えぴそど172 親しみウォーリア
「おいゴミ、いくつだ。」
今、俺とアルネロは、セシルの侍従の一人スティンガーを連れ、道の先に居座る魔物を討伐しに向かっている。
アルネロから聞かれた『いくつだ』は恐らくレベルの事を指しているのだろう。
スティンガーが居る手前、俺がレベル鑑定出来る事を伏せてくれたと思われる。
「ん…」
俺は口には出さず、胸の前でアルネロにだけ見える様に『4』と『2』をつくった。
はっきり言って強い。
ガムルシンと呼ばれた、黒いネームドオーガが確か48だったはずだ。
この位のレベルとなると、一つ違うだけでかなり差があるが、今回は3匹が固まっている。
苦戦すると見て間違いない。
「そうか。ここからカマはとどくか?」
「いやーこの距離でも出来ない事は無いけど、ぶっちゃけポイントが少ないんだよな。」
そう、フットプリンツ戦まではそこそこ溜まっていた男気ポイントの事だ。
アルネロと一緒に狩りに出ていた時は、何かとぽんぽん溜まっていたのだが、アルネロと居ると全く稼げない。
「あとなんかいつかえるんだ。」
「全部で普通のやつは残り10回だ。問題は、最初の一体を仕留めたとしても、あれ位の強さになると、避けてくる可能性があるって所だな。」
「ふいをつくひつようがあるのか。」
「真正面からは厳しいかもな。」
「なんだ?何か必殺技でも持ってるのか?」
俺とアルネロが話していると、スティンガーが入ってきた。
「あ、ああ。魔力で作った鋭い剣先を飛ばすスキルを持ってるんですけど、使用回数にシビアで避けられる可能性があるんですよ。」
「そうか、さっきも言った様に、マンティコアはただでも素早いと聞くからな。ここ一番で使うべきだろうな。」
「そう言えば、スティンガーさんは、その、なんで侍従をやってるんですか?」
俺はせっかくの機会なので、スティンガーの素性を調べようとした。
「ん?なんだ、何かおかしいか?」
「いや、おかしいとかでは無いですけど。その身なりや立ち振舞い、大きな剣を見る限り、有名な冒険者か騎士の方だったのかなって。今はセシルさんの用心棒だと思ったんですが、どうも違うようなので。」
俺がそう言うと、スティンガーは含み笑いをし、岩山の麓、眼下に広がる森を見つめた。
「まぁそんな所だ。元々は帝国剣士だったんだがな、派閥争いというか、俺にもガキの頃からライバルみてぇな奴が居てよ、そいつに結局負けちまって燻ってたんだ。」
「そこからセシルさんの所に?」
「いや……その後、そいつが急に理由も明かさず冒険者になりやがってよ。負けたくない一心で俺も軍を辞め、冒険者になったって訳よ。」
見た目通りと言うか、何と言うのか、負けず嫌い感はひしひしと伝わる。
「冒険者になってからしばらくは順調に行ってたんだがな、ある依頼任務中にしくっちまってよ。罪人となり処刑されそうな所を、セシルの祖父に拾われ、命を救われた義理がある。ま、ただの恩返しだな。」
「見た目は歴戦の戦士って感じですもんね。」
「そんな大したもんじゃねーさ。結局、その後もそいつには勝てないどころか、今ですら差を付けられ続けてら。」
なんやかんや言いながら、スティンガーのレベルは34だ。
戦っている所を見ていなくとも、普通に考えて十分な強さを持っている事が分かる。
「その相手の方はさぞ強かったんでしょうね。」
「ああ。しかも、強いだけじゃない。人望もかなりあったからな、兵を率いての戦いも連戦連勝だった。奴に挑むには、俺に足りないものが多すぎたのかもな。」
「なんか、男って感じっすね。」
「ははっ、照れくさくなる様な事を言いやがるなナマゴミは。」
すっかり忘れてたが、俺の名前がいつの間にか生ゴミになってたんだった。
まぁ、そんな事より、恐らくこの人昔はかなり尖ってたに違いない。
だが、話してみると、見た目とは裏腹にとても話しやすく、初見のとっつきにくい印象が完全に消えてしまうほど、俺は居心地良く会話を重ねていた。
「ちなみにその人はなんて言う名前なんです?」
「あ?ああ、アズ・バ──」
「まて、もうちかい。おしゃべりをやめて、そろそろじんけいをくむぞ。」
アルネロの言葉で、名前までは聞けなかったが、聞いた所で帝国領の人の事など分からない。
俺とスティンガーは、和らいだ表情で相槌を打ち、歩みを止めた。
「スティンガーどの、さくせんはあるか?」
質問をしたアルネロの顔には迷いが無い。
恐らく、自分の中では戦いの形が既に出来てるのだろう。スティンガーに敢えて聞いた理由は、恐らく体裁を整えようとしているんだと思った。
「ふっ、いちいち気を遣うなアカーシャ。ここまで来たら全力で挑むだけだろう?」
「そうか。『杞憂』だったな。すまん。」
「謝る事じゃねーさ。アカーシャの指示通り動いてやる。盾役だろうが剣役だろうが、俺を好きに使え。」
「ふむ、わかった。まずはナマゴミがせんこうし、きづかれるかどうかのギリギリのきょりで、カマをつかえ。」
「ああ、分かった。もう準備はしてるからいつでも出せるよ。」
「よし、そのご、ナマゴミはのこりの2ひきにむけしょうめんからつっこめ。」
まぁ、これは仕方ない事だ。
俺だって本当は怖い部分はあるけど、二人と比べて死のリスクはかなり低い。強肉弱食がある俺が突っ込むのは妥当と言えば、妥当だ。
「さくせんは、いじょうだ。」
待て待て待てー!
「待て待て待てー!」
心の中の声がそのまま口から空気の振動を利用し発せられた。
「なんだ?」
「それ作戦なの!?合ってる?それとも俺の耳が大切な部分聞き逃してる?」
「うるさいな、きづかれるぞ。わたしとスティンガーははんたいからまわりこむ、やつのしかくをつきこうげきをいれる。きがそれたところできさまがカマをつかえばいいだろ。」
「う……まぁ、そういう事ならいいんだけど。」
「はやくいけナマゴミ。」
「わ、分かってるよ!もぅ!扱いが雑過ぎるぞ!」
俺は不満をだだ漏れにしながら
身をかがめ
マンティコアに更に近付いて行った




