えぴそど168 貴族ディナー
豪華な屋敷の前にまで来ると、馬車は止まり、多くの侍従と兵士の出迎えを受けていた。
俺達は兵士達から降りるように丁寧に指示され、後から降りてきたお坊ちゃんの後を付いて、屋敷の中へと案内される。
「おい、下民ども。」
何人もの侍従と話しながら先頭を歩いていたお坊ちゃんが、急に立ち止まり俺達の事を呼んできた。
「え?あ、はい。どうしましたか。」
「お前らの様な汚い様で客室に入れるのはまかりならんとの事だ。風呂を貸してやるゆえ、身を清め身なりを正して参れ。」
「あー、はい。ありがとう?…ございます。」
俺達は案内されるがままに男女別々に風呂につれていかれた。
「湯を上がられましたら、こちらにお着替え下さい。着ておられたお召し物は、差し支えなければこちらで洗濯致します。」
「あ、はい。ご丁寧にありがとうございます。」
俺とヤッパスタはメイドさんに渡された真新しいシャツ等を受け取り、風呂に入った。
案内されたのは客人様の風呂らしく、充分豪華ではあるが、普段から使われている様な雰囲気は無かった。
その後も、ブツブツと不満を言い続けているヤッパスタをなだめながら風呂から上がり、メイドさんに案内されるがままに個室へと入る。
「本日はこちらのお部屋をお使い下さい。」
ヤッパスタとは隣同士だが、別々に個室を用意してもらった。荷物をひとまず置き窓から外の様子を見る。
かなり広い庭があり、歩いてでも行けそうな距離に中央の城が建っているのが見える。
「お連れの方の入浴が終わり、お食事の準備が整いましたらお呼び致します。何かあれば部屋の外に人を立たせておきますので、ご遠慮無くお申し付け下さい。」
「あ、はい。何から何まですみません。」
メイドさんと入れ違いにすぐにヤッパスタが部屋に入ってきて、一緒に用意された紅茶を呑んで待っていた。
「あのお坊っちゃんの態度からは想像が出来ない程にしっかりした応対だな。」
「それはそうっすけど、でもやっぱり好かねーよ旦那。あいつら見てるとなんだか無性にイライラしちまう。」
きっとこれは、ヤッパスタの性分では無く、俺は神の呪いが関係している気がしていた。
あくまで仮説だが、今までの両国間の人間と接して来て考えていた事がある。
もしかしたら、お互いの国の人間を憎む呪いと言うのは、全くきっかけが無い状況から起こるものでは無く、今回の様に不信感が湧いた際に増幅されるものなのかもしれない。
天照の塔の近くにあった街の人間と一緒に酒を飲んだが、ヤッパスタが今の様に苛ついている様子は無かった。
逆に言うと、一度この状態になったら手を付けられなくなる可能性が高い。
それが人族だ魔族だの、勇者や魔王などの戦いに繋がっている気がする。
ヤッパスタにもこの仮説をやんわりと伝え、自重する事を強く押しておいた。
「とにかく俺達が王国の者だってバレたら大変な事になる。そもそも、それ以前にこんな貴族階級の人間と揉めるとそれこそ一大事だ。大人しくしておいてくれよヤッパスタ。」
「……旦那の頼みなら聞くしかねーけどよ。」
「ヤッパスタ、ちゃんと言葉にしてくれ。」
「分かった分かった、分かったよ旦那。俺も大人の男だ。ガキの言う事に振り回されず耐えてみせるぜ。アルネロ嬢の事もあるもんな。」
「ありがとうヤッパスタ。頼んだぞ。」
そうしてヤッパスタと話しをしていると、扉がノックされ、準備が整ったと食事に案内された。
広間に入ると、あのお坊っちゃんが侍従を引き連れ鎮座している。
「少しは小綺麗にしたか下民。俺様と食卓を囲える事を光栄に思い、後世まで語り継いでも良いのだぞ。」
「あ、はぁ…こ、光栄です。」
「そっちの大男の不服そうな顔は気に入らんな。言いたい事があるのなら言ってみろ。ほれ、遠慮なく言ってみろ。」
「………いや、何もねーよ。」
全面にイヤイヤ感を満載に振りまいているヤッパスタが頑張っている。
何とか話を逸し、どうやってヤッパスタから標的を外すかを考えていると、扉からアルネロとグリカが入って来た。
「ふんっ、獣人も混じっていたのか。まぁいい、これで揃ったな。料理を持て。」
「はっ!」
俺達は丸いテーブルに、お坊っちゃんと若干距離を取った形で横並びにそれぞれ座り、料理が運ばれて来るのを待った。
「下民ども。せっかくだ、俺様直々に名前を聞いてやろう。名乗ってみろ。」
「私は康介と申します。」
「……ヤッパスタだ……」
「アカーシャです。」
「グ、グリカなのです。」
「そうか、俺様はここジャンカーロを含めたスタンレー地方を治めるランスター家が嫡男、セシル・ランスターだ。まぁ、お前らの様な田舎の下民に家名を言っても分からんだろうがな。」
予想はしていたが、まさにこの土地のトップの息子だった。言うなればジャクシンさんと同じ様な立場だ。
「時に、お前らはどこを目指している。」
その言葉に俺はアルネロと目を合わせる。
「とくにもくてきはきまっておりません。そのとちとちをまわり、けんぶんをひろめているところです。」
「は?今なんて言った?もっとしゃきしゃき喋れないのか獣人は。人の言葉が喋れないのなら獣と変わらんぞ。」
この言葉に、ヤッパスタから一瞬で強烈な殺気が出たが、俺は即座にヤッパスタの腕を掴み、立ち上がろうとするのを止める。
「もうしわけございません。ぼうかんにシタをきられており、おききぐるしいはなしかたとなります。おゆるしを。」
アルネロはそう言うと、口を開け、先が無い舌を見せた。
正直な所、なぜアルネロが舌足らずな喋り方なのかを今まで誰もツッコまなかった。
だが、話が繋がる。
きっとサブダブと言う男に切られたのだ。
俺だけでは無く、ヤッパスタもグリカも、アルネロを心配そうに見つめた。
「そうか。それはすまなかったなアカーシャ。良い。無いものを求める程馬鹿では無い。聞き直す事があるかもしれないが許せ。」
「めっそうもございません。おやさしきおことばと、かんようなおこころづかいに、かんしゃいたします。」
セシルのその言葉に、俺とヤッパスタは驚きの表情を見せる。
このお坊っちゃんの方向性が未だ掴みきれない。
「それにしても土地土地を巡るか。何処かに根付くつもりは無いのか。」
「いまのところございません。」
「そうか、勿体ないな。お前らほどの強さがあれば、我の所で近衛として雇ってやれるのだがな。下民からすればとても名誉な事だろ。」
「とてもこうえいなことではございますが、われらはじゃくはいもの。まだまだしらなければならないことがたくさんあります。」
「ふんっ、若輩者か…耳が痛いな……しかし、その強さを持ってして、おいそれと帰すのは勿体ない。」
セシルはそう言うと
不敵に笑った
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2021/5/5の投稿はお休み致します
GWください…。゜(゜´Д`゜)゜。




