岩に足をひっかけ転び落ちてしまった。
炎の渦からは逃れたものの、体中を岩肌にぶつけ、身体強化が無ければ、戦闘不能になっていたかもしれない。
獅子型は炎を吐くのを止め、ダメージを追っていない二体がこちらに向け、猛スピードで向かってきた。
(はっ…そっちの方がありがたいぜ。)
『ガキィィィィィ』
【経験値50を獲得しました】
『ガキィィィィィ』
【経験値50を獲得しました】
『ガキィィィィィ』
【経験値50を獲得しました】
大の字に倒れたまま、二体の爪と尾による攻撃を受けるも、強肉弱食により全て防ぐ。
撥ね退けられる度、警戒する様に距離を取る獅子型だが、追撃が無いと分かると、すぐにまた一気に近づき攻撃を繰り出す。
爪や尾によるダメージは皆無だが、すぐ眼前で巨大なおっさんの顔がどアップである事の迫力が、俺に精神的ダメージを与える。
(気持ちわりぃーんだよ!)
二体の挙動が揃った瞬間、準備していた〈小かま〉を俺は発動させる。
わずかなゆらぎが起こった瞬間、ゆらぎに近い方の獅子型は察知し、途端に翼を使い上昇する。
その直後現れた〈小かま〉は、ゆらぎから遠い方の獅子型を貫くも、咄嗟に回避行動に出た為、胴体の一部を貫くだけに留まり、致命傷にはならなかった。
聞いていた様に、この獅子型の魔物の速さは尋常では無い。下手したら、紫熊と同じ位の身のこなしだ。
「ふざ…けんなよ!」
俺は力を振り絞り、〈小かま〉が刺さり身動きが取れない獅子型の顔面に向け、鎌化槍を振り下ろす。
『ボゥォォォゥゥガァァァ!!』
おっさんの眉間に鎌化槍が刺さると、獅子型は俺に向かい無茶苦茶に攻撃を仕掛けて来た。
その動きはかなり鈍ってはいるものの、最初の一体と同じく、脳があるであろう部分を仕留めても倒れない。
ギャリギャリギャリギャリ!!
離れた所から、何かを強烈に引っ掻いている様な音が、高速で俺に近付いて来た。
〈虎流格闘スキル パイルバンカー〉
俺が鎌化槍を突き刺した獅子型の首元に、アルネロの鉄甲の巨大な杭が食い込む。
獅子型の頭部は胴体と離れ、大きく吹っ飛びながら血しぶきをあげていた。
「だいじょうぶかゴミ!」
「あ、ああ。転んだだけだ。」
「こていがいねんにとらわれすぎだ!よくみろ!」
アルネロがそう叫びながら、吹き飛ばしたマンティコアの頭を見ると、首筋の辺りから脳と思われる部位が垂れていた。
人面を模した分厚い頭の上部に脳があると思っていたが、どうやら太い首の中心部分が急所だった様だ。
「ご、ごめん…あ!!アルネロ!」
「ちっ!」
飛び上がっていた獅子型が炎を吐きながら下降を始める。
更に、最初に〈小かま〉を当てた獅子型も、動きは鈍いが、こちらに向け再度炎を放って来る。
アルネロは俺を置いたまま距離を取り、俺は再び炎に包まれた。
(またかよ!息が!)
〈中級大剣スキル ボアクラッシュ〉
俺のすぐ近くで巨大な爆発が起こり、爆風と共に一瞬炎から逃れた俺の身体を、すかさずスティンガーが抱きかかえ、獅子型から距離を取ってくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「大した奴だなナマゴミ!あれだけの攻撃を受けてまだ生きてるとはな!」
身体強化の効果が切れ、素っ裸になったおっさんの俺を、スカーフェイスで渋いおっさんが抱きかかえ走り、その二人を、気持ち悪いおっさんの顔を持った魔物が追いかける。
なんとも形容し難いおっさんの花園が生まれてしまった。
しかし、どうやっても獅子型の方が早く、このままでは追いつかれ、スティンガーが危ない。
「スティンガーさん!俺は大丈夫です!置いていって下さい!奴の攻撃は防げます!このままじゃ追いつかれるだけだ!」
「しかし…」
「いけます!俺よりアルネロを!」
「アルネロ?」
「あ、えと、アカーシャです!」
俺がアルネロを指差し、スティンガーが確認すると、アルネロが最初に攻撃した一体目と戦っている所だった。
〈小かま〉を食らわせてはいたものの、アルネロの攻撃を細かに避け、尚も攻撃を繰り出し、アルネロに出血が見られる。
「……承知した!離すぞ!」
「はい!お願いします!」
スティンガーは俺を離すと、そのままアルネロの方へと方向を変え、大剣を構え走って行った。
俺は追いかけてきた獅子型がスティンガーの方へと行かない様に、獅子型に向け突っ込む。
「っつ!!!いてぇんだよくそがぁぁ!!」
鎌化槍を構え、走りだす俺の身体は、岩肌に打ち付けられた所為で各所に激痛を走らせる。
「ボォォォォォォォォ!」
獅子型も咆哮しながら俺に向かい一直線に向かってくる。
俺達の戦いはこれからだ




